森:今使える派生技術とかはないのですか?
牧:注目しているもののひとつは、飛翔体への無線給電です。地上から飛翔体にマイクロ波やレーザーでエネルギーを送り、それを動力源に飛翔体が飛ぶ。これは小型模型飛行機に応用できます。最近は、相模原市から委託を受け、中小企業と一緒に、ドローンに給電する研究を行っています。現在は10-20分しか飛べないドローンも、この派生技術を使って長時間使えるようになると、災害時など、社会に役立つために使えるようになってくるのです。
森:ドローンというと、悪い使われ方をされているイメージがありますが。
牧:使われ方によってそうなっていますが、我々としては、あくまで、社会に役に立つための技術をつくりたいと思っています。
森:それにしても、何十年もかかる研究に、どうして打ち込もうと思えるのですか?
牧:何十年も先まで成果が実感できない研究には、結構大変です。でも、5-10年程の時間である程度成果が見える派生技術を研究・開発し、少しずつ成果を出しながら進めていけると、やる気も維持されますね。
森:これまでで、一番嬉しかったことは?
牧:問題を解決するために考え、検証し、形にしたものが、特許として認められるようになったりすると嬉しいでですね。でも、それ以外はすごく、地道な苦労の連続です。研究というのは、本来そういうものかもしれませんね。
森:予算の獲得だって、大変ですよね。
牧:JAXAはほとんどの事業が税金から賄われていますから、それを無駄にはできないというプレッシャーはあります。
森:科学や研究を通じて、どんな世界を見出したいですか?
牧:科学技術は、世界に平和や豊かさをもたらすために存在するものだと思っています。でもあまりに便利すぎると、人間が不要になってしまう。人が職を失い、生活が困難になるのは、目指す社会の姿ではありません。あくまで、人間と科学技術が共存できる世界があることが理想ですよね。
森:研究者にとって大切な資質とは何でしょうか?
牧:新しい物事を創造することだと感じています。何かを生み出すことは創造の世界です。それは芸術家・アートの世界とも言えます。ですから、最近はアーティストになることを目標と感じています。
森:ここでJ-POWERの藤木さんに、電力会社の視点からコメントいただきましょう。
藤木:燃料電池が普及し始めていますが、あれも、1960-70年代のアポロ計画の頃から開発がスタートして、40-50年たってようやく今、実現してきているんですね。そう考えると、今から未来を見据えて、最先端の技術を開発して磨いていくということが鍵なのかなあということも感じながらお話を伺いました。面白い話だと思ったのは、非接続型で電波に変えて送電することです。そうすれば、東西日本の、周波数の違いによるやり取りの難しさといった課題も乗り越えられそうですよね。
牧:おっしゃる通りです。最近は再生可能エネルギーのプラントからの送電が課題となっていますが、無線エネルギー伝送が普及すれば、この問題がクリアされ、再エネの普及にもつながります。
藤木:過酷な宇宙空間では水をリサイクルして使うなどの発想がありますが、今、地上の我々の暮らしをみて「もったいない」「もっと効率的に使える」と感じるようなことはありますか。
牧:例えば、充電器などの余熱を、効率的に活用できる方法はないかと考えています。これは「熱電発電」と呼ばれる技術で解決できるかもしれません。他の例としては、はやぶさ2で開発された電気の効率利用技術は、一般に応用されました。
藤木:宇宙開発をきっかけに生まれた技術から、いろいろな可能性が開いているのですね。