食卓やスーパーの陳列棚に何気なく並ぶ食材や料理も、実はほかの地域では見かけないものだった……。ということ、ありませんか?
今回は、そういった意外と知られていない地域に根づく食べ物を「ローカルフード」と題して、全国各地に住む本連載ライター陣に質問してみました。
聞いてみると、お赤飯やまんじゅう、漬物などのまちの文化が垣間見られるものからサブカルのまちならではの品々を取り扱う商店までバラエティ豊かな地域の特色が再発見できました。
新潟県中越地方のお赤飯は、あずきで薄ピンクに色づいたものではなく、醤油風味のもち米に金時豆が入った「茶色いお赤飯」です。どんなお赤飯なのかをお伝えすべく、中越地方流のお赤飯を購入してきました。
中越地方の方はきっとお赤飯と思うであろう〈田中屋本店〉のおこわ。これが地元でいうお赤飯なのですが、見ての通り商品名は「おこわ」でした。新潟市ではお赤飯とは認知されていないようです。(そりゃそうか)
中越地方のお赤飯がどうして醤油味なのか。調べてみると「この地域ではささげが採れず、代わりに身近にある醤油で色つけをした」「長岡市の摂田屋というまちで醤油づくりが盛んだった」など、諸説あるようです。
私があずきが入ったお赤飯をはじめて知ったのは、高校の卒業式でした。熨斗に「お赤飯」と書いてあるお祝い品を見つけ、ワクワクして包装を開けてみると見たことのないご飯が入っていたのです。「なんなんだ、これは」と、ひっくり返るくらいに驚きました。
ほどよい醤油の塩っけと甘〜い金時豆の組み合わせがたまらなくおいしい。
ちょうどお彼岸の時期だったからか、近所のスーパーにはもち米やあんこと並び、〈丸美屋〉の「新潟醤油赤飯の素」が販売されていました。
スーパー〈原信 紫竹山店〉の一角。
「醤油赤飯」というネーミングに、「これは醤油おこわではなくお赤飯です」と市民権を得たような誇らしさがありました。手軽にお醤油赤飯が食べられるのはうれしい限り。
その地域では当然のように食べられていて、でもほかの地域の方からはびっくりされる郷土の味はたくさんありますよね。先日は、東京の先輩に「新潟の太巻きにはクルミが入っているんですね」と言われ、そういうものだと思っていた私は驚きました。
茶色のお赤飯もクルミ入りの太巻きもおいしいので、新潟の味としてぜひ食べていただきたいです。
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齋藤悦子 さいとう・えつこ
新潟在住のフリーライター。しばらく勤め人でしたが、ひょんなことからライターの道へ。南魚沼市→新潟市→阿賀町→新潟市と県内を転居する生活をしています。寝るのが大好き、朝が苦手、スノーボードとたまに登山、ラジオとエッセイとレモンチューハイが好き。Instagram:@suzuki_epi/
標高800メートル、中ノ沢温泉街の一角で、まんじゅうを天ぷらにするという不思議な食べ物が売られています。名前はそのまま「天ぷらまんじゅう」。なんと、おやつではなく、おかずとしてめんつゆや醤油で食べるのがこの地域の定番です。
小豆の風味豊かなつぶあんの小麦まんじゅうと、あっさりしたこしあんの黒糖風味皮まんじゅうの2種類があります。
この不思議な食べ物の発祥は長野県といわれており、1643年に猪苗代に土津神社を建立した保科正之公が長野県高遠藩から会津藩に移る際に一緒に伝えられたのではないかといわれています。その後も会津藩の職人の移動に併せて、天ぷらまんじゅうは旅をしていきます。
会津藩主保科正之公の墓所、奥の院がある〈土津(はにつ)神社〉。土津は保科正之公の霊神号です。
仏壇に飾ってあったまんじゅうを天ぷらにしてみただけのおかずと、あんこづくりに命をかけた和菓子店との出合い。〈おいしさづくり日乃出屋〉の小豆と砂糖にこだわり抜いたあんこは、あっさりとした飽きのこないおいしさ。本当に、いくつでも食べられます。
お店を切り盛りするのは、気持ちのいいご夫婦です。(今回登場いただいたのは旦那さんのみ)
ひと昔前は、各家庭でも本当に仏壇のまんじゅうを天ぷらにしていました。今では家庭でつくる人は少ないですが、職人の天ぷらまんじゅうはいつでも猪苗代で味わえます!季節限定の味も登場する天ぷらまんじゅう。サクサクッ、モチっと、沁みるあんこの味。猪苗代町にお越しの際は、ぜひお召し上がりください!
