森:商用化の目標はいつ頃になるのですか?
牧:私がJAXAにはいったころは2030年ごろと言われていましたが、私は少なくともこの先30年はかかると思っています。
森:そんなに遠い未来を見据えての研究をしているのですね。
牧:つい最近、地上での送電実験が行われました。ある条件下では一定の効率が出ることも確認されています。
牧:宇宙では小型ロケットを打ち上げて、マイクロ波と電離層の相互作用の研究を行っています。宇宙科学研究所では、マイクロ波の増幅など、装置を使った実験をしています。
森:着々と進んでいるように聞こえますが、実用化までは当初予定の2030年よりもっとかかりそうなのですよね。そんなに長期間かかる研究に取り組んでいて、へこたれたりはしないですか?
牧:そういうこともありますね。現実的でないと批判を受けることもあります。でも、逆に考えると、実現に40~50年かかるということは、40~50年前から始めないと実現しないということ。例え批判されても、社会に貢献できるものであるなら、研究を進めたいと思っています。
森:クリアする必要がある技術課題には、どんなものがありますか?
牧:巨大建造物をいかにつくるか、離れたところからいかにして地上の受電設備に電波を送るか、精密制御、送電線の効率化、そして、宇宙輸送を高頻度で行うロケットをいかにつくるか、などです。従来の宇宙移送は使い捨て型になっているのですが、荷物を置いて戻ってきて、それをまた打ち上げる方法を確立しようという構想も進んでいます。
森:ちなみに、一回の打ち上げにかかる費用は?
牧:80億円以上と言われています。他のエネルギーと比べて比較にならないほど高コストなら、実現しても意味がありません。ですから、研究メンバーには経済学者もいて、経済的な実現性についての研究もされており、ロケット技術として、従来の百分の一にまでコストを下げることを目指しているのです。
森:いったん打ち上げた機器の耐用年数は?
牧:宇宙環境は過酷です。太陽があたると100℃、あたらないとマイナス100℃と寒暖の差が大きいのでそれだけでダメージが大きいですし、放射線の影響も受けます。
森:とても大変そうですね。
牧:すごく大変ですが、この状況に耐えうるものをつくろうと、世界の研究機関が研究を続けているんですね。