新たに「みなかみユネスコ・エコパーク」が仲間入り
2017年6月14日、フランス・パリから朗報がもたらされました。群馬県みなかみ町を中心とする「みなかみユネスコ・エコパーク」がUNESCO(国連教育科学文化機関)の理事会で、満場一致で正式に登録されたのです。
ユネスコエコパークとは
ユネスコ・エコパークは、「ユネスコ・人と生物圏事業(MAB : Man and Biosphere Programme)」の中で、“人と自然環境のよりよい関係を作り上げるための研究と活動を模索する場所”として指定される地域(*)です。自然の恵みを活かした「持続可能な未来、地域づくり」に取り組んでいる場所が選ばれ、世界120カ国669箇所が指定されています。
*英語では、Biosphere Reserve。生物圏保存地域と訳されていますが、日本では愛称として「エコパーク」が使われています。
「生物圏(英語ではBiosphere)」というのはあまり聞きなれない言葉ではないでしょうか。実はこの事業、世界遺産条約が生まれる1年前の1971年から45年以上も続いている事業です。生物圏も当時から使われていた概念です。事業の根底にある理念は古いどころか最先端と言って良いでしょう。
世界遺産条約が、当初人の手が加わっていない原生的な自然環境の保護を重視していたのに対し、エコパークは、重要な自然は守りつつ、その周りで営まれる持続可能な形で自然資源を活用する人々の暮らしの場も一体として保全していくことを目指していました。人と自然の適切な関係づくり、社会科学と自然科学の融合。今私達の社会でとても大事とされるテーマを半世紀近く前から取り組んできたと考えると、この事業のすごさというのが伝わるのではないでしょうか。
この古くて最先端のユネスコの取り組みとその中で指定されるエコパークは、現在、国連全体にかかる世界目標「
持続可能な開発目標(SDGs)」の実現を体現する場と位置づけられ、ますます国際社会の注目が集まる事業となっています。
みなかみがユネスコ・エコパークに登録されるまで
持続可能な未来の実現をめざす場として、日本のみなかみ地域が選ばれたのはとても誇らしい結果です。1990年代前半、ここには大規模なダムとスキー場の計画がありました。日本自然保護協会は、代々大切にしてきた水源の森を失うわけにはいかないと考えた地元の方たちとともに、科学的視点から社会問題として訴え、保護活動を始めました。吹雪の中のイヌワシやクマタカの調査、関係者とのたびかさなる交渉など10年以上の年月をかけて計画が白紙に戻って以降は、林野庁や地域協議会との二人三脚で、自然を活かした地域づくりをこの地で展開して来ました。この活動(赤谷プロジェクト)も評価されてのことだと嬉しく思っています。
日本自然保護協会では、この度指定された「みなかみユネスコ・エコパーク」、2013年に指定された「綾ユネスコ・エコパーク(宮崎県)」など、自然を活かした地域づくりの一環として、日本各地のエコパークを支援してきました。これらの地域に是非足を運んでいただき、人と自然の共生を目指す地域の活動を応援していただきたいと思います。
●道家 哲平 (どうけ てっぺい)
公益財団法人 日本自然保護協会 経営企画部 副部長
国際自然保護連合(IUCN)日本委員会 副会長 兼 事務局長
生物多様性条約の NGO における第一人者。国際的な情報収集・分析を行い、生物多様性保全の底上げに取り組んでいる。特に、国内では、2020 年までに日本から愛知ターゲットの達成を目指し、企業や団体、自治体など多分野のセクターのネットワーク化を行いながら、地域や企業の生物多様性戦略、「にじゅうまるプロジェクト」などを推進。
大学院で研究していた哲学という異色の専門を活かし、世界の自然保護の問題を理解し、日本の課題・解決策に活かす、「世界のコトを日本のコトに」をモットーに奮闘中。プライベートでは、かわいい子どもたちの子育てが趣味という3児のパパ。