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海野和男のデジタル昆虫記

アリの巣の生き物図鑑

アリの巣の生き物図鑑
2013年02月28日

 アリの巣の生きもの図鑑という本を頂いた。
 丸山宗利・小松 貴・工藤誠也・島田 拓・木野村恭一の共著である。ページをめくると素晴らしい生態写真が並んでいる。そのほとんどは今まで見たことのない写真だ。撮影は小松貴、島田拓、工藤誠也、丸山宗利さん。いずれもプロやアマチュアの研究者だ。
 写真をメインに撮影された小松貴さんは信州大学で「東南アジア産アリ植物オオバギ属を巡る共生系および共生アリの系統学的研究」をされている若手の研究者でアマチュア昆虫写真家だ。研究者で,絵心も持っている方が、写真技術を身につけたからこそ撮れた写真で、しかも今までプロの写真家が撮った写真を遙かに凌駕する鮮鋭さで、見ているだけでまるで、アリの世界に迷い込んだような気にさせてくれる。
 ヤドリバチがアリの幼虫に、アリヤドリコマユバチがアリに産卵する瞬間など、良く撮れたものだと、びっくりさせられる。アリマキヤドリバチが産卵する瞬間では、アリに気づかれずに産卵するためこんなに長い産卵管をもっているのだと感心したりする。アリスアブがこんなにも種類がいたのだとびっくりしたり、ページをめくるごとに新たな発見がある。よく知られたアリとチョウの関係も工藤誠也さんによる今までにない素晴らしいできばえの写真が多数掲載されている。
 アリの巣に住む生物が166種掲載されているそうだが、現在まで知られているアリの巣に住む種類の90%を網羅しているというからすごい。こんなにアリの巣には生き物がたくさんいるのかと驚いてしまう。その多くは近年知られたものや著者らが見つけたものも多く、その努力には頭が下がる。この本をきっかけに、アリと不思議な関係をもつ生き物がまだまだ発見されるだろう。特定のアリとの関係を持つものが多いから、その種類数はいったいどれくらいになるのだろうか。
 「アリの巣の生き物図鑑」というタイトルはよかったと思う。一般に研究者らはアリの巣に住む昆虫を好蟻性昆虫と呼ぶが、これでは一般の人には何のことだか分からない。アリの巣の生き物図鑑ということで、昆虫だけでなく蟻だけを食べるクモなども出てくる。これらの生き物はアリと密接な関係を持っており,アリと共に進化してきたとのだ。こんな不思議な関係がアリとアリの巣に住む生き物との間にあるかと驚かされる。
 デジカメがあってこそ撮れる写真だと思う。デジカメの発達で、こんなにも詳細な写真が撮れるのかというのも,きっと昔の研究者には驚きだろう。
 ぼくは職業写真家であるが、研究者が良い写真を撮ったら凄いのにと,若い頃から思ってきた。ところが昔の研究者の写真は見るに堪えないものも多く、それ故、われわれプロ写真家の出番があった。ぼく自身、プロの昆虫写真家の存在意義は研究者と昆虫、さらに虫好きの子供たちと昆虫をつなぐことと思っていた。しかし、今はデジタルカメラの発展と努力で、研究者自身が素晴らしい写真を撮れる時代になったのだと感慨深い。
 英語も表記されていて,著者らの海外の研究者や愛好家に見てもらいたいという意志が強く感じられるのは素晴らしい。この本ではじめて明らかにされる事実も多いのだと思う。だから本を論文と同じように扱っても良いのかもしれない。論文は難しすぎて読む気にならないが、こんな本なら,写真を見ているだけでも楽しいし,じっくり見れば色々と考えさせられることも多いと思う。4500円と高価だが、上製本で本の体裁も良く、内容からすれば激安だ。
 著者の一人、丸山 宗利さんにはアリの巣をめぐる冒険という著書がある。こちらも合わせて読まれると面白いのではと思う。

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