サイト内
ウェブ

第11回 「サイエンスリテラシーから見たエコとエネ」古田ゆかり 氏

  • 2012年12月25日
  • 緑のgoo編集部
J-POWER エコ×エネ・カフェ
ゲストトーク:「サイエンスリテラシーから見た、エコとエネ」

今回のゲストはサイエンスリテラシーをテーマに活動している古田ゆかりさんです。古田さんはサイエンスカクテルという自主グループを主宰して、科学と社会の学びを結びつける活動を展開しています。「サイエンスカクテルという名前には、いろいろな美味しいものをまぜて綺麗なものをつくろうという願いが込められています。エコとエネだけではなく、政治も生活も、社会も、みんながそれぞれつながりを持っていますよね。科学を通じて、そんなことを複合的に考えていけたらいいなと考えています」。ここからは、古田さんからの話題提供の時間です。

サイエンスカクテルのホームページ
サイエンスカクテルのホームページ
ゲストの古田さん
ゲストの古田さん
「科学技術」とは

「今朝、目を覚ましてから今までの間に科学技術を使いましたか?」と皆さんに尋ねると、「たくさん使っている」という答えが返ってきます。けれどもその科学技術は一体誰が作っているのでしょう。誰が選択しているのでしょうか。技術を研究・開発した人たちがいて、私たちはそれによって作られた製品を買って使っているわけですが、使っている私たちの側は何を理解する必要があるのでしょうか。製品の安全に関することはメーカーがすべて考えてくれるというような気持ちで本当にいいのでしょうか。今日はそういったことについて、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

商品のメッセージを理解しているか

皆さんが使う洗剤の裏には「混ぜるな危険」という表示があると思いますが、この意味を知っている人はどれくらいいますか? 塩素系のものと酸素系のものを混ぜると有毒ガスの塩素ガスが発生します。以前それを知らない人がこの二つを混ぜて使ったために生命を失うという事件が起こりました。

また、ドラッグストアには数え切れないほどいろいろな種類の洗剤が売られています。ラベルに従って、「フロア用」「台所用」「レンジ用」というようにそれぞれの場所に応じたものを買わなくてはならないのかというと、決してそうではありません。それぞれの場所に付きやすい汚れに応じて、洗剤メーカーは少しずつ成分にアレンジを加えていますが、台所用のものでお風呂の汚れが全く落ちないか、といったらそんなことはありません。主成分が同じものも少なくないのです。パッケージの表に書かれたことよりも、むしろ裏側の成分表などを見て欲しいと私は思います。「これを使えばキレイに汚れが落ちる」とキラキラ光った映像を見せて宣伝をしているコマーシャルを信じて使っていれば本当にいいのかということをメーカー側にも、使う側にも考えて欲しいと思うのです。

無害の殺虫スプレー?

「無害の殺虫スプレー」というキャッチコピーを聞いたことがありますか?

実際に約3年前にそういうことをうたった画期的な商品が販売されました。マイナス40度のガスを噴射することによって虫を殺す殺虫剤です。正式には薬剤で殺すわけではないので殺虫剤とは言えないのかもしれません。この商品は、「殺虫成分が入っていないので無害」ということが画期的で、赤ちゃんがいる家庭でも、食品がおいてある台所で使っても大丈夫と言われて、年間の売上げ目標を2カ月余りで突破する程のペースでものすごく売れたそうです。ところがこの商品は発売から僅か3カ月ほどで突然販売中止になりました。

何故でしょう?

