牧:宇宙太陽光発電は、宇宙で行う太陽光発電のことです。太陽光発電はクリーンなエネルギーと言われていますが、地上の場合、夜は発電できない、天候に影響されやすいなど不安定な点があります。宇宙であれば、ほぼ常に太陽光を浴びて発電ができますし、天候にも左右されません。そこで私は、宇宙で発電した電力を地上に送って活用する技術を研究しているのです。
森:まさに未来のエネルギーですね。具体的には、どうやって実現するのですか?
牧:従来は地上の発電所から電線を使って送電していますが、宇宙太陽光発電の場合、同じ方法を用いると、静止軌道上の太陽光パネルとの間の36,000kmをつなぐ電線が必要となってしまいます。そこで、電気を電波(マイクロ波)にして送る方法を研究しているのです。
牧:ここで使われるマイクロ波と呼ばれる帯域の電波は、無線通信や衛星放送、携帯、電子レンジなどごく一般的に使われているものです。整流回路というものを使って、マイクロ波を直流電気に戻すことで、宇宙から送った電波が地上でエネルギーとして使えるようになるのです。また、このマイクロ波は雲や雨を充分透過するので、天候に左右されず地上に届けることができるんです。
牧:宇宙で発電すると、曇りがないため5.0~10.0倍も取得効率がいい。期待される送電効率は50%ですから、地上の太陽光の2.5倍〜5.0倍の発電効率が期待されると言われています。
森:なるほど。そして宇宙から受信するためには、大型アンテナが必要になる訳ですね。
牧:イメージとしては、2kmのパラボナアンテナが必要とされるのですが、それは大変なので、小さなアンテナを2次元に多数配列した薄型の構造体のものが考えられています。実験室レベルでつくっているのは60cm×60cm。実際には、これを組み合わせて、大きなアンテナにするのです。
牧:宇宙では、地上と違って、大型パネルの設置場所に困ることがありません。2km×2kmほどの大型のソーラーパネルをつくれば、1,000メガワットもの発電が確保できます。将来的には、宇宙で発電したエネルギーを宇宙から世界各地に輸出するといったこともできるようになる。将来、大型の発電衛星ができるということは、宇宙の輸送技術などが革新的に発展していることになり、スペースコロニーのような話の実現も期待されます。
森:受ける側のアンテナはどうなのですか?
牧:直径3kmほどの大きさが必要ですが、日本だと、海上や人が住んでいない地域に設置できますし、海外では砂漠や草原なども設置場所になるでしょう。
森:マイクロ波には危険性はないのですか?
牧:地上に降りた時点でのエネルギー密度は十分低くなります。携帯電話よりも弱いくらいですので、安心なレベルと言えます。