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自動運転で何が起きるか?~社会を変える交通革新、その現状と課題~
-「第26回エコ×エネ・カフェ」(前編)

  • 2017年11月8日
  • 緑のgoo編集部

自動運転技術で何が実現できるのか

森:ということは、自家用車の自動運転はまだまだということでしょうか?
川本:まだまだ課題が多いです。完全な自動運転は「2020年までには!」と言われるほどすぐにはできないかなと思っています。
森:そうすると、自動運転技術が何を実現するのかということが問われてきますね。

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川本:自動運転のマイカーで、寝ながら、お酒を飲みながら移動するという使い方はもう少し先の話です。一方で「自動運転で何を実現するか」と考えれば、完全自動運転以外にもやれることはたくさんあると思います。

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川本:2016年5月に、テスラの自動運転車で事故がありました。現在の自動運転技術が何に使えるかについて、使う側も正しい理解をすることが必要だと感じました。
森:「ハンドルを握ってください」という警告に従わなかったために起きた事故だという報道もありましたね。自動運転を過信しないことが重要なんですね。

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川本:自動運転ブームの火付け役になったのが、アメリカ国防高等研究計画局(DARPA)が行った自動運転のカーレースです。このチャレンジを行った目的は無人戦争なんですね。無人で敵地に行って破壊してくればいい、敵地なので途中で人と接触しても構わない、という具合にミッションがとても単純でした。戦争利用という目的には賛成できませんが、自動運転を普及させるという観点での功績は大きかったと思います。ただ、僕は当時アメリカに住んでいましたが、これには日本企業は参加していません。
森:シンプルな目的ならば、自動運転が使えるということですね。
川本:自動運転にはシンプルな目的が必要だと言うことでもあります。

目的を限定した領域から実用化は進む

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川本:自動運転が機能する場面の一例として、バスの正着という問題があります。視覚障害者や車いす利用者にとっては、バス停とバス乗降口との間のギャップは大きなバリアとなりますが、特に夜間はドライバーの目視が難しく、バス停に毎回ぴったり着けるのは実際には困難です。そこで、自動運転技術の応用として自動で正着制御をしようと考えられているのです。
森: 自動運転技術は、そういう部分で現実的な応用の可能性が高いと考えられているのですね。
川本:車いすの方は、板を渡してもらわなくても自分で乗り降りできるということが重要なのでとても便利になると思います。

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川本:電車は線路があって誰も入ってこないところを運転するのだから、電車こそ自動運転すればいいと思いません?
森:実際に、「ゆりかもめ」などはそうですよね。
川本:でも、電車は何千人と運ぶので、乗っている1人あたりの運転手のコストはわずかで、あまり運賃に影響しません。逆にタクシーは運転手1人で乗客1人ということもあり、そのコストはとても重いんですね。なので、タクシーが自動運転になればタクシー代が安くなります。要するに車両あたりの輸送客数が少ない方がメリットが大きくなるんです。
森:ということは、自動運転が進めば、タクシーを運転するという仕事はなくなるということですか?
川本:自動運転が広まればなくなってしまうかもしれませんね。逆にバスの場合は人手不足が問題で、今すでに運転手が集まらなくなっていますよね。

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川本:1人が何十台もの運転を遠隔操作すればいいという案も、コンセプトとしてはあります。狭い道の場合などは難しいですが、通常は自動運転で、車載人工知能では判断がつかない複雑な場面では中央で遠隔操作に切り替えるというような併用も考えられています。
森:完全自動運転は、まだまだ難しいことが多い気がします。「いつかはできる」の「いつか」がいつなのかが気になります。
川本:私は学生のころは音声認識の研究をしていました。大学を卒業したのは1982年ですが、当時は1983年にはIBMが完全音声認識を完成させると言われていましたが、それから30年経っても完全音声認識はまだできていません。自動運転の技術も同じだと思います。期待値はどんどん高まっていますが、30年くらい経って「やっとここまで来たね」と。技術とはそういうのもではないでしょうか。どこかでブレイクスルーはあるとは思いますが、現状から連続した技術の発展上で考えると、ちょっと時間がかかるかなと思っています。

