今回のゲストはエネルギー・電力システムやスマートグリッドについて研究している荻本和彦さんです。エネルギー技術の専門家として、また、エネルギーの未来について、政府や企業などと連携をはかりながら研究を進める学者として、国内外の情勢を含め幅広い視点からエネルギー問題に取り組んでいる荻本さん。今年の夏に開催されたエネルギー政策を巡る国民的議論にも専門家の立場から参加しました。今回はエネルギー政策の見直しにあたってどんなことが議論されたのか、そこにはどのような課題があり、その成果として策定された「革新的エネルギー・環境戦略」をどのように読み解いていけば良いのかについて、包括的にお話を伺います。
3月11日の東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故を受けて、日本のエネルギーを取り巻く状況が大きく変化しました。2010年お国のエネルギー基本計画によると、CO2を削減するために、原子力による供給を発電量の全体の約5割にする想定があったのですが、東日本大震災を受け、今後のエネルギー政策をどうしていったら良いか改めて見直す必要が出てきました。とはいえ、エネルギーの基本方針を変えるというのは非常に大きな話で、10年や20年で抜本的に変えていくというのは容易なことではありません。
環境省の検討では、2050年に二酸化炭素排出量の80%削減を実施するためには、最終エネルギー消費を40%削減し、再生可能エネルギーを50%導入することが必要だと試算しています。2050年というと遠い先のように思いますが、20年後の姿を考えるためには、もっと遠い未来のことまで含めて考えなくてはならない関係があります。
具体的な選択肢を考えるために、一年半前の震災の少し後に私が作成した資料がこちらです。
原子力の利用をどの程度にするのか、再生可能エネルギーをどの程度導入するかを組み合わせた電源のミックスをかんがえるためにいくつかのシナリオをつくりました。
各シナリオにはそれぞれ良い点、問題となる点があります。太陽光や風力の場合は、本当に導入が進むのか、また一日の中でも発電量は天気の状態により不確定であるなど安定供給の面で課題がありますし、原子力発電からの供給量が減少する場合には、中短期的には化石燃料を用いた発電の依存度が高まらざるを得ません。石油など海外から輸入する原料の使用が増えるということは、燃料調達にかかるお金が高くなるということです。現在はそれを電力会社の貯金を切り崩してなんとか対応しているわけですが、来年以降はそれも厳しくなるでしょう。そうなると、その分のコストは皆さんの電気代に跳ね返らざるを得ない状況になるわけです。
エネルギー問題は発電だけではなく送電も含めて考える必要があります。先ほどのクイズでは、日本の農地の1/3を太陽光発電にあてれば年間に必要とされる総発電量を賄えるという話がありましたが、それはあくまでも発電に限った話で、それを実際に「使う」となると、電気は蓄えておけませんし、安定した電気を送り届けるうえでの問題もありますので実際には難しい課題を解決する必要が出てきます。いろいろな人の意見を聞いていると、100%を再生可能エネルギーで賄おうという声もあります。それはいつかの未来にはできるようになるだろうとは思うのですが、2030年に原発ゼロのシナリオを選択となると、実際には大半を天然ガス、石炭、石油に依存せざるを得ないでしょう。
再生可能エネルギーを利用する場合、安定供給のためにかかる発電抑制量も増えてきますので、それもコストの上昇の原因となります。
原子力を全て無くすという選択の場合、年間の発電費用における燃料費の増加は約3〜4兆円と言われています。火力発電で全て賄う場合はCO2排出量の増加という問題もあります。新設の火力発電所で新技術の導入によりCO2の低減を図る場合でも、新設火力は設備代が高いことや、さらには、将来的に再生可能エネルギーの導入が順調にゆけば、火力発電の稼働率が低下するため、火力発電所を新設してもその設備費を回収できない企業もでてくるのではないかとも言われています。つまり、再生可能エネルギーの比率をあげると、再生可能エネルギー発電自体の設備投資が高くつく。火力発電の比率をあげると設備費は減るけれど燃料費とCO2排出量が増える。なかなか都合の良い答えはないと言うことなんですね。