2025年4月25日より全国公開された「異端者の家」。スタジオA24が新たに仕掛ける異端の脱出サイコスリラーの本作。公開前に試写で観た本作の感想を紹介(以下、ネタバレを含みます)。
映画「異端者の家」のメイン写真 / (C) 2024 BLUEBERRY PIE LLC. All Rights Reserved.
【ストーリー】
純朴なシスター・パクストン(クロエ・イースト)と冷静なシスター・バーンズ(ソフィー・サッチャー)は2人組の若いモルモン宣教師。布教のため道行く人々に声をかけるも、無視されるどころか酷いいたずらまでされる始末。馬鹿にされ落ち込むパクストンだが、バーンズに「あなたは最高」と激励され元気を取り戻す。
大粒の雨が振り出す中、彼女たちは森に囲まれた一軒家を訪れる。ドアベルを鳴らすと、出てきたのはリード(ヒュー・グラント)という気さくな男性だった。雨に打たれる2人を見て、リードは家の中で話そうと提案。男性だけの家には入れないと拒む2人だったが、妻がいると聞き安心して家の中に足を踏み入れる。
2人は神の教えについての説明を始めるが、天才的な頭脳を持つリードは「どの宗教も真実とは思えない」と持論を展開する。不穏な空気を感じた2人は密かに帰ろうとする。ところが玄関の鍵は閉ざされており、助けを呼ぼうにも携帯の電波はつながらない。
教会から呼び戻されたと嘘をつく2人に、「帰るには家の奥にある2つの扉のどちらかから出るしかない」とリードは言う。信仰心を試す扉の先で彼女たちに待ち受ける悪夢のような「真相」とは。そして、2人は異端者の家から脱出することができるのか…。
■ユニークな役で新たな魅力を開花させているヒュー・グラントの怪演に注目!
本作の監督・脚本を務めるのは、「クワイエット・プレイス」(2018年)の脚本で注目を集め、イーライ・ロス製作の「ホーンテッド 世界一怖いお化け屋敷」(2019年)やアダム・ドライバー主演のSFサバイバル「65/シックスティ・ファイブ」(2023年)のメガホンを取ったスコット・ベック&ブライアン・ウッズ。
初監督作品の「ホーンテッド 世界一怖いお化け屋敷」は、6人の大学生たちがハロウィンの夜に本物の殺人鬼が作ったお化け屋敷に足を踏み入れるという内容で、“ものすごく怖い”というわけではなかったが、ホラー映画としてそれなりに楽しめたのを覚えている。
ホラーからSFまで幅広く手掛けるスコット・ベック&ブライアン・ウッズとタッグを組んだのは、名優ヒュー・グラント。
「ノッティングヒルの恋人」(1999年)、「ブリジット・ジョーンズの日記」(2001年)、「ラブ・アクチュアリー」(2003年)などに出演していたころは“ロマンティック・コメディの帝王”と呼ばれていたが、近年の彼は「パディントン2」(2018年)でパディントンを陥れる落ち目の俳優、「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」(2023年)で主人公を裏切った過去を持つ詐欺師、「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」(2023年)で主人公からチョコを盗む謎の紳士ウンパルンパを演じるなど、クセ強キャラに次々と挑戦している印象がある。
そして本作では、宣教に訪れたシスターを並外れた頭脳で翻弄する謎の男リードを演じて新たな魅力を開花させた。
リードは一見、無害で大仰で気取らない紳士的な男性に見えるが、家に招き入れた若いシスター2人と宗教についての議論を交わしていくうちに、少しずつ“マンスプおじさん”の顔を見せ始める…。
もともとヒューはウィットに富んだ会話が得意な人で、「パディントン2」で来日した彼に筆者がインタビューした際には冗談ばかり言って答えをはぐらかし、“これまでヒューが演じてきた役と同じだ!”と感じた思い出がある(笑)。(真面目に質問に答えてくれることもあったけれど…)
そんなヒューのキャラクター性が、今回のリード役に存分に活かされており、そこが本作の注目ポイントの一つと言える。
【写真】ヒュー・グラントが演じるのは、宣教に訪れたシスターを並外れた頭脳で翻弄する謎の男リード / (C) 2024 BLUEBERRY PIE LLC. All Rights Reserved.
■若手俳優のホープ2人が演じるシスターのキャラクター性の違いに注目!
シスター・バーンズを演じたのは、スコット・ベック&ブライアン・ウッズが脚本・製作総指揮を務めた「ブギーマン」(2023年)でメインキャストを務めたソフィー・サッチャー。
スティーブン・キングの短編小説を映画化した「ブギーマン」もホラー映画で、ソフィーの“目ヂカラ”の強さが印象的だった。
そのほかにも、飛行機の墜落事故で遭難した女子サッカーチームのサバイバルを描いた人気ドラマ「イエロージャケッツ」や「スター・ウォーズ」に登場する賞金稼ぎのボバ・フェットを主人公としたスピンオフドラマ「ボバ・フェット/The Book of Boba Fett」などで注目を集める期待の若手俳優。
本作では、ベテラン俳優のヒューを相手に堂々とした演技を披露。議論を交わしていく中でリードの怪しさに気づいたシスター・バーンズが、リードの罠にハマらないよう頭をフル回転させながら質問に答えていく姿にドキドキさせられた。
シスター・パクストンを演じたのは、俳優デビュー作のHBOのドラマ「トゥルーブラッド」(2008年)、スティーヴン・スピルバーグ監督の半伝記映画「フェイブルマンズ」(2022年)などに出演しているクロエ・イースト。
シスター・パクストンはおとなしそうな雰囲気を放っていて、リードに対して最初からものすごく気を遣っている様子を見せる。
リードに騙されて家に閉じ込められたと知ってからは、逃げたい一心で自分の信念を曲げそうになるパクストン。そんな彼女を応援せずにはいられないし、“自分だったらパクストンのようにリードの機嫌を損ねないように慎重に動くよな”と共感してしまうキャラクターだった。
正反対な性格のシスター2人が、恐ろしいリードと命懸けの心理戦を繰り広げていく緊張感が味わえるのも本作の大きな魅力。
ソフィー・サッチャー演じるシスター・バーンズ(写真左)、クロエ・イースト演じるシスター・パクストン(同右) / (C) 2024 BLUEBERRY PIE LLC. All Rights Reserved.
劇中には宗教にまつわる難しい単語も飛び出すが、リードはファストフードやボードゲームのモノポリー、レディオヘッドなど比較的誰にでもわかりやすい例えを用いて解説してくれたりもするので安心してほしい。
また、パク・チャヌク監督の「オールド・ボーイ」(2003年)や「お嬢さん」(2016年)、エドガー・ライト監督の「ラストナイト・イン・ソーホー」(2021年)などの名作の撮影を担当したチョン・ジョンフンが本作の撮影監督を務めており、独特で美しいカットの数々も本作の注目ポイント。
ちなみに本作は単なる監禁ホラーではない。シスターたちが脱出する方法を見つけた先に、また別の恐怖が待ち受けているのだ。どんな展開になるのか気になった方は、ぜひ劇場でチェックしてほしい。
文=奥村百恵
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