サイト内
ウェブ

第11回 「サイエンスリテラシーから見たエコとエネ」古田ゆかり 氏

  • 2012年12月25日
  • 緑のgoo編集部
J-POWER エコ×エネ・カフェ
「リテラシー」の意味とその役割

森: ところで先ほどのクイズで「リテラシー」という言葉の意味について質問したのですが、何が正解か、もしくはその問い自体がどうなのか含めて説明していただけますか?

古田: 「それを自分で考えるのがリテラシーでしょう」というのは意地悪な答えですね(笑)、正解は「全部」です。知っていた方がいいこともあるし、正しい知識を持って、自分で判断するということ、そして判断にあたって自分が持っている情報が正しいかどうかを吟味すること。過去は正かったかもしれないけれど、今の価値観ではどうか、自分の生活に照らし合わせると正しいかもしれないけれど、社会全体でみたらどうなのかといった視点を持つことも大切だと思います。

森: リテラシーにぴったり合う日本語がないということでしょうか?

古田: リテラシーという言葉の元々の意味は「読み書き能力」、つまり識字力のことです。書かれていることをある程度理解し、それを使い回すことが出来ること。メディアリテラシーならばメディアがどう書かれているかを理解し、これが恣意(しい)的な誘導になっていないか、何故そう書かれているのかの背景を理解することが大切です。社会の常識を知らずに「これが正しい」とい言っている科学者の言葉を鵜呑みにするのもどうなのか、とか、そういった文脈も含めて、「リテラシー」という言葉はいろいろな意味で使われています。リテラシーを持つことが自分を守ったり、より良い社会を作ったり、時間的にも物理的にも遠くにいる人(将来世代や遠方に暮らす人)にとって良い社会を作ることにもつながるのではないかと思います。

エネルギー問題を考える

原発やエネルギーの問題は深刻だし、みんなで考えようとよく言いますが、「みんなで考える」とはどういうことなのでしょう。エネルギー政策については、政府の用意した「2030年にむけた3つのシナリオ」というのがあります(国家戦略室「話そう”エネルギーと環境の未来”」http://www.sentakushi.go.jp/scenario/)。
問題はこの資料をみて何をどう考えるのかということです。原発が嫌だからゼロを選ぶのか、原発は安全と考えるから25%を選ぶのか、どちらか尖った選択をして議論をふっかけられても困るから間を取って15%を選ぶのか・・・。そもそもこの数字もどういう根拠からの提示なのかと政府の発表資料をもとに考えてみました。

各シナリオにおける発電構成
各シナリオにおける発電構成
話そう”エネルギーと環境の未来”〜2030年にむけた3つのシナリオ〜

このグラフを読むと、ゼロシナリオの場合は、火力が増えて再生可能エネルギーが35%に、15シナリオの場合は再生可能エネルギーが増えてゼロシナリオよりもCO2の排出量が減ります。ですから、なんとなく読んでいると15シナリオに誘導したいのかなと読み取れなくもないと思いました。ゼロシナリオの場合は火力発電でCO2がたくさん出るけれどいいですか、25シナリオは原発が本当に安全で事故が起きても大丈夫になっているでしょうか、など、こういういった状況をどう読み解いていけばいいのかは微妙なところだと思います。パブリックコメントでは70%以上の人びとがゼロシナリオを支持しました。それはどういう根拠でしたのか。こういうものを読んで意見表明を行う人とはそもそも原発反対の立場の人が多いのではないかという見方もありますよね。考察のポイントは何なのかを考えてみることも大切だと思います。

さまざまな視点の存在

そもそも、先ほど示した資料で理解が出来るのかという点もありますし、裏にはどういうことが隠されているか、切り口は本当にそれだけか、ということも考えていかなくてはならないと思います。「シナリオを決める際のキーワードが、国家戦略室のホームページで示されていますので見てみましょう。

国家戦略室「話そう”エネルギーと環境のみらい”(http://www.sentakushi.go.jp/search/)より
国家戦略室「話そう”エネルギーと環境のみらい”(http://www.sentakushi.go.jp/search/)より」

いろいろなキーワードが出ていますね。こうしてみると、原子力の専門家なら原子力の安全性についての知識は豊富かもしれないけれど、国際貢献についてはどうなのだろう。環境の専門家は温暖化については強いかもしれないけれど経済についてはどうなのだろう。そんなふうに、知識にばらつきがあることを前提に、いろいろなことを理解していかなくてはならないのだと思います。安定供給が大切だけれど、もし紛争が起こったらどうなるのだろう、再生可能エネルギーは美しいものであるように語られることが多いけれど、コスト面ではどうなのか、立地や送配電の問題は?

あるいは自然エネルギーはコストの問題ばかりが強調されているけれど、リスクは本当にないのでしょうか。バードストライク(鳥が構造物に衝突する事故)の問題、レアアース(希少類元素)の問題などもありますよね。そういうことまで分かっていないと、太陽光発電がどういうものなのかということを本当に議論することが出来ないにも関わらず、そういうことまでは書かれていないな・・・というようなことに気つき、想像できるようになっていることが必要なのだと思います。

バードストライクについては、風車に鳥がぶつかることが問題だと指摘する人がいますが、ビルにぶつかる鳥もいるわけですから一概に、「鳥が死ぬから問題だ」という前に、定量的な考察もあるべきなのかもしれません。それぞれのキーワードがあることを知るだけではなく、そのキーワードそれぞれに隠れた背景についても理解しながら、国際情勢、経済、技術のレベル、日本の責任のような話も含めて考えていかなくてはならない。そういうことを考えるためのキーワードに自分自身で少しでも思いが至って、それがどういう問題を抱えているかを想像できるか、その上で自分で考えをまとめていけるかということが、エネルギーについてのリテラシーの発揮のしどころではないでしょうか。

原子力発電に関しては、もう既にたくさんの使用済み燃料の廃棄物が出ているという現実を踏まえてみんなで考えていかなくてはならない問題です。高レベル放射性廃棄物をガラス固化してステンレスの容器に入れ地層に埋める実験が行われています。こういう課題があるということを理解しておくことも、また大事なことです。


キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。

記事の無断転用は禁止です。必ず該当記事のURLをクリックできる状態でリンク掲載ください。