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第10回 「革新的エネルギー・環境戦略から何を読み取るか?」荻本 和彦 氏

  • 2012年11月16日
  • 緑のgoo編集部
J-POWER エコ×エネ・カフェ

革新的エネルギー・環境戦略をどう読むか

それではここで、国民的討議を受けて作成されたと言われている革新的エネルギー・環境政策について説明しましょう。

エネルギー・環境会議
革新的エネルギー・環境戦略
革新的エネルギー・環境戦略.pdf

革新的エネルギー・環境政策(目次)
 1.原発に依存しない社会の一日も早い実現
 2.グリーンエネルギー革命の実現
 3.エネルギー安定供給の確保のために
 4.電力システム改革の断行
 5.地球温暖化対策の着実な実施

実際に政府から発表されたものを見てみると、大きな方向性は示されたものの、具体的にこれからいつまでにどうすれば良いかということまでは示されていません。新聞などのメディアからは「どう解釈すれば良いのかが不明確だ」という指摘がありました。それに「原子力発電に依存しない」と言っても、使用済みの処理をどうするか、人材や技術をどう維持するかなどといった課題があるわけです。

原発に依存しない社会の実現に向けた5つの政策
1. 核燃料サイクル政策
2. 人材や技術の維持・強化
3. 国際社会との連携
4. 立地地域対策の強化
5. 原子力事業体制と原子力損害賠償制度


多くの資料を示し説明する荻本さん
多くの資料を示し説明する荻本さん
多くの資料を示し説明する荻本さん

原発ゼロのシナリオに移行する上では省エネが必要だと皆さんは考えますが、気をつけなくてはならないのは、「省エネは単に電力の消費を減らすということではない」ということです。もうひとつ「エネルギー全体の消費を減らす、あるいは海外から輸入する燃料を減らす」ということを考えていくことが必要になるわけです。

省エネについては取り組めることはいろいろあります。たとえば照明ははっきり見えるのできわめてわかりやすい例です。白熱電球をLEDに換えれば電球代を補って余りあるくらいの電気代の低減になり、コスト面でも採算が取れ環境にも良いのですが、世の中には非常にたくさんの白熱電球が残っています。省エネルギーはそういう点がむずかしいのです。

再生可能エネルギーの民間投資を誘発するために、国が固定買取制度を導入して、当面の間、一定の価格による買取を保証する制度はこの7月よりスタートしました。これによって、皆さんが屋根に太陽光発電機をつけると、10年もすれば元がとれるといった試算も出てきています。その他、公共施設や地域主導で再生可能エネルギーの導入を加速したり、老朽化した火力発電所を最新施設に置き換えてエネルギー効率を上げるなど、たくさんの選択肢が考えられます。

安価で安全なバッテリーが普及するまでは、太陽光発電や風力発電など発電量が変動する再生可能エネルギーが導入される場合には、エネルギーの安定供給のためには、火力発電が必要となります。需給調整力と燃料費の問題を考えると、ベース電源としては柔軟な運用が可能な石炭火力発電を基盤に持つことが有効になります。このように、化石燃料の安定的かつ安価な確保は引き続き重要な課題で、そのほとんどを海外からの輸入に頼っているわけですから、外交などの要因にも影響されることであり、幅広くいろいろなことを考慮にいれて検討しなくてはならないのです。

電力システムを見直すということ

日本の場合は発電、送電、配電を一括して地域の電力会社が担っていますが、海外の多くの国ではこれが分離されています。これは再生可能エネルギーへの転換を図る上で必要なことと見なされてもいますが、実際に発電と送電の分離を実現したヨーローッパ諸国は、両者をバラバラにしたことで接続や管理上の問題が生じて苦労しているという実態もあります。エネルギー政策は国家の基盤システムに関わることですから、そもそも何を目指すのか、その実現には今までと違って何が必要となるのかなど基本をしっかりと押さえた議論をしなくてはならない、難しいことなんですね。

国民的議論を受けて

森:  「脱原発依存の一日も早い実現を目指す戦略が発表されたわけですけれど、よく読むと、2030年代に明確に原発をゼロにするとは書かれていない訳ですよね」

荻本: 「いろいろな報道もなされていますが、具体的なことはこれからというのが実態です。日本では原子力発電所事故がありましたので議論が少しトーンダウンしたように見えるかもしれないですが、世界ではCO2の削減が環境エネルギー分野の最大の課題であることは何も変わっていません。では実際にどう進めて行くかということですが、今後の総選挙で政権がどうなるのかが見えてくるまでは、具体的なことは動かないだろうとも言われています。」

藤木: 「現在J-POWERでは東北の被災地で生ゴミコンポストを使った支援活動をしています。生ゴミは80%以上が水分ですから、それを燃やしてゴミとして処理する代わりに、微生物の力を使って肥料として活用しようというわけです。今までガソリンや軽油を使って、燃焼処理するのが当たり前だった社会のシステムを見直して、エネルギーの消費量を落としていくというような視点を持つことも必要になりますね。それから、さきほどのクイズにありましたが、1兆kWの発電を風力ですべて賄うために23万基が必要ということで、仮に1kmごとに4基設置で計算してみたところ、日本の海岸線だけでは足り無くなってしまう。すごい数字だなと思いました」

荻本: 「理論的にはいろいろな選択がありますが、何が最適なのかということを、今だけではなく20年後、40年後と先を不確実性、新たな可能性を含めて見据えて考えていくことが必要ですね。時代と共に技術やモノの相対的な値段も変わってきますから、数年ごとに見直しながら進めていくことになるでしょう」

森:「革新的エネルギー・環境戦略には、具体的な答えは示されてはいないけれど、大きな方向性や、考えなくてはならない様々な課題がほぼ網羅されているということですね。難しい話が続きましたが、これを受けて、これから私たちも実際にワールド・カフェを通じて考えてみようと思います」

白熱のプレゼンテーションを終えてワールドカフェへ
白熱のプレゼンテーションを終えてワールドカフェへ
白熱のプレゼンテーションを終えてワールドカフェへ

荻本さんからのお話の後は、テーブルごと自由に意見を交わす対話の場、「ワールドカフェ」の時間です。三つのテーマに沿って、カフェの時間がいよいよスタートです。国のエネルギー戦略に関わる大きな話の概要を掴んだ今、どのような対話が展開されるのでしょうか。


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