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エジプトの神殿など、消滅の危機にある世界の美しい建造物6選

  • 2024年4月27日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

エジプトの神殿など、消滅の危機にある世界の美しい建造物6選

 イタリアにあるピサの斜塔は1173年の着工以来、地盤の変動と不安定な基礎のために傾き続けている。しかし、1993年に始まった修復計画のおかげで、このユネスコ世界遺産は矯正され、ここ数十年は(少し)真っすぐになっている。

 ピサの斜塔以外にも、人が介入しなければいずれ崩壊してしまう歴史的建造物は多い。原因は時の経過による荒廃だけでなく、略奪、オーバーツーリズム、工業化、気候変動などさまざまだ。ここでは、人の手で救おうとしている価値ある建造物を5つ紹介しよう。

「ボローニャの斜塔」、イタリア

 現在、ピサに使われたものと同じ技術がイタリアのもう一つの斜塔に使われ、高さ約48メートルのガリセンダの塔がボローニャのスリルタワーになるのを防ごうとしている。

 ガリセンダは絵のように美しいボローニャの旧市街にそびえ立つ2つの塔の一つで、12世紀の建設時からバランスが崩れていると、ボローニャ大学の構造工学教授トマソ・トロンベッティ氏は話す。トロンベッティ氏によれば、傾斜は少しずつ悪化して4度に達し、「ボローニャの斜塔」とも呼ばれ、今は「危険」な状態になっているという(すぐそばに立つアシネッリの塔は高さ約97メートルだが、あまり傾いていない)。

 1993〜2001年に行われたピサの改修工事で使用された鉄塔とケーブルが、ガリセンダ周辺の下層土に固定されると、ボローニャ大学の地盤工学教授グイド・ゴッタルディ氏は説明する。「これは受動的な対策であり、塔の地下と石造りの構造物を補強、修復している間、塔を安全に保持することが目的です」。壊れやすい2つの塔を修復するための募金活動も行われている。

ハースト城、英国ハンプシャー

 英国王ヘンリー8世は1544年、ハンプシャー海岸の先端にハースト城を建設した。石造りの要塞(ようさい)は、ヨーロッパの侵略者からイングランドを守るためのものだった。しかし、どんなに粘り強い敵も、繰り返し迫り来る海にはおよばない。猛烈な嵐、海面上昇、そして、絶え間なく打ち付ける波によって、城の基礎は削り落とされ、2021年、東の砲台が部分的に崩壊した。

 崩壊後、城を補強するため、約2万2000トンの岩と丸石が追加された。「地上型レーザースキャニングを使って3Dデジタルモデルを作成したおかげで、最良の修復方法を評価できました」とハースト城を共同管理する「イングリッシュ・ヘリテージ」のナショナルプロジェクトマネージャー、ロン・ブレイクリー氏は話す。4月から11月上旬まで、城の武器庫や砲台を見学できるボートツアーが開催されている。

アビドス、エジプト

 アビドスは、エジプトの首都カイロから南に400キロ余りの干上がった渓谷にある。神殿とネクロポリス(大規模な墓地)が無秩序に広がっており、古代エジプト初期のファラオたちが埋葬されている。

 アビドスの建設が始まったのははるか5900年前だ。現在、訪問者は石柱が立つホールを歩いたり、エジプト王セティ1世をたたえる精巧な壁面彫刻を見たり、古代エジプトの死の神オシリスをまつっていたと思われる石造りの地下建造物オシレイオン(オシリス神殿)をのぞいたりできる。

 しかし、この遺跡は略奪者に荒らされてきた。古代には宝物が盗まれ、近年も違法な発掘が続いた。今や、アビドスはエジプトで最も厳重に警備され、最も訪問者が少ない遺跡の一つだ。「警備が厳重で、訪問者用の設備が整っていないことが、(アビドスの)訪問者の少なさにつながっています」と文化遺産を守るNGO「ワールド・モニュメント財団(WMF)」のプログラム担当バイスプレジデント、ジョナサン・S・ベル氏は話す。

