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オオカミが眺めたであろう、約150年前の北海道の自然をテーマにした写真展

  • 2023年9月19日
  • コロカル
弟子屈町に住む写真家・水越武さんの写真展が開催中

私が弟子屈町に移住してうれしかったことは、写真家・水越武さんが暮らしているということ。

『槍・穂高』(山と溪谷社/1975年)、『雷鳥 日本アルプスに生きる』(平凡社/1991年)、『HIMALAYA』(講談社/1993年)など、数々の作品を世に送り出してきた、山岳写真の第一人者。

山の姿を写し出した、荘厳で崇高な作品の数々。「美しい」だけではない自然の偉大さが、静かに深く伝わってくる写真に惹かれる。

ポスターやフライヤーに使用させていただいたのは、満月の下で草を掘り出しているエゾシカの写真。

ポスターやフライヤーに使用させていただいたのは、満月の下で草を掘り出しているエゾシカの写真。

私などには想像もできないような深い思いで、自然を観察し続けている水越さんが、住処として選んだのが、弟子屈町だということ。

だから、川湯ビジターセンターでショップを始めるときも、真っ先に、水越さんの書籍を販売したいと思った。そして、屈斜路湖畔の森に囲まれたお宅に相談に行ったのだった。

あれから1年。写真展が開催できることになった。

阿寒摩周国立公園の自然情報を紹介する、川湯ビジターセンター。総面積約450平方メートルの2階建ての館内をフルに活用して、47点の写真を展示するという試みだ。

2023年9月1日から始まった写真展。入り口に掲げたのは、日本一の透明度を誇る摩周湖の空撮写真。ここならではの地形から生まれる美しさ。

2023年9月1日から始まった写真展。入り口に掲げたのは、日本一の透明度を誇る摩周湖の空撮写真。ここならではの地形から生まれる美しさ。

水越さんは、1938年愛知県生まれ。山岳写真家の田淵行男氏に師事し、以後、日本アルプスをはじめ、屋久島、ヒマラヤ、北米・シベリア、中南米・ボルネオなど、世界の大自然と向き合いながら撮影を続けている。

館内の奥には、紅葉の季節の針広混交林、林床に広がるエンレイソウの群落、雪に覆われた針葉樹の森など、森林の写真を7点並べている。

館内の奥には、紅葉の季節の針広混交林、林床に広がるエンレイソウの群落、雪に覆われた針葉樹の森など、森林の写真を7点並べている。

約30年前に北海道・弟子屈町に居を構え、その後に刊行された『カムイの森』(北海道新聞社/1996年)では、オオカミが徘徊していた頃の北海道の自然に思いを馳せ、「北海道の原生林」をテーマに、季節とともにさまざまな姿を見せる「北の森」を捉えている。

アカエゾマツの森に囲まれた、ここ川湯ビジターセンターにも、ときどきふらりと現れては、森の活用法についてアドバイスをくれたりする。

そして昨年11月には、『アイヌモシリ オオカミが見た北海道』(北海道新聞社/2022年)を刊行した。

大きな窓から、アカエゾマツの森を眺めることができる川湯ビジターセンター。階段の踊り場には、虹の光を受けて輝く知床の海や、深い霧に包まれた針葉樹の森の、大型写真を。

大きな窓から、アカエゾマツの森を眺めることができる川湯ビジターセンター。階段の踊り場には、虹の光を受けて輝く知床の海や、深い霧に包まれた針葉樹の森の、大型写真を。

半世紀以上にわたって、地球上の辺境を旅してきた目で、北海道の自然に挑む

写真集『アイヌモシリ オオカミが見た北海道』は、水越さんが捉えた「北海道の自然」が詰まった、全204ページから成る大型ビジュアル本である。

開くと、目次の隣に、1851年の北海道地図が掲載されている。150年以上前、北海道にまだオオカミが棲んでいた頃。

「伊能忠敬の測量をもとにフォン・シーボルトが作成した蝦夷(アイヌモシリ)の地図」との説明があり、地図上には、所蔵作品の撮影地が、活火山、森林、湿原……などの自然を表す記号で示されている。

「第一章 山岳」から。海に近い知床の山ならではの、湿った雪による樹氷。

「第一章 山岳」から。海に近い知床の山ならではの、湿った雪による樹氷。

写真集も、山岳、活火山、森林、河川、湖沼、湿原、海、野生生物、ジオヒストリー、天空の全10章で構成されていて、各章の冒頭には、北海道大学名誉教授・地理学者の小野有五氏による解説がつけられている。

