地表からしみ込んだ雨水が長い間かけて地下へ浸透していくと、帯水層という水で満たされた空間ができる。このように地下にたまったり、流れたりしている水が地下水で、地下水が汚染されることを地下水汚染という。地下水汚染には、ヒ素などの天然に存在する物質が何らかの理由で流れ出して起こる自然由来のものと、人間の活動によって起きる汚染とがある。後者の場合、工場など有害物質を使用する事業所から有害物質が漏れて発生する場合が多い。地下水汚染の原因物質としては、揮発性有機化合物(VOC)、硝酸・亜硝酸性窒素、重金属類などがある。
VOCは自然の働きで分解されにくく、土壌に吸着されずに浸透していくと広い範囲で汚染を引き起こし、地下の深いところにまで汚染が及ぶこともある。硝酸・亜硝酸性窒素も土壌に吸着されにくく、広範囲の地下水汚染につながる危険性がある。一方、重金属類は土壌に吸着されやすく拡散しにくいものの、物質の種類によっては環境汚染を引き起こす場合がある。国は環境基本法に基づき、人の健康や生活環境を守るうえで維持すべき地下水の環境基準を、カドミウム、PCB、トリクロロエチレン、硝酸・亜硝酸性窒素など28項目について定めている。また、環境基準ではないが注意すべき物質を要監視項目として指定し、指針値を定めている。
地下水はいったん汚染されると広い範囲へ拡散しやすく、浄化や汚染源の特定が難しい。このため、早い段階での調査や対策を行って有害物質の地下への浸透を未然に防ぐことと同時に、原因物質の種類に応じた対策をとることが重要だ。水質汚濁防止法は、有害物質を含む水の地下への浸透を禁止しているほか、都道府県などによる常時監視と結果の公表、汚染発生時の浄化措置命令などについて定めている。2011年に同法が改正され、有害物質貯蔵施設の設置者に、施設の構造・設備・使用方法の届け出や構造基準の遵守などが義務づけられた。また、汚染土壌から溶け出す有害物質による地下水汚染を防ぐための法律として、土壌汚染対策法がある。
国内における地下水の汚染状況は、2009年度の環境省などの調査によると、4312本の井戸で実施した概況調査の結果、5.8%にあたる250本で基準値を超過した。また、1317本で行った汚染井戸周辺地区調査では16.6%にあたる219本で基準値を超え、4775本で実施した継続監視調査では4割を超える1984本で基準値を超えた。物質別にみると、過去5年間で環境基準を超過した井戸のある市町村がVOCについては全市町村の23%を占め、硝酸・亜硝酸性窒素については同31%、重金属等については同22%を占める。
2011年3月に発生した東日本大震災により被害を受けた東京電力福島第一原子力発電所事故に関連して、放射性物質による地下水汚染が心配されている。このため、同社では遮蔽壁を建設して地下水の海への流出を防止する方針を明らかにしている。