information
おいしさづくり 日乃出屋
住所:福島県耶麻郡猪苗代町大字蚕養字沼尻山甲2855-131
TEL:0242-64-3448
MAIL:info@oishisazukuri.com
Web:おいしさづくり 日乃出屋
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遠藤孝行 えんどう・たかゆき
福島県の会津に位置する「猪苗代町」で地域おこし協力隊をしています。もともと東京でエンジニアをしていたこともあり、ITのノウハウを活かして「ふるさと納税」と「猪苗代湖の環境保全」を担当しております。現在、協力隊3年目となり、情報発信・教育・観光事業を主とした株式会社アウレを起業しました。
雪が降り、長く寒い冬の間、食べものを蓄えておくための知恵として、さまざまな保存食の文化が残る秋田。なかでも、畑で採れた野菜を保存しておく漬け物は、秋田の食卓に欠かせない存在です。
秋田弁には、漬け物を指す「がっこ」という言葉があります。
スーパーでは、家庭で漬け物をつくるための漬け物材料コーナーが充実。バリエーション豊富な塩や砂糖のほか、「三五八」という麹を使った調味料も並びます。また、夏野菜の漬け物として定番のきゅうりのからし漬けやなす漬けに使う粉からしやミョウバンも。
スーパーの一角が漬け物コーナーに。
別のスーパーでも。
「この漬け物には粗塩」「この塩が溶けやすくて使いやすい」など、家庭それぞれにこだわりのレシピがあるので、それに応えるラインナップが取り揃えられています。秋田で受け継がれて来た漬け物の文化が、スーパーの品揃えから見えてきます。
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國重咲季 くにしげ・さき
京都府出身。秋田県の大学に進学したことを機に、東北各地の1次産業の現場を訪ねるようになる。卒業後は企業に勤めて東京で暮らした後、にかほ市で閉校になった小学校の利活用事業「にかほのほかに」に携わるべく秋田にAターン。地域で受け継がれてきた暮らしを学び、自給力を高めることが日々の目標。夢は食べものとエネルギーの自給自足。
今回のお題は「まちの当たり前の食べ物」で、スーパーなどに普通に並んでいたり、「品揃えがほかのまちよりいいもの」ということでしたが、私の住む武蔵野市には郷土料理がある地方と違い、まちのどこでも売っている“ローカル食材”というものがありません。
ですが、武蔵野市の吉祥寺周辺には多国籍の料理店が多く点在しており、アジア食材を取り扱うお店が年々増えています。
吉祥寺駅から離れた場所にあるお店のほうがおもしろいものが見つかるんですよ。
ユニークな商品がズラリと並ぶ〈亜州太陽市場〉。
2021年にオープンした〈亜州太陽市場〉は、1400種ものアジア食材を販売。中国、韓国、台湾、タイ、インド、東南アジア諸国の約240種類もの調味料が揃います。
韓国料理に不可欠な調味料など、大抵のものがあります。
テレビドラマや映画で主人公がおいしそうに食べている食事シーンに登場した料理や現地の味の再現に不可欠な調味料や即席めんなど、大抵のものがここで見つかります。
映画やドラマで話題となった即席めんや冷凍食品などもずらり。
このほか、吉祥寺のまちで輸入食材店といえば〈カーニバル〉や〈VIC(ビデオインフォメーションセンター)〉。テレビや雑誌でもよく取り上げられています。
料理用食材はもちろん、おもしろい輸入菓子も豊富に取り揃えている〈カーニバル〉。
〈VIC〉は、海外クラフトビールやワインなど高価なものからリーズナブルなものまで取り揃えています。
〈VIC〉は海外から仕入れた雑貨やワイン、食材を多く取り扱っており、多国籍にごちゃごちゃっとしているところが魅力です。
〈VIC〉では、インド料理に欠かせない「豆」が豊富にあります。
昔も今も変わらず残るサブカルっぽい雰囲気のお店と、今どきのニーズに合った品揃えのいいスーパーが共存し、新たな賑わいを見せる「吉祥寺」。おもしろい輸入食材を探しにきてみてはいかが?
information
亜州太陽市場
住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町2-2−7 プラザオギノ 101
TEL:0422-27-1305
Web:亜州太陽市場
information
カーニバル
住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町2-10−12
TEL:0422-22-3303
WEb:カーニバル
information
VIC 3号店
住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町2-12-3
TEL:0422-21-3955
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Momo*Kinari きなり・もも
ライター・エディター。東京在住。Webや雑誌、旅行ガイドブックで撮影・執筆。 国内外でグルメや観光スポットを取材。たまに料理やモノづくり、イラストの仕事もしています。 Twitter:@Momo_kinari
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Etsuko Saito, Takayuki Endo, Saki Kunishige, Momo*Kinari
齋藤悦子/遠藤孝行/國重咲季/Momo*Kinari