 アビドスの衰退を食い止めるため、エジプト政府やWMFなどによって、いくつかの保護プロジェクトが立ち上げられている。カラフルな壁面彫刻を丹念にクリーニングしたり、オシレイオンの弱い箇所を補強するため、鋼鉄製のアンカーを打ち込んだりしている。

次ページ:ムルジュガの岩面彫刻

ムルジュガ、オーストラリア西オーストラリア州

 ムルジュガほど多くの作品が展示されている美術館はほとんどない。西オーストラリア州の荒野に、アボリジニの人々が何千年もの間、100万以上のペトログリフ(岩面彫刻)を刻んできた場所だ。パースの約1250キロ北に位置するこの屋外ギャラリーを訪れれば、ワラビーやカンガルー、先住民のシンボルの彫刻を見ながらハイキングできる。

 しかし、人里離れたバーラップ半島にあるこの世界最大のペトログリフ遺跡は、採掘をはじめとする工業化によってダメージを受けている。このまま汚染が進めば、ムルジュガは100年もたないかもしれないと科学者は警告している。

 2024年2月、ムルジュガの先住民の伝統的所有者たちが、この地を守る戦いで2つの勝利を収めた。まず、西オーストラリア州政府によって、開発予定地だった約254ヘクタールがムルジュガ国立公園に指定され、保護の対象となった。

 州政府はまた、先住民グループが画期的と歓迎する新方針を発表した。ムルジュガの管理について、先住民グループにより大きな影響力が与えられることになったのだ。現在、アボリジニの人々は次の目標として、ムルジュガをユネスコ世界遺産にする活動を主導している。

テオティワカン、メキシコ

 メキシコの首都メキシコシティから北に約50キロ、年間100万人以上の旅行者がテオティワカン遺跡を訪れる。1世紀から7世紀にかけて未知の文明によって建設された約3650ヘクタールの遺跡は1000年前、西半球最大の都市だった。

 太陽のピラミッドやケツァルコアトルの神殿など、印象的な石の建造物で知られるテオティワカンはオーバーツーリズムに悩まされている。また、風雨による損傷や1900年代の修復の不手際によって、建造物は朽ち果てている。さらに、WMFによれば、非公式の建物が遺跡の周囲に立ち並び、考古資料が豊富にありそうな土地を占拠している。

 ケツァルコアトルの神殿を保護するための取り組みはすでに始まっており、排水の改善、構造物の亀裂の補修、表面を覆う塩分の除去などが行われている。現在、持続可能な観光戦略を実現すべく、WMFなどの組織が地域社会により深く関わろうとしている。

オスターマン・ガス・ステーション、米国アリゾナ州

 歴史的建造物は壮大な城や中世の塔だけではない。アリゾナ州の小さな町ピーチスプリングスにある1920年代に建設されたオスターマン・ガス・ステーションは、長年にわたって地域住民の憩いの場となり、国道66号線を旅する人々に利用されてきた。

 百貨店シアーズのブロックキットでつくられたこの建物は特に、地元の先住民フアラパイにとって重要な場所だった。多くの人がここで働いたり、友人や親族と集まったりしていたためだ。

 グランドキャニオン・スカイウォーク(グランドキャニオンに設置されたガラスの橋)の約65キロ南に位置するこのガソリンスタンドは、2005年に閉店したとき、先住民グループが建物を購入したほど、フアラパイの人々に愛されている。現在、米国の遺産を保護するNGO「全米ナショナル・トラスト」の支援を受け、先住民グループが建物を修復している。

「崩れた壁は再建され、現在、新しい屋根を設置しているところです」とナショナル・トラストの保護担当シニアディレクターであるエイミー・ウェブ氏は話す。フアラパイの人々はこの建物を博物館、アートセンター、コーヒーショップ、EV充電ステーションとして活用する計画を立てている。

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