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第37回エコ×エネ・カフェ「地方移住は令和の時代を生き抜くチカラを育む!!~地方創生から見るこれからの暮らしや働き方~」

  • 2021年10月27日
  • 緑のgoo編集部

「地域の中間管理職」になる

森:
阿部さんは移住して10年ですよね。

阿部さん(以下、阿部):
宮城県で初めての地域おこし協力隊として、縁もゆかりもない栗原市の花山地区に移住しました。10年前にはここまでできると思わなかったので、ひとえに地域のみなさまと豊かな地域資源のおかげだと思っています。

森:
移住のきっかけは何だったんでしょうか?

阿部:
元々東京で保育士をしていて、子育てをするなら里山がいいと思っていました。結婚して子どもを持ち2007年に仙台に里帰りしましたが、仙台も都市なので自然豊かなところへの移住を考えていました。
しかし当時は地域おこし協力隊を受け入れている自治体も少なく、地方創生という取り組みがまだ始まっていなかったので、移住の相談をしようと役所に行っても引っ越しの手続きと間違われたり(笑)。
そうこうしているうちに東日本大震災が起きたんです。お金があっても、水も食料もオムツもガソリンも手に入らない… 子ども達に何もしてあげられず、親として無力感を感じました。

その時直感的に、もう都市の暮らしに頼るべきではないと思いました。そして地域おこし協力隊の募集情報を知り、これだと思い栗原市の花山に移住しました。

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阿部:
花山に来て最初に感じたのは、みなさまがすごく泰然としているということでした。2008年に岩手・宮城内陸地震があり相当大きな被害を受けたのですが、それから3年も経たないうちにもっと大きな地震が起きてしまった。でも非常にどっしり構えていたんです。
とても不思議だったので聞いてみたら「田んぼも畑もある、水も薪もある。だから生活は成り立っちゃうよ」と。それを聞いた時「こういう大人になりたい!子どもたちにもそう育って欲しい、何があっても自分たちで生き抜くチカラを身につけて欲しい!」と思いました。都市部の価値観とは真逆ですね。

森:
阿部さんは「地域の中間管理職」を心掛けているということですが、どういう意味でしょうか。

阿部:
こっちの言葉だと「ねっぱる」、地域と外部をくっつける役割という意味です。
以前学生のインターンが来たとき、地域の方々が本当によくしてくれたんです。でも、若い人が若い人の言葉で「これをやりたい!」と言っても地域の人たちにはなかなか通じない。だから私が「この学生はこれを学んでいて、こういう夢を持っているのでよろしくお願いします」と伝えるフィルター役になりました。この役割は「よそ者」である私にしかできないので、心構えとしています。

森:
都市と地域の通訳みたいな感じですね。今では7つの事業を展開されているということですが、これはどういう経緯なんでしょうか?

阿部:
震災の関係で地域おこし協力隊としての任期が1年8ヶ月しかなく満足な活動はできませんでしたが、もう花山は終のすみかだと思っていました。
でも私には何もできることがない…保育士も、子どもが少ない地域では需要がありません。そこで、父親が建設業を経営していた関係で太陽光発電を始めることにしました。
最初は太陽光発電の保守管理から始め、そのうち空き店舗があるとお声掛けをいただき、空き店舗や飲食店を運営しながら、地域の特産品を使った「イワナの押し鮨」という商品を開発しました。
その他にも移住のお手伝いをする地方創生事業部、ヨガインストラクターの妻が講師を務めるヨガ事業部、栗原市の高校生と一緒に地域資源を発掘する保育教育事業部などがあります。
売り上げのウエイトが一番大きいのが観光事業部で、岩手・宮城内陸地震で長期休業に追い込まれた温泉旅館を事業承継して運営しています。2020年、12年ぶりに日帰り入浴を始め、2021年4月からは宿泊のお客様も受け入れています。

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地域に溶け込むには?

