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生物間の単純ではない相互作用
シカが増えるとジャコウアゲハは減る?

  • 2017年9月8日
  • NACS-J

 ある1種の生きものが増加し過ぎたとき、同じ場に暮らす別の生きものにはどのような影響があるのでしょうか? 現在、日本各地で増え過ぎて食害などの問題があげられているニホンジカ。今回はそのシカとジャコウアゲハ、そして餌植物の3者間に見られる関係を紹介します。

ジャコウアゲハの幼虫は有毒ウマノスズクサが食物

 私たちの周囲には多くの植物とそれを利用する昆虫が見られます。これらの昆虫の中には、どの植物とも等しく関係を持つのではなく、特定の植物と密接な関係を持つものが多く知られています。たとえば、モンシロチョウの幼虫はキャベツなどのアブラナ科、アゲハチョウの幼虫はサンショウなどのミカン科植物しか食べません。昆虫と植物に見られるこのような一対一の関係は、植物を食べようとする昆虫と食べられないようにする植物との間の進化的な競争の結果だと考えられています。
 今回紹介するジャコウアゲハ(写真1~3)も、特定の植物との密接な関係が見られます。ジャコウアゲハは東アジアに広く分布するアゲハチョウ科の昆虫で、日本では本州から南西諸島に生息しています。ジャコウアゲハの幼虫(写真4)はウマノスズクサ科ウマノスズクサ属の植物のみを食べますが、この植物はアリストロキア酸という有毒物質を含んでいるため、普通の昆虫はこれを食べられません。しかし、ジャコウアゲハはこの毒をものともしないばかりか、その毒を体内にため、天敵からの防御にも利用しています。
縮小ジャコウメス1 縮小ジャコウオス ▲写真1・2 ジャコウアゲハ Byasa alcinous.成虫のメス(左)とオス(右)。飛び方はゆっくりとしており「山女郎(やまじょろう)」の別名を持つ。
300ジャコウ蛹 300ジャコウ幼虫 ▲写真3(左) ジャコウアゲハの蛹。特徴的な形で「お菊虫(きくむし)」とも呼ばれる。
▲写真4(右) ジャコウアゲハの終齢幼虫。幼虫は毒を含むウマノスズクサ類の葉や茎を食べる。

餌植物の違いによって羽化の時期が異なる

 ジャコウアゲハの生活史(一生の間の生活過程)も、ウマノスズクサ属をうまく利用できるようになっています。本州に生息するジャコウアゲハは平地ではウマノスズクサ、山地・丘陵地では主にオオバウマノスズクサ(以下オオバ)を利用しています(写真5・6)。

300ウマノスズクサ 300オオバウマノスズクサ
▲写真5・6 ウマノスズクサ(左)とオオバウマノスズクサ(右)。
 ジャコウアゲハの幼虫は平地ではウマノスズクサ、山地ではオオバウマノスズクサを主に利用する。


 異なる餌植物を利用する地域間ではジャコウアゲハの羽化の時期は異なり、ウマノスズクサを利用する地域では年に3~5回成虫が羽化しますが、オオバを利用する地域では春に1回、多くの成虫が羽化するものの、夏にはほとんど羽化が見られません(図1)。

図1
図1 各餌植物を利用する個体群での生活史
 平地でウマノスズクサを利用する個体群では春から秋まで羽化が見られるが、オオバウマノスズクサを利用する地域では夏に羽化する成虫は少なく、そのまま冬を越す。



 同じジャコウアゲハという種の中でこれほど生活史が異なることの原因として、餌植物種間での葉の質の違いが考えられています。草本性のウマノスズクサに対し、オオバは木本性のつる植物で、春先に新芽が開いて葉が展開した後、夏に葉が硬くなります。ジャコウアゲハの幼虫は葉の毒には対応できますが、あごの発達していない小さな幼虫では硬くなった葉を食べるのは困難です。そのため、葉が硬くなるオオバを利用している地域では、葉の質の低下に合わせて夏から蛹で休眠してしまい、春先に1回だけ羽化するような生活史が進化したと考えられています。
 詳しく研究を進めると、同じオオバを利用する地域の中でも、ジャコウアゲハの生活史にはばらつきがあることが分かりました。通常、オオバは夏に葉の質が悪くなりますが、人による刈り取りなどがあると、夏でも新しい葉が盛んに出てきます(写真7)。

420補償生長
▲写真7 補償生長。刈り取られることで、新しい葉を再生長させる。


 このような植物の反応は、「補償生長」と呼ばれ、洪水や台風によるかく乱、植食者からの採食によっても生じます。補償生長後の新しい葉は、昆虫の成長に必要な窒素分が多く含まれているため、ジャコウアゲハは夏でも質の良い葉を食べられる場合があるわけです。
 質の良い軟らかい葉で幼虫を飼育すると、早く蛹になっただけでなく、その蛹の休眠率も大きく低下しました(図2)。すなわち、質の良い葉がある場合には夏にも羽化して子孫を残し、質が悪い場合は蛹で休眠して次の年の春まで待つ、というように、ジャコウアゲハは葉の質に合わせて柔軟に生活史を変化させていたわけです(図3)。
300図2 300図3
図2 異なる硬さの葉で飼育したときのジャコウアゲハの反応
図3 餌の質に応じた休眠性の変化

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