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第7回 「これからの日本のエネルギーの未来を語ろう」荻本 和彦 氏

  • 2012年1月17日
  • 緑のgoo編集部
J-POWER エコ×エネ・カフェ
ゲストトーク:
「私たちはどんなエネルギーの未来を選ぶのか?」
ゲストの荻本さん(左)と司会の森さん(右)
ゲストの荻本さん(左)と司会の森さん(右)

今回のゲストは荻本和彦さん。東京大学エネルギー工学連携研究センターの特任教授としてエネルギー/電力システムやスマートグリッドについて研究している荻本さんはJ-POWERの社員でもありました。エネルギー技術の専門家として、また、エネルギー未来について、政府や企業らとの連携をはかりながら研究を進める学者として、国内外の情勢を含め幅広い視点からエネルギー問題に取り組んでいる荻本さん。私たちを取り巻くエネルギー事情とはどのようなものなのか、そして私たちはどのようにエネルギーの未来を考えていけばいいのか。ファシリテーターの森さんが荻本さんに問いかけながらトークをナビゲートしていきます。

エネルギー事情の変化の中で
震災以降の変化は何か。客観的なデータをもとに説明する荻本さん
震災以降の変化は何か。客観的なデータをもとに説明する荻本さん

森: 3月11日の東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故を受けて、日本のエネルギーを取り巻く状況が大きく変化しましたね。

荻本: 日本のエネルギーは、これまでは海外からの化石燃料輸入に頼りながらもなんとかバランスを取って供給されていました。しかし、今回の震災で原子力発電という「エネルギー供給」のプレーヤーの一つが大きな打撃を受けたことによって、バランスが大きく崩れた状況にあります。昭和20年代にも電力が不足すると言われた時代がありましたが、実際に電力不足を体験したのは今回が初めて。事故後もまだ、電力供給が不足している状況が続いています。事故を起こしてしまった福島第一原子力発電所はもう元には戻らない。これはもうどうしようもならないことですが、発電所は10年-20年の月日をかけて作られるものであり、急に出来るものではありません。そういう状況の中で、今やれることは何なのか、どのようなことを考えて将来設計をしていく必要があるのかを改めて考えていくことが必要な時期を迎えています。

森: 世界的な観点でみるとどうなのでしょう?

荻本: ドイツやスイスではこれまでのエネルギー政策の方針を変えようという決断が素早く行なわれました。こういった国ではもともとエネルギーについての議論を国内で長いこと続けていたという背景があるんですね。今後は長期的に再生可能エネルギー等の低炭素化を目指すことが世界的にも求められていきますし、日本でももっと、供給側だけが努力するというこれまでの考え方だけではなく、利用者(需要)側と一緒に議論を進めることが求められると思います。

中長期的な取り組みを考える

森: ところで政府が行なっているエネルギー基本計画の見直しが行われていますが、もともとの計画はどのようなものだったのでしょうか。

荻本: 一昨年策定されたエネルギー基本計画は,2030年までに石油の依存度を減らし、原子力と再生可能エネルギーを増やしつつ、全体的にも省エネにしていこうという計画でした。ただし、将来的には電気自動車などの普及も考えられるので電気の需要は少し増えると見込まれています。発電の内訳をみると、原子力で見込まれていたのは約5千億kWh、全体の約5割ぐらいでしたので、ここをどう補うかを考えていくことが必要なわけです。再生可能エネルギー、特に太陽光や風力発電などにも期待が寄せられていますが、天候頼みのところも大きく、いざという時に機能しないというリスクも高いですね。そういうエネルギー需給の特性を考えながら、中長のエネルギーの需給について検討してゆかなくてはなりません。

森: なるほど。では、荻本さんの提唱するプランとは?

荻本: 「原子力発電のシナリオ」という資料を見てください。これは提唱するプランと言うわけではありませんが、今後私たちが選択できる可能性を示したものです。ここには、震災後の見通しについていくつかのシミュレーションの数値が示されています。壊れたものはあきらめて残りはそのままにしておくという選択、開発を継続し40年ほどたった後に止めるという選択、とにかく直ぐにでも全廃するという考え方などです。

エネルギー基本計画見直しについて解説する荻本さん
エネルギー基本計画見直しについて解説する荻本さん
原子力発電のシナリオ
原子力発電のシナリオ

荻本: 今とても期待されているのは自然エネルギーですね。その中で大量にとれるのが太陽光発電と言われています。それから、風力。地域ではバイオマスや地熱発電なども考えられるでしょう

荻本: ただ、課題もあります。原子力をこれまで30-40%と想定してきたわけですが、一番厳しいシナリオだと、この数値がゼロになるわけです。自然エネルギーでこれをいくら補っても既存の水力の7%を含めて最大限20%くらいまでしかいかない。そうすると、その補いきれない分を他のエネルギーで補完していくことになる。石炭、天然ガス、石油という選択がありますが、石油は今13円/kWhという価格です。工場には10円/kWhで、大口の企業には15円/kWhで販売している。それでも配電などのコストかかりますのでまだ赤字。家庭では23円/kWhですので、ここだけが一見黒字ですが、トータルとしては全くの赤字なのです。ところで、今年は節電といいましたが、それは休む予定だった石油火力も立ち上げ、補修予定だった火力発電も立ち上げてなんとか対応できたということで、電気が足りたのは悪いことではないのですが、燃料代は高くなってしまいました。

風力導入のシナリオ
風力導入のシナリオ
火力・原子力発電のシナリオ
火力・原子力発電のシナリオ

荻本:  100万キロワットの原子力発電所をやめて火力発電所で補う場合、原子力発電所一台あたり燃料費が年間1千億円余計にかかります。福島の事故では10台止まりましたので、年間1兆円が余計にかかっています。今定期検査後の再稼働を認めないことで、20-30台余計に止めたので年間2-3兆円が余計にかかることになります。日本には原子力発電所が50ほどありますので、これを全て止めると、年間で4-5兆円という金額が他のエネルギーの調達のために海外に毎年出ていくという計算になります。これだけの金額が毎年キャッシュで海外に出ていくということは、日本という国にとってはとても厳しい状況と言えます。火力発電所を新しく作れば効率があがりますので確かに燃料代は少し安くなります。けれども、どんなに頑張っても燃料費がかかるという意味では原子力には追いつかない。

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