噴霧剤が可燃性だったというのがその理由です。商品が企画・開発されて発売されるまでの間に、「可燃性の噴霧剤が入っているのだから煮炊きに火の使われる台所で使用されたら危険ではないか」ということを指摘できる人がひとりもいなかったのかと、私にはとても不思議でなりませんでした。商品を作る側の社会や生活に対するリテラシーも問われていると言えるでしょう。

ゲストの古田さん

正しく情報を理解する

「科学的な装い」をまとって、信憑性の低い言説をもっともらしく見せようとすることを「ニセ科学」と言います。例えば「以前、医薬品売り場の店員さんから「この機械から、ナノというものが出てくるんですよ」という説明を受けたことがあって、「そういう言い方をするのか」ととても驚いたことがありました。「ナノ」とは、単位における接頭辞の1つで、10のマイナス9乗を表すことばです。長さならナノメートル、重さならナノグラム、いろんな単位に付きます。ちなみに10のマイナス6乗は、マイクロです。つまり、ナノというものが存在するのではなく、もしこの説明がほんとうだとしたら、その機械から、ナノレベルの大きさのなにかが出てくる、と言いたかったのかもしれません。それに、その物質がなんなのか、どういうものなのかなどは、いっさい語られません。

しかし、科学的で、ちょっとはやっていて、それらしい雰囲気のする「ナノ」という言葉を使うことによって、あたかも「すごい機械なんですよ、すごい効果があるんですよ」と語るのは明らかに騙しの要素が入っていると思います。


水に「ありがとう」と声をかけるときれいな結晶ができるというような話もあります。反対に「ばかやろう」というと、汚い結晶ができるというようなことを写真入りで解説した本まで出ています。科学的にはまったく根拠のない話です。
しかし、それがなんと、今は小学校の道徳教育にも使われているそうです。科学者や、科学教育にたずさわる人たちの間で大きな問題になり、「ニセ科学に騙されないような人材育成をしよう」と大きな動きになりました。毎日、テレビで放映されている血液型性格判断も、科学的な根拠が必ずしもある訳ではありません。科学がすべてをわかっているわけではないにしても、物質の基本的なことさえ理解していれば、当然「ありえない」と気づくような情報が世の中に流布しています。そういう情報を鵜呑みにした結果、根拠のない高額商品を購入させられたり、その結果自分の生命や財産を守れなくなるというような危険性もあります。

他にも気をつけなくてはならないことがあります。たとえばIHクッキングヒーターは「火を使わないから火事にならない安全な加熱器」と思われているところがありますが、必ずしもそうではありません。
IHクッキングヒーターはうず電流によって鍋の中に電気抵抗を起こし、それによって熱をおこすという仕組みになっています。加熱効率をあげてセンサーを働きやすくするために、底が平面な鍋でなくては使えません。器具に適した鍋を使わないと、鍋の温度が上がっていてもセンサーが感知せず、油が自然発火するようなことも起こりうるわけです。
このように、正しく情報を理解しないで安心して使っていると、思わぬ危険に巻き込まれることがあります。

グラフをきちんと読めますか?

雑誌や新聞で使われているグラフや表にも注意が必要です。強調したい点を大げさに見せるためにスケールを大きくしたり、面積を大きく見せるために斜めに傾けたデザインに加工表示されているようなケースがよくあります。情報を印象で見るのではなく、きちんと作られているかと考えて見ることが大切です。

文部科学省が奨励している標語に「早寝、早起き、朝ごはん」というものがありますが、そのグラフをみると、すべての教科において「早寝、早起き、朝ごはん」を励行している子どもの成績がいいと示されています。
早寝、早起きをしてきちんと朝ごはんを食べているかどうかと、教科の成績の相関関係があったことは事実なのでしょう。けれども「早寝早起き朝ごはんを励行すれば成績があがるのか」、早寝、早起き、朝ごはんと成績の間に因果関係があるのでしょうか。深読みをすれば、そういうようなきちんとした生活をしている家庭の人は他のこともきちんとしている、だから成績がいいというような論理なら成り立つのかもしれませんが、あたかもそこに直接の因果関係があるような表現は誤解を招くので、私はやめた方がいいなと思います。


キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。

記事の無断転用は禁止です。必ず該当記事のURLをクリックできる状態でリンク掲載ください。