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2017年度は、日本自然保護協会へ寄付させていただきます。
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ある1種の生きものが増加し過ぎたとき、同じ場に暮らす別の生きものにはどのような影響があるのでしょうか? 現在、日本各地で増え過ぎて食害などの問題があげられているニホンジカ。今回はそのシカとジャコウアゲハ、そして餌植物の3者間に見られる関係を紹介します。
私たちの周囲には多くの植物とそれを利用する昆虫が見られます。これらの昆虫の中には、どの植物とも等しく関係を持つのではなく、特定の植物と密接な関係を持つものが多く知られています。たとえば、モンシロチョウの幼虫はキャベツなどのアブラナ科、アゲハチョウの幼虫はサンショウなどのミカン科植物しか食べません。昆虫と植物に見られるこのような一対一の関係は、植物を食べようとする昆虫と食べられないようにする植物との間の進化的な競争の結果だと考えられています。
今回紹介するジャコウアゲハ(写真1~3)も、特定の植物との密接な関係が見られます。ジャコウアゲハは東アジアに広く分布するアゲハチョウ科の昆虫で、日本では本州から南西諸島に生息しています。ジャコウアゲハの幼虫(写真4)はウマノスズクサ科ウマノスズクサ属の植物のみを食べますが、この植物はアリストロキア酸という有毒物質を含んでいるため、普通の昆虫はこれを食べられません。しかし、ジャコウアゲハはこの毒をものともしないばかりか、その毒を体内にため、天敵からの防御にも利用しています。
▲写真1・2 ジャコウアゲハ Byasa alcinous.成虫のメス(左)とオス(右)。飛び方はゆっくりとしており「山女郎(やまじょろう)」の別名を持つ。
▲写真3(左) ジャコウアゲハの蛹。特徴的な形で「お菊虫(きくむし)」とも呼ばれる。
▲写真4(右) ジャコウアゲハの終齢幼虫。幼虫は毒を含むウマノスズクサ類の葉や茎を食べる。
ジャコウアゲハの生活史(一生の間の生活過程)も、ウマノスズクサ属をうまく利用できるようになっています。本州に生息するジャコウアゲハは平地ではウマノスズクサ、山地・丘陵地では主にオオバウマノスズクサ(以下オオバ)を利用しています(写真5・6)。
▲写真5・6 ウマノスズクサ(左)とオオバウマノスