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「環境リスク」 詳細解説

読み:
かんきょうりすく
英名:
Environmental Risk

現代社会では、さまざまな化学物質が利用されている。物の焼却などに伴って非意図的に発生する有害な物質も合わせると、世界で10万種、日本でも5万種を超える化学物質が流通しているといわれている。化学物質に関する対策を行うにあたっては、従来のように個別の化学物質に対する規制的手法を運用することに加えて、化学物質による環境負荷を未然に、そして、より効果的・経済的に低減するための新たな手法が必要とされている。環境リスクは、そのための考え方であり、ツールである。

環境省が自治体向けにまとめた化学物質に関するリスクコミュニケーションマニュアルは、環境リスクに関する基本的な知識や考え方を整理している。それによると、現在、流通している化学物質の中には、発がん性などの有害性をもつものが数多くあり、それらは大気や水、土壌、食品などの媒体を経て、人の健康や生態系に影響を与えているおそれがある。こうした環境汚染の影響を未然に防止するためには、環境中に排出された化学物質が人の健康や生態系に有害な影響を及ぼすおそれ、つまり環境リスクを評価し、その結果に基づいて適切な対策を講じていく必要がある。環境リスクの大きさは、化学物質の有害性の程度と、呼吸、飲食、皮膚接触などの経路で、どれだけ化学物質に接したかという暴露量で決まる。

化学物質による環境リスクは、有害性と暴露量の両面からとらえる必要があるとされる。有害性評価とは、化学物質が人の健康や生態系に及ぼす有害な影響を特定し、その濃度と影響の関係を定量的に整理するものである。一般的にはマウスやラットなどによる試験データに基づいて、人の健康に対する影響の評価が行われる。また、暴露評価は、人や生態系に対する化学物質の暴露量を見積るもので、多くの場合、化学物質の環境中の濃度を測定したデータに基づいて、人や環境中の生物に対する暴露量を把握する方法などがとられている。これらの有害性と暴露量の結果に基づいて、人の健康や生態系への影響の種類や程度、それらの影響が生じる暴露レベルを明らかにすることで、環境リスクの程度を総合的に判定することになる。

環境リスクについて考える場合に重要なのが、環境リスクの適正な管理である。どんな化学物質にも、利便性(ベネフィット)と有害性(リスク)があるため、有害であるからといってすべてを排除しようとすると、社会生活自体が成り立たなくなる可能性がある。環境リスクに基づく政策の決定などの判断にあたっては、化学物質の環境リスクをきちんと把握し、それを効果的に低減させるための措置を講じることが求められる。これが、環境リスク管理の基本的な考え方である。わが国では、20世紀末にダイオキシン類環境ホルモンなどが社会問題となった時、有害性のある化学物質への対策のあり方や政策の優先順位などをめぐって、学者や市民、企業、行政を巻き込んで環境リスクをキーワードとした一大論争が起こり、21世紀に入ってからも続いている。

制度面では、国際的には、1992年の地球サミットで採択されたリオ宣言の行動原則である「アジェンダ21」で、化学物質管理の課題がまとめられたことを受けて、経済協力開発機構(OECD)が1996 年に各国政府に対してPRTR制度の導入を求めた。PRTR制度は、人の健康や生態系に有害なおそれがある化学物質について、環境中への排出量と廃棄物に含まれる移動量を事業者自ら把握して行政庁に報告し、行政庁が排出や移動の量を集計、公表する制度のことである。日本でも1999年にPRTR法が公布された。また、難分解性、高蓄積性、長距離移動性、有害性をもつ物質はPOPs(Persistent Organic Pollutants:残留性有機汚染物質)と呼ばれ、地球規模の汚染が懸念されているため、「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」(POPs条約)が2001年5月にできた。日本でもこうした動きを受けて、同年6月にPCB特別措置法が制定され、PCB廃棄物の処分が義務づけられている。

一方、環境リスクを受け入れる市民などのリスクに対する考え方は、価値観や立場などによって大きく左右されるため、環境リスクの管理にあたっては、市民、事業者、行政などの関係者が、化学物質のリスクに関する情報を共有し、お互いの立場を理解することが必要である。このように、化学物質による環境リスクに関する正しい情報を、市民や事業者、行政などすべての関係者が共有し、相互の意思疎通を図ることや、それを進めるための場の設定を総称して、リスクコミュニケーションと呼ぶ。化学物質による環境や人の健康への影響を低減させていくためには、あらゆる主体が連携した取り組みが必要であることから、リスクコミュニケーションの推進が求められる。

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