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2017年度は、日本自然保護協会へ寄付させていただきます。
日本自然保護協会(NACS-J)の活動や自然環境保護に関する情報をお届けします。

SOS! 四国のツキノワグマ

  • 2017年8月16日
  • NACS-J

クマの生息環境を調査!

 四国のクマを守るためには現状をしっかりと把握する必要があります。四国では94年以降は全域でクマの捕獲禁止措置が取られており、86年以降の捕殺記録はありません。減少した要因のひとつである、害獣としての駆除は無くなっていますが、個体数回復の兆しは未だ確認されていません。その理由のひとつとして、生息環境の不足が考えられます。拡大造林によってつくられた人工林は現在も広い範囲で残っており、クマの好むような環境が不足している可能性があります。そこで、私たちは現在の生息環境が、クマにとって秋の重要な食べ物であるブナやミズナラの堅果(以下、ドングリ)をどのくらい生産できているのか、どういった環境を好んで利用しているか、などについて調査を行いました。

ブナよりミズナラ

 ドングリの生産量は、2012年から4年間、ブナやミズナラの樹木の下に落ちてくる種子や枝葉などを回収するシードトラップを設置して調べました。その後、調査によって把握した生産量と環境省の植生調査の成果を利用して、ドングリの資源量を推定して地図化を行い、資源量の空間的な広がりについて解析しました。

写真2_シードトラップ
ドングリの資源量を調べるためにミズナラ林に設置したシードトラップ。トラップの設置数は2012年が280個、それ以降の年は380個。毎年8月下旬から12月上旬まで設置してドングリを回収した。

 その結果、ブナは豊凶の差が非常に極端でした。ミズナラも豊凶の差が確認されましたが、ブナに比べるとその差は小さく、健全種子の割合についてはブナに比べて高いという結果になりました[図2]。ミズナラの方がブナに比べて安定的に種子が生産され、生育する面積も広いため、四国のクマの安定的な生息のためにはミズナラの方が重要であると考えられました。

図2.グラフ画像
図2 ミズナラとブナの落下種子の内訳。ブナは2014年には健全種子が1個も確認されず、15年には健全種子が1万4805個となり、豊凶の差が極端だった。

 また、剣山系の中心地域に資源量が高い地域がまとまって分布していることが分かりました[図3]。ですが、そのような地域でも低い資源量を示す地域が確認され、その多くは人工林が優占する地域でした。人工林は自然林に比べドングリ以外の資源量も低いため、改善の必要性が考えられました。

ドングリ 図3 ドングリの資源量の分布

やっぱり落葉広葉樹林が好き

 現状確認されている四国のクマの分布域は、大部分が林野庁が管理する国有林にあたります。調査がされている中心地域では情報が蓄積されていますが、周辺地域ではまだ分布域が正確に把握されていません。そのため、林野庁とも連携し、生息が確認されているエリアの周辺にセンサーカメラを設置し、詳細な生息域を絞り込む「はしっこプロジェクト」を行っています。
 また、四国のクマがどういった環境を好んで利用しているかについては、捕獲したクマにGPS付きの追跡装置を装着して山に放し、クマの利用場所を調べました。調査では4頭のクマを追跡し、利用場所ごとに植生や標高、道路からの距離などいくつかの環境条件と合わせて解析しました。そして、現在の剣山系にクマが好んで利用する環境である生息適地がどのくらい存在しているかを推定し地図化しました。  その結果、ブナやミズナラが生育している落葉広葉樹林は人工林に比べて最大2・7倍高く利用されていることや、標高900~1500mの間を好んで利用していること、道路からの距離が近い地域を忌避していることなどが分かりました。
 解析から把握した、クマが好む環境条件を地図化したところ、剣山系を中心に生息適地が残っているものの、ひとつの大きな塊ではなく、中小の大きさの塊に細かく分断されて残っていることが分かりました[図4]。今後、こういった生息適地を拡大させるとともに連結して大きな塊として残していくことが重要だと言えます。
クマ分布 図4 クマの生息適地の分布



生息地改善に向け広域協議会発足!

生息地
生息地の風景(剣山地を徳島県三好市から撮影)

 四国のクマを保全するためには、生息環境の改善や復元が必要です。調査により、クマの生息している地域でも、ドングリの資源量が低い地域が確認されています。そういった地域では、ドングリなどクマの食べ物が多く生産される広葉樹林へと置き換えていくことで生息環境の質を向上させ、その地域に生息できるクマの数を増やせる可能性があります。また、生息適地が人工林などによって分断されていることも多いため、そういった個所の人工林を広葉樹林化や複層林化することで、生息適地間を連結して生息適地を拡大させる必要があるでしょう。
 これらの保全策を講じるには多くの関係機関の連携や協力が必要です。また、地域住民の方の理解も欠かせません。四国では2017年1月に関係行政機関によって「ツキノワグマ四国地域個体群の保全に係る広域協議会」が設立されました。今後、これまで以上に四国のクマの保全が進展することを期待しています。私たちも関係機関と連携をとりながら四国のクマの保全活動を進めていきたいと考えています。

筆者より

私が感じるツキノワグマの魅力は「環境への適応能力の高さ」

ツキノワグマは、四国のように奥山にひっそりと生息しているかと思えば、本州のように市街地付近でも生息が確認されます。そういった生息環境のバラエティーの豊富さはとても興味深く感じます。日本のような先進国にツキノワグマのような大型哺乳類が生息していることはとても誇らしいことだと思います。人との軋轢などの問題もありますが、将来世代にもクマやクマがすむ多様な自然環境を残していけるよう活動していきます。

山田さん
●山田 孝樹氏
認定NPO法人四国自然史科学研究センター主任研究員

東京環境工科専門学校卒業後、石川県や岩手県でツキノワグマの調査研究に従事し、現在は四国で生態調査や保護活動に取り組む。

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