日本初の地熱発電所
森:地下から噴き出した蒸気でタービンを回して発電した後、蒸気は冷やして温水にするという仕組みですね。写真に載っている建物は、蒸気を冷やす冷却塔ですね。
関:はい、この建物が目立つのですが発電機ではなく冷却塔なんです。他の地熱発電所の場合、蒸気に熱水が混ざっていることが多いのですが、松川地熱発電所では蒸気に熱水が含まれていないので、熱水を地下に戻すための還元井がありません。また、蒸気を冷やすための冷却水を分けてもらっているのが八幡平市の特徴です。蒸気と冷却水を利用して温泉を造成しています。冷却水といっても60℃くらいの温度なので、別荘や温泉郷の温泉のほか、農業などでも使われています
森:そもそもなぜ、八幡平市に日本初の地熱発電所ができたのでしょうか。言い出しっぺは誰なんですか?
関:松川温泉は古くからの温泉地で、松楓荘という温泉宿は江戸時代から続いています。1955年、当時の松尾村でも温泉をやりたいということで掘ったのですが、お湯ではなくすごい勢いで蒸気が出てきて。当時の沼田村長が、この蒸気を活かせないかということで始まりました。
森:温泉を掘ろうとして、お湯ではなく蒸気が出たときに「ボーリング失敗」ではなく「発電に使える」と村長が発想を転換したんですね。
関:はい。沼田村長は松尾鉱山の電気技師から村長になった方で、発電所を語る上では伝説の人です。
関:このあたりはもともと、松尾鉱山という雇用場があって1万5000人が暮らしていました。鉱山が閉山するとなった時、それに合わせて国で八幡平を国立公園に指定し、さらに県では松尾村に観光団地をつくろうという動きがあって今の形になりました。
森:国立公園の指定が、地熱発電の開発の足かせにはならなかったんですか?
関:詳しくはわかりませんが、国立公園を設定する際、配慮されたのではないかと推測します。当時は今と違い、自然保護よりも観光の位置付けが大きかったということもあるのかもしれません。
森:そして1966年に松川地熱発電所が創業し、それを受けて、松川地熱発電所から八幡平市に熱水を供給する八幡平温泉株式会社ができるんですね。
関:はい。発電所でできた熱水を市に供給するハブの役割をしたのが、第3セクターの八幡平温泉株式会社です。今は名前が変わって株式会社八幡平温泉開発となりました。
森:国と県と村が力を合わせて進めてきたんですね。県は保養地が欲しくて、村は雇用創出がしたかった。森:国と県と村が力を合わせて進めてきたんですね。県は保養地が欲しくて、村は雇用創出がしたかった。
関:あと、開拓で農地を開発した方々がうまくいかなくて放棄していた場所があったので、それを利用して温泉付きの別荘地にしたというのもあります。そこでは、蛇口をひねると温泉が出てくるんです。そしてその温泉は、発電所からやって来るんです。
地熱発電所で温泉ができる
森:その辺について、専門である地域活性化のお話を聞かせてください。八幡平市では具体的にどんなことが起きているのでしょうか?
関:松川地熱発電所の蒸気を冷やした後の熱水で造成した温泉は、総延長48kmの配湯パイプで旅館、ホテル、病院など721カ所へ送られています。この温泉があってホテルや旅館ができたので、雇用も生まれたということです。
関:48kmという長さですが、国の補助金も入って村が徐々に伸ばしました。とても長いので、末端になると60℃の熱水が15℃くらい下がってしまいます。また、発電所の近くに、地熱発電所の蒸気を使って染色をする八幡平地熱蒸気染色というものもやっています。
森:八幡平温泉のお湯は発電所の蒸気を使ってできたお湯ということですが、発電所の蒸気でできたものを「温泉」と言っていいんですか?
関:どこで熱を加えたかの違いというだけで、普通の温泉ですよ。造成温泉といって温泉法の基準を満たす温泉で、硫黄成分がすごく強いです。熱が加わるのが発電所なので、発電所が止まると温泉もなくなってしまいます。
関:熱水は農業にも利用されています。冬は積雪が多い地域なので、農業用ハウスに熱水を供給して温度を保つという使い方をしています。松川地熱発電所とは系統が別なのですが、温泉の熱源を利用した新しい取り組みもあります。移住してきた方が始めた「ジオファーム八幡平」で、引退した競走馬を引き取り、その馬糞を温泉の熱で発酵させて堆肥をつくりマッシュルームを育てています。生産体制も整い、首都圏でも店頭に並ぶことがあります。とてもおいしいです。