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川本:自動運転の場合、どんな運転手がどんな道を走るか分からないような場合では実用化までに時間がかかります。逆に、物流や移動サービスで走るところが制限をされているような領域では、ある程度進んでいくと思っています。

末端交通問題を解決する自動運転技術

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川本:現在、端末公共交通の整備が大事だと言われていますが、これは田舎だけの問題ではありません。豊洲周辺など、倉庫街に急に分譲マンションがたくさん建られたような場所には交通網にあたるものがありません。昭和に作られたいわゆる「オールド・ニュータウン」は、街も住人も年をとって、移動できないことが問題になっています。端末交通システムの整備は、高齢化社会で喫緊に要請されています。
森:端末公共交通について、街づくりの観点から教えてください。

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川本:端末交通は家の近所を走るもので、利用者は歩くか、乗り物に乗るかという選択肢になります。欧州では歩くところと乗り物が走るところが同じという「シェアードスペース」が進んでます。人がたくさんいたらトラムはスピードを落とし進むというような感じで空間を共有しています。
森:日本とはだいぶ違いますよね。
川本:日本では、軌道に人が入っただけで違反になりますよね。ヨーロッパのシェアードスペースは文化として成り立っていますが、日本では歩行者と車両を分離するのが基本的な考え方になっています。でも、技術の助けを借りれば、低速で安全性を確保しながらできるのではないかと思っています。これについては今、大学で研究を進めています。

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川本:自動運転車では車が安全機能を持っているのですが、インフラ側が場のリスクをきちんと考えて制御することも重要だと言われています。例えば子どもが速いスピードでチョロチョロ動いていると危険性が高いというように「場のリスク」を管理することです。
森:筑波大学でも似たような実証が行われているんですよね。
川本:敷地が広いので、実物大の実験車で本格的な研究をしています。

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川本:VRを使ったシェアードスペースのリスク研究も進められています。人がいる場所にモビリティが入って来る場合、どれくらいなら安全かというのを調べたりもしています。実際に人を連れて来た実験で事故になったら大変ですが、VRなので安全にできます。

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川本:こういったことを実現していくためには、産業界、学術界、政府・自治体との連携が必要です。日本を再興するためにも、産官学連携ということで自治体とも一緒にチャレンジしています。
森:ここでJ-POWERの藤木さんに入っていただいて電力会社の視点での質問をお願いします。

藤木:「人が快適に安全に移動することで経済も回す活力を」ということをお考えになって研究実践されているのだと思いました。省エネについてのお話の中で、意識で誘導するよりも技術で省エネに取り組んだ方が効果が大きいとありましたが、自動運転の持っている省エネ効果はどのようなものでしょうか。中長期的に考えると、AIやIoTで連携して渋滞がなくなるなどの効果があるのかなと思いますが、どうでしょうか。また、海外では従来の自動車から電気自動車(EV)に変わっていく流れがあります。自動制御はエンジンの自動車でもEVでも両方できるのかと思いますが、EVとの方が相性がいいような気がします。そう考えると、自動運転はEVの普及を後押しして、社会や交通体系の中での低炭素化にも寄与していると感じます。

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川本:自動運転がどのように普及するかによりますが、お客さんがその効果をきちんと認識することがポイントです。ハイブリッド車が出た時も「中途半端なことしなくて電気自動車にしてしまえば」と言われていましたが、実際に出してみたら、燃費がいいということが認識されて普及しました。渋滞の緩和は、1人が急いでもなかなか進みません。全体の流れをスムーズにした方がいいということになるんですよね。自動運転車は最初は低速で走ると思いますので、自動運転が一般的な渋滞を解消するようになるには時間がかかるかなと思います。EVと自動運転の相性がいいというのはあると思いますが、今の自動車はアクセルもブレーキもハンドルも機械的にリンクしておらず、ほとんどが電気アシストで回しています。言ってみればモーターとエンジンの違いだけですので、大きな差がないと思っています。ただ、何か新しいことをやって競争力を付けようとした時、電気自動車を作る企業が自動運転に力を入れるということはあると思います。

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第26回エコ×エネ・カフェの前編はゲストの川本さんから「自動運転」について触れていきました。次回後編は「参加者の自動運転に対する考えはどう変わったのか?」です。全員参加のワールドカフェの様子をレポートしていきますのでご期待ください。

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