阿部:
花山地区は、よそ者の私から見たらすごく素晴らしく魅力的です。すごくおいしい野菜をつくれるというのは何にも勝る強みなのに、地域の方は自虐的にとらえるんです。なので協力隊時代から、「スゴく美味しい!これ売りましょうよ、すっごいな〜」と大きなリアクションを心がけています。
大きな地震に二度も見舞われたおじいちゃんおばあちゃんに元気になってもらいたくて、わざと大笑いするようなオーバーリアクションをすると「あの新しく来たおもしろいやつ、今なにやってんだ?」と気にかけてもらえるようになります。
よそ者としての分をわきまえながら、みなさまに地域の素晴らしさをわかっていただきたい、そしてみなさまとは何としてでも仲良くしたいと思っています。

地域に溶け込めるか悩んでいた時、子育て中のお母さんたちと出会いました。実家に住んでいたりお姑さんがいらしたりでなかなか気分転換ができないようだったので「家に来ませんか?」とお誘いしました。そのうちお父さんやお子さんも来てくれて家族ぐるみでお付き合いさせていただいて、そこから地域のつながりができました。

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阿部:
地域の仕事には二種類あります。一つ目が「稼ギ」。お金の意味で、私の場合だと一番大きいのが旅館業です。
もう一つは「務メ」です。地域のお祭りや草刈りなど、共同体で欠かすことのできない、地域にいる以上は必ずやらなければいけないというものです。この二つが両方できて初めて、色々な方に支えていただくことができると思っています。
花山地区は、昭和30年代に5000人いた人口も今では1000人をきり、高齢化率も50%を超えた典型的な中山間地域です。
栗原市のみならず宮城、東北に興味を持っている方に来てもらい、それぞれの地域と共存共栄を図っていきながら望ましい形を次世代の人に渡したいのですが、そのためには自分たちのエゴを押し付けるのではく幅広い意見を受け入れていく必要があると思っています。

移住と家族と仕事づくり

森:
ここからはおふたりにお話を聞いていきましょう。櫻庭さんは独身で阿部さんにはご家族がいらっしゃいますが、そこは移住に大きく関係しましたか?阿部さんは、ご家族の地域への馴染み方とご自身の地域の馴染み方にズレや軋轢はありましたか?

櫻庭:
地域の方からは「一人でこんな所に来たら一生一人だよ!」と言われます(笑)ここでは地域行事など一人では難しいことがたくさんあるので、阿部さんのようにご家族がいらっしゃると安定するんだろうなと思います。

阿部:
震災の関係で僕が先に移住し、翌年に家族が来ました。家族が来たことで「本気で花山に住むんだな」と思っていただいたようで、その時から受け入れの幅が広がったと感じました。
地域のお母さん方がかわいがってくれたので子どもたちはすぐに馴染めました。妻が「花山って一つの大きな保育園みたい」と言っていますが、本当にそうなんです。お母さん方が子育てのベテランで、震災の余震がとても多い不安な時期に妻にたくさんのアドバイスをくれたのが本当に助かりました。移住当初に妻が「畑があって食料がつくれるって凄いね」と感動していたのを今でもはっきり覚えています。

森:
阿部さんは39歳、櫻庭さんは40歳で移住されましたよね。インターンなどで20代の方が来た時の反応と、おふたりに対する地域の方の反応に差はありますか?

櫻庭:
やはり若い方が来てくれるとものすごく喜ばれますね。僕が「栗原って素晴らしいですね」言うのと若い女性が言うのとでは反応が全然違うんで(笑)。

森:
櫻庭さんのお仕事は民泊ですよね、仕事をつくる上で苦労したことはありますか?

櫻庭:
地域おこし協力隊が一般企業と違う点は、地域が困っていることを解決するという視点です。企業はいかに効率よくお金を稼ぐかが重要ですが、効率よくお金を稼げないから地域課題が発生しています。
一方で地域共通の課題なので声をあげれば共感してくれる人もいて、農産物の事業化は70歳以上の方々と一緒に頭をひねって汗水垂らして取り組んでいます。

森:
阿部さんは多角経営をされていますが、最初は再生エネルギーから始めたんですよね。

阿部:
耕作放棄地や空き家など使われていない部分が目につき、活用しないわけにはいかないと思ったんです。その時に最初に駆け込んだのは銀行ではなく信用組合です。限られたエリアでしか業務ができない信用組合にとっても人口が減ってマーケットが縮小しているときだったので、私たちの話を「わかるわかる」と熱心に聴いてくださいました。
太陽光発電は地域の理解がないとできないことです。地域で持て余していた耕作放棄地や森林で「発電をしましょう」と働きかけた時も、地域と新しいことをつなぐ「地域の中間管理職」の気持ちで取り組みました。取り組みを理解していただけるように露払いをする切り込み隊長的な役割ですね。

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