自然の中で体を動かしたいと考える人が多くなる中、山中などの舗装されていない「トレイル」と呼ばれる道を走る「トレイルランニング」という競技の愛好者が増えている。米国が発祥の地であるといわれるこの競技の醍醐味は、起伏があり障害物も多い未舗装の山道を、自然環境や景観を楽しみながら走り抜けるところにある。略して「トレイルラン」や「トレラン」と呼ばれることもある。似たような競技に、「マウンテンランニング」や「クロスカントリー」などがあり、対象とする路面やルールなどが少しずつ異なる。
自然の道を走るトレイルランニングは、米国や欧州などで人気を博しており、団体や協会が設立され大規模な大会も開催されている。日本でも、日本トレイルランニング協会が組織され、全国に地区協会がある。2014年には、(公社)日本山岳協会の呼びかけにより、「日本トレイルランニング会議」(トレランJAPAN)が設立された。このほかにも、トレイルランニング競技の普及を図ることを目的としたネットワーク団体や、愛好者のためのポータルサイトもある。
国内でトレイルランニング大会が開催されるようになる一方で、そのコースが自然豊かな国立公園などに設定されることに対する批判は少なくない。自然公園法は、国立公園での走行そのものを禁止していない。しかし、同法に基づく公園計画において、歩道とは、読んで字の如く徒歩による利用を前提としており、走ることを想定してはいない。このため、一般利用者による歩行の妨げになることや、自然環境への影響などを懸念する声が出始めた。歩道を維持管理する側からも、適正な管理の妨げになるとの指摘がある。
こうした状況を踏まえて、環境省は、2015年3月31日に「国立公園内におけるトレイルランニング大会等の取扱いについて」と題する通知を、各地方環境事務所長に宛てて、国立公園課長名で発出した。一部で、トレイルランニングを規制する指針が策定されるという報道もあったが、そうではなく、大会を開催する際の注意事項や指導のポイントなどをまとめたものだ。なお、国立公園内をコースに開かれるトレイルランニング大会やイベントなどを対象としており、個人によるランニングは含まれない。
同通知は、コース設定にあたって、特別保護地区や一部の第1種特別地域内を通過するコース設定を避けるよう指導するよう求めている。また、脆弱な区間がある場所やガレ場、傾斜地に当たる場所などをコースに含めないことや、踏み荒らしを防ぐための防止柵の設置など、自然環境への悪影響や事故を防ぐための指導を求めている。このほかに、野生生物への影響を回避するため専門家やNPOなどの意見を聴くこと、十分な事前調整の実施、モニタリングの実施などが必要であるとしている。