私たちは、家庭での日常生活やオフィス・工場での仕事などを通じて多くの水を使い、使用後に汚水として排出している。こうした汚水は下水道管を通って下水処理場へ送られ、スクリーンなどで大きなゴミや石・砂などが取り除かれた後に最初沈殿池へ送られる。ここで時間をかけて汚水が流される間に、砂や泥などの汚泥が沈殿する。沈殿処理を終えた汚水は生物処理槽へ送られ、微生物を含む活性汚泥の働きで有機物が分解される。そして、最終沈殿池で活性汚泥が取り除かれた後に、塩素などで消毒されて川へと放流される。この下水処理の過程で発生する汚泥を下水汚泥という。
最初沈殿池や最終沈殿池の底にたまった汚泥は、汚泥濃縮タンクへ送られて4〜5分の1ほどの体積に濃縮されてから脱水されて、脱水ケーキとなる。従来、減量後の下水汚泥はほとんどが埋立処分されていた。しかし、埋立地の確保が難しいことや3Rの推進など環境問題への配慮から、さまざまなかたちでリサイクルされるようになった。下水汚泥をリサイクルする方法のうち、最も普及しているのが建設資材の分野だ。下水汚泥を焼却・溶融して安定化させ、セメント材料やブロックなどの原料として利用するものだ。
とくに下水汚泥をリサイクルしてつくられたレンガは透水性が高いなどの長所をもち、各地で広く用いられている。また、脱水後の下水汚泥を発酵させて肥料(コンポスト)にする取り組みも進められ、国土交通省による仕様書を守れば田畑や公園などで利用することができるようになった。環境省もグリーン購入法に基づき、下水汚泥コンポストを特定調達物品としている。このほかにも、下水汚泥から取り出したメタンガスを燃料として利用したり、加工して活性炭の代替品にしたりする試みが行われている。
こうした下水汚泥のリサイクルに待ったをかけたのが、2011年3月に発生した東日本大震災により大きな被害を受けた福島第1原発の事故だ。この事故後、東北や関東・甲信越地方などにある上下水道処理施設で発生する汚泥から放射性物質が検出され、地方自治体の間にリサイクルを控えて下水汚泥などを保管する動きが広がった。政府は同年6月に、放射線量が一定限度以下の汚泥は、住宅地に利用しないなどの条件付きで埋め立ててもよいという基準を示したが、自治体は対応に苦慮している。
下水汚泥の処理とリサイクルは、東日本大震災の発生を機に大きな岐路に立っている。