一見植物のようなサンゴだが、イソギンチャクや一部のクラゲと同じ刺胞動物だ。サンゴの多くは「ポリプ」と呼ばれる小さな個体(サンゴ虫ともいう)が多数集まって全体をつくっている。サンゴの中でも、石灰質の硬い骨格を持ちサンゴ礁をつくるイシサンゴなどの造礁サンゴと、宝石として用いられる非造礁サンゴ(宝石サンゴ)は違うグループに分類される。造礁サンゴの体内には小さな褐虫藻がたくさん生息して活発に光合成を行い、サンゴに栄養を供給している。このため、造礁サンゴは光の届く浅い海に生息し、サンゴ自体も触手で餌を捕獲している。一方、宝石サンゴは体内に藻を持たずに深海でゆっくりと成長する。
造礁サンゴは、石灰質の石の骨格が枝状、テーブル状など、環境に応じて多様な形状に成長する。それに加えて、石灰藻、有孔虫、貝といった造礁生物の石灰質の骨格や殻が堆積し、海底から海面近くまで突出するサンゴ礁という地形が作られる。サンゴ礁は地形的な特徴から、大きく1) 陸地に接して発達する裾礁、2) 沖合に発達する保礁、3) 大洋の中にリング状に発達する環礁、の3つに分類される。造礁サンゴの生息には水温18〜30℃ほどの暖かい海がもっとも適しており、熱帯・亜熱帯の海岸、特に暖流が流れる各大洋の西側に多く分布している。サンゴ礁上には、サンゴをはじめ海草、魚貝類など多様な生きものが生息し、その複雑で豊かな生態系は熱帯雨林に匹敵するとも言われ、海洋資源、観光資源としての価値など、人間はサンゴ礁からさまざまな恩恵を受けている。特に熱帯の沿岸地域の人々の生活維持においては重要な意味を持っている。また、海中では堤防のように陸地を波から守る働きもする。
しかし、世界のサンゴ礁は現在さまざまな理由から深刻な危機に直面している。陸からの廃棄物や土砂の流出によるサンゴの直接破壊はもちろんだが、海水がにごって日光が遮られることによるサンゴ礁の衰退、オニヒトデなどサンゴの天敵の異常発生による被害、サンゴ体内の褐虫藻が対外に出てしまいサンゴの外側の白い部分だけが残る白化現象などだ。白化現象は海水温度上昇などによって起きると言われ、地球温暖化が一因とされている。白化が続くと栄養が取れなくなりサンゴは死ぬ。また、白化以外に気候変動がサンゴ礁に与える影響として、熱帯でのサイクロンの大型化や海洋の酸性化などが指摘されている。このように、サンゴ礁を襲う危機の多くが人間活動に起因しており、世界中の58%ものサンゴ礁が過度の衰退、または危機に直面しているという調査報告(1988年)もある。このような状況にあるサンゴ礁を保全するため、世界中で民・学・官のさまざまな主体による取り組みが行われている。
1992年の国連環境開発会議で採択されたアジェンダ21でサンゴ礁保護の重要性が強調され、サンゴ礁を取り巻く現状が世界的に知られるようになった。これを契機に、1994年には「国際サンゴ礁イニシアティブ」(ICRI:International Coral Reef Initiative)が設立され、サンゴ礁保全の取り組みを世界で展開している。日本国内では主に環境省が対応し、サンゴ礁の現状を知るためのモニタリング活動、自然環境再生事業、海中公園の管理、サンゴ礁に関する啓発活動などを行っている。2000年には、ICRIの活動の一環である「地球規模サンゴ礁モニタリングネットワーク」(GCRMN)の拠点として、国際サンゴ礁研究・モニタリングセンターが沖縄県石垣市に設立された。また、ICRIは2008年を「国際サンゴ礁年」と定め、各国でサンゴ礁の生態的、経済的、文化的価値やサンゴ礁が直面する危機についての普及啓発活動などを進めている。2007年4月に東京で開催されたICRI総会では、「国際サンゴ礁年活動計画」の作成が決定されたほか、「サンゴ礁と気候変動に関する決議」と「海洋保護区(サンゴ礁)のネットワークに関する勧告」などが決議された。