昨年11月に刊行された写真集『アイヌモシリ オオカミが見た北海道』。今回の写真展に合わせて、英語版帯付きの特別仕様版が登場。

昨年11月に刊行された写真集『アイヌモシリ オオカミが見た北海道』。今回の写真展に合わせて、英語版帯付きの特別仕様版が登場。

「雄大」「美しい」「豊かな」など、数々の形容詞で表される「北海道の自然」が、どのような背景で育まれてきたのか。

自然の歴史や地理を知ることで、この地ならではの奇跡のような景観だということに気づく。

水越さんは、期間中に開催するトークイベントのテーマについて、「『語りかける自然』というのはどうでしょうか」と提案してくれた。

そのなかに身を置いて、真摯に向き合っていれば、きっと、自然は本当にたくさんのことを教えてくれる。

9月2日に行われたトークイベント「語りかける自然・第1回『地球』」には定員35名を超える多くの参加者が集まった。第2回『日本列島』は、9月16日に予定されている。

9月2日に行われたトークイベント「語りかける自然・第1回『地球』」には定員35名を超える多くの参加者が集まった。第2回『日本列島』は、9月16日に予定されている。

「美しい自然」の背景を知って、新たな感動体験を

トークショーの最後に紹介してくれたのは、水越さんが「世界を視野に入れて環境問題などを考えていくときに役に立つ、もっとも感動した立派な方」と推薦するデービッド・アッテンボローの著書。「私たちが生きていくのに必要な概念が凝縮されています」

トークショーの最後に紹介してくれたのは、水越さんが「世界を視野に入れて環境問題などを考えていくときに役に立つ、もっとも感動した立派な方」と推薦するデービッド・アッテンボローの著書。「私たちが生きていくのに必要な概念が凝縮されています」

写真展の出口に掲示する挨拶文(写真集のあとがきから一部抜粋)に、水越さんは、次のような言葉を贈ってくれた。

「(前文略)しかしこれ以上の地球の自然環境の破壊は何をおいても押しとどめたい。穏やかな地球で、多くの生き物たちとその恩恵を浴びるように受けてきた最後の世代になってしまうのではないか、と私は危惧する。それだけは何としても避けたいと切に願う」

川湯ビジターセンターでは、計47点の作品が展示されている。

川湯ビジターセンターでは、計47点の作品が展示されている。

9月は札幌市で『アドベンチャートラベル・ワールドサミット北海道・日本(ATWS2023)』が開催され、海外からの来館者が期待される時期でもある。館内の掲示は、写真集同様に日英併記とした。

国内外問わず多くの人が水越さんの作品に触れることで、「北海道の自然」の魅力をより深く感じながら、自然への関心も高めてもらえることも願っている。

profile

TAKESHI MIZUKOSHI 水越 武

みずこし・たけし⚫写真家。1938年愛知県豊橋市生まれ。北海道弟子屈町在住。91年『日本の原生林』で日本写真協会賞年度賞、94年講談社出版文化賞、99年第18回土門拳賞、2009年『知床 残された原始』などで芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。そのほか、『カムイの森』『わたしの山の博物誌』『月に吠えるオオカミ』など著書多数。最新刊は『アイヌモシリ オオカミが見た北海道』(北海道新聞社)。

Web:水越武オフィシャルウェブサイト

information

水越 武 写真展『アイヌモシリ オオカミが見た北海道』

日時:2023年9月1日(金)〜30日(土)

休館日:水曜

開館時間:8:00〜17:00

入館料:無料

会場:川湯ビジターセンター

住所:北海道川上郡弟子屈町川湯温泉2-2-6

TEL:015-483-4100 

Web:川湯ビジターセンター

※同時開催:9月1〜29日(土・日・祝休)、弟子屈郵便局(住所:北海道川上郡弟子屈町中央1-8-25 TEL:015-482-2440)にて、「野生生物」をテーマに約18点を展示中。

writer profile

Chigusa Ide

井出千種

いで・ちぐさ●弟子屈町地域おこし協力隊。神奈川県出身。女性ファッション誌の編集歴、約30年。2018年に念願の北海道移住を実現。帯広市の印刷会社で雑誌編集を経験したのち、2021年に弟子屈町へ。現在は、アカエゾマツの森に囲まれた〈川湯ビジターセンター〉に勤務しながら、森の恵みを追究中。

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