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「iPS細胞」 詳細解説

読み:
あいぴーえすさいぼう
英名:
iPS cells

2006年8月、京都大学の山中伸弥教授は、すべての細胞に変化させることができる「多能性幹細胞」、通称「万能細胞」を、マウスの体細胞からつくりだすことに成功したと発表して世界に衝撃を与えた。その1年後には、ヒトの体細胞からつくりだすことにも成功した。山中教授はこの万能細胞を「iPS細胞」と名付け、その後も研究を続けた結果、2012年10月にノーベル生理学・医学賞を受賞した。共同受賞者は、1962年にiPS細胞の実現につながる発見をした英国のジョン・ガードン博士だ。

iPSとは、“induced pluripotent stem”の略で、日本語では「人工多能性幹細胞」という。受精卵から分化した体細胞のほとんどが、生物の臓器や組織となって決まった役割を果たしている。一方、骨髄や神経など体内の一部には、「幹細胞」と呼ばれる未分化な細胞があり、必要に応じてほかの細胞に変化する。万能細胞は、血液や神経だけではなくどんな細胞にでも変化することができる。その代表的なものが受精卵で、そこから万能細胞をつくるES細胞の研究が世界中で行われてきた。山中教授の研究は、万能細胞を皮膚の細胞からつくりだすことに成功した点で画期的だ。

iPS細胞の登場により、難病の原因や治療法の研究が飛躍的に進むといわれている。また、つくりだした細胞を使って薬の効果や副作用などを確かめることができ、創薬の分野ではすでに細胞のキットが販売されて実用化されている。さらに、腫瘍などのように移植が必要な病気や、失った体の一部を新たにつくって移植する再生医療の分野への応用も期待されている。患者本人の皮膚からできた細胞による臓器や組織を移植するのは、他者から提供を受けるよりも拒否反応が起きる可能性が少ないと考えられるためだ。

環境の分野でも、iPS細胞を応用した研究が進められている。その代表的なものが、絶滅危惧種の系統保存のこころみだ。環境破壊や汚染のために絶滅の危機にひんしている野生生物の細胞を、遺伝資源として保存する。これにより、原因究明や保全に向けた研究に活用することが可能となる。国立環境研究所の環境研究基盤技術ラボラトリーは、キジ目の体細胞からiPS細胞をつくりだすことに成功した。

山中教授のノーベル賞受賞を受けて、文部科学省は2013年度から10年間で約300億円の助成を行うことを決めた。それでも、このような治療や研究が実現するのはまだ先のことであり、技術面だけでなく倫理面や特許など多くの点で解決すべき課題は多い。こうしたなか、加齢黄斑変性という進行性の目の病気を、iPS細胞で再生した網膜を使って治す研究が進んでいる。早ければ2013年度にも治療が始まる見込みだ。

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