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美肌で人気のLED光治療、効果や製品の選び方を専門家に聞いた

  • 2024年4月11日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

美肌で人気のLED光治療、効果や製品の選び方を専門家に聞いた

 1960年代半ば、ハンガリーの医師エンドレ・メスターが、増殖する腫瘍に対する影響を調べるため、剃毛したマウスの皮膚に低出力レーザーを当てたところ、予想外の効果を観察した。赤色の光が、マウスの発毛を促進しているらしいことがわかったのだ。さらに、その後の研究で、この光には傷を治す効果があることも示された。

 それから60年後、この偶然の発見は、今や発光ダイオード(LED)を使った医療処置や家庭用器具の一大市場へと発展している。

 フェイスマスクから全身マスク、持ち運び可能なスティック型の機器まで、高い熱を発しない低出力の光治療製品は、アンチエイジング、若返り、創傷治癒など、あらゆる効果をうたっている。

 これらの製品は数百ドルから時には数千ドル(数万〜数十万円)する場合もあるが、本当にそれだけの価値があるのだろうか。そこで、光治療の効果や限界について、また購入する前に消費者が知っておくべきことについて、専門家に話を聞いた。

光治療の科学

 LED光治療、より正確には「光生体調節(PBM)」と呼ばれるものは、青色や赤色といった可視光や近赤外光などの穏やかな低出力光を使用して、自然な生理学的プロセスを刺激する治療法だ。

 カナダ、マギル大学の非常勤教授で臨床医でもあり、皮膚レーザー治療を研究するダニエル・バロレット氏は、PBMとは「私たちの細胞を正しい方向へ向けるために、光を使って軽くつつくようなものです」と話す。

 古代より、人類はこうした恩恵を太陽から直接受けてきた。しかし現代人は、冷たい色の電灯しかない室内でほとんどの時間を過ごしている。

「PBMは、肌に悪い紫外線をカットし、治癒効果のあるものだけを利用します」と、バロレット氏は言う。

次ページ:LED光治療がもたらす様々な効果

 正確なメカニズムはまだわかっていないが、PBM療法には様々な効果があることが示されている。たとえば、青色光はニキビを治療するほか、炎症を抑えることでその他の肌トラブルを緩和する可能性もある。青い光はフリーラジカル(対をなしていない電子をもつため不安定で反応しやすい分子や原子)の生成を促し、これが数日かけてニキビの元になっているアクネ菌を殺す働きをする。

 米カリフォルニア大学ロサンゼルス校の臨床准教授で皮膚科医のグリニス・アブロン氏も、担当する患者が青色光治療を受けて劇的な変化が見られたと証言する。「LED治療だけでニキビが改善し、炎症による病変が減少し、肌が全体的にきれいになっていることに気づくでしょう」

 一方、青色よりも波長の長い赤色光と近赤外光は、肌の細胞を狙ったり、体の深い部分にまで浸透したりできる。この領域の光が細胞に浸透すると、ミトコンドリア内で「連鎖反応を引き起こします」と、バロレット氏は言う。すると、ATPや一酸化窒素など、エネルギーの生産や健康な血流といった基本的な体の機能にとって重要な分子の生成が促される。

 赤色光や近赤外光を照射するとドミノ効果が起こり、コラーゲンの生成や血行を刺激する。皮膚の表面レベルでは、これが火傷や潰瘍などの傷の治癒を早め、シワやシミなどの老化の兆候を減らすこともある。

 理論上は、肌だけでなくすべての細胞が、赤色光や近赤外光治療によって恩恵を受けられるということだ。

 一般的にLED治療によって最も改善が見られるのは、日焼け肌などダメージを受けていたり調子が悪かったりする組織だと、医師で光生物学が専門のアレキサンダー・ウンシュ氏はいう。もちろん、これだけで肌トラブルやその他の疾患をすべて治療できる万能薬ではない。

 それでも、LEDには体を傷つけず痛みもなく、基本的に害がないという特徴がある。青色光は波長が紫外線に近いため、長期にわたって照射すると、肌にダメージや刺激を与えたり老化が促進されたりすることはあるかもしれないが、長期的な研究はまだ数が少ない。赤色光と近赤外光の場合、注意する必要があるのは太陽光にアレルギーがある人や、目が特に敏感な人だけだろうと、バロレット氏は言う。

次ページ:LED製品を選ぶ際の注意点

どのLED製品を選ぶべきか

 美容や医療目的で、様々なPBM療法を施すクリニックは世界中にある。一般的に、クリニックで使用する機器はより強力で、より良い効果をより早く得られる。しかし、自宅で治療したいという人にも多くの選択肢がある。

 LED機器を選ぶ際、最も検討すべき点は出力の強さだと、どの専門家も口をそろえて言う。

「詐欺のような製品もたくさんあります。そのほとんどが、出力が小さすぎて使い物になりません」と、アブロン氏は言う。氏は、赤色光なら1平方センチあたり105ミリワットの出力がある機器を求めているが、青色光ならそれ以下でも良い。「40ミリワットあたりならいいと思いますが、10ミリワットではほとんど役に立ちません」

 バロレット氏は、「レインボー」ライトをうたう製品も避けるよう注意する。つまり、緑や黄、紫といった光まで発する器具のことだ。健康面での効果が実証されている波長は、赤、近赤外、青だけだという。

 米国の市場に出回っている全てのLED製品が米食品医薬品局(FDA)の認証を受けているわけではない点にも注意が必要だ。ウンシュ氏は、FDAの「510(k)」(米国ですでに合法的に販売されている医療機器と実質的に同等であることを示す)申請をクリアした製品であれば、試験は受けていないとしても、少なくともFDAによる安全性と有効性の評価は受けていると説明する。

 しかし、LEDの理想的な波長、線量、出力、光源から照射対象までの距離に関して、目的別の“レシピ”はまだ完成されていないと、バロレット氏は指摘する。また、たとえば赤色光治療をアンチエイジングクリームと組み合わせるなど、LED治療を他の治療との組み合わせで最も高い効果が得られるケースもある。

 クリニックで処置を受けるにしても、自宅でLEDマスクを使用するにしても、長い目で治療を続け、即効性を期待してはならないと専門家はアドバイスする。傷は早く治るかもしれないが、健康で普通に老化している肌の場合は、効果が見えるまでに時間がかかり、積み重ねが重要だとウンシュ氏は言う。「最初の段階で治療をしっかり続ける意思を持ち、気長に取り組むことです。そうすれば、5年後か10年後に効果を実感できるでしょう」

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