今回のゲストは荻本和彦さん。東京大学エネルギー工学連携研究センターの特任教授としてスマートグリッドについて研究しています。再生可能エネルギーの導入や自宅での発電が進むと共に益々注目を集めつつあるスマートグリッド。それはいったいどんな技術なのか。そしてそこから見えるエコロジーとエネルギーの未来とは?今回はこの少し難しそうなテーマについて、ファシリテーターの森さんが荻本さんに問いを投げかけることを通じてトークをナビゲートしていきます。
森: 荻本さんは東大でスマートグリッドを専門に研究しているそうですが元々はJ-POWERの社員だったそうですね。
荻本: はい。大学を卒業した年から29年間J-POWERに勤務してきました。J-POWERでは3-4年ごと異動があるので、合計7-8カ所の職場を体験したことになります。J-POWERで手がけた仕事は送電線のシステム設計や海外での電力システムの開発、技術開発、企画開発など多岐に渡りますが主に技術系が中心でした。
森: どうして東大に?
荻本: 3年程前に、政府の委員会などでご一緒させていただいた先生から、好きな研究ができるとお誘いをいただいたんです。それで、今やっているスマートグリッドを専門に研究さ
せていただいています。普段は自分の研究のほか、政府の委員会の委員を務めたり、企業の方の相談に乗ったりして過ごしています。この仕事をしていると、会社の垣根を越えて本当にたくさんの人に会う機会に恵まれて、それが有り難いですね。
森: ところで、最近いろいろなところで「スマートグリッド」という言葉を耳にしますが、その実態は一体何なのでしょうか?
荻本: そうですね、スマートグリッドやエネルギーについては、私自身過去3年間で合計70回程の講演をしていまして、関心の高まりを実感しています。その冒頭で最初にお伝えするのは、「スマートグリッドは何でもあり」ということです。ロッキー山脈の東側の砂漠で太陽光発電、風力発電で発電した電力を東海岸、西海岸などの都市部に運ぶ送電線を作ることをスマートグリッドと呼んだり、スウェーデンからイギリスまで、風力発電のために海底ケーブルで電気を運ぶことをスマートグリッドと呼んだり。多くの人がいろいろな技術を指して「スマートグリッド」という言葉を使っています。しかし、スマートグリッドと呼ばれる技術の中で何が新しいかというと、この技術が「電気の使い方」に関るという点です。これまで電力を供給する側の都合とは関係なく使ってきたエネルギーを、これからはできる範囲で供給側の事情にも合わせて調整し、コントロールしようとすることなのです。
森: 太陽光発電とか家庭用の蓄電池が話題になっていますよね。そういう再生可能エネルギーの普及と関係があるということでしょうか?
荻本: はい。今、再生可能エネルギーをどのくらい導入し、どこまでエネルギーの供給をまかなえるのか、ということが大きな課題になっていますが、太陽光や風力などといった自然から得るエネルギーの一番の課題は供給量が変動するということです。日によって時間によって日射量も違うし、風の強さも違う。同じ14:00という時間で切り取ってみても、日によってとても大きな差があります。こういったエネルギーを使いこなすのは難しい、そこには工夫が必要なわけです。
荻本: 従来、電力の需要も、同じ一日で見ても大きな差があります。今は火力発電などを使って需要に合わせて供給をコントロールしている訳ですが、これから一般家庭での発電が普及すると、各家庭で使われる再生可能エネルギーの利用状況も予測して供給を調整することが必要となってきます。
森: 将来、各家庭で蓄電池や太陽光パネルが普及してくると、その使用状況も考慮して全体としてのエネルギー供給をコントロールすることが必要になってくるということですね?
荻本: 昔は石油、天然ガス、石炭など化石資源からエネルギーを作っていましたが、太陽光などの再生可能エネルギーが普及すると電気エネルギーの供給が増えてきます。需要側も電気自動車やヒートポンプなど、エネルギーの中に占める電気比率が高まってくることが予測されます。この流れの中で、従来主流であった供給側でのコントロールに限界が見えてきました。
森: だんだん難しくなってきましたね。つまり、再生可能エネルギーが普及するとこれまで以上にいろいろな特徴を持ったエネルギーを扱うことが必要になる。それでこれまでよりも難しい調整が必要になってきた、ということでしょうか。
荻本: そうですね。簡単にいうとそんなイメージです。この辺りはエネルギーに関っている人たちに説明してもなかなか分からないと言われてしまうことも多いのですが(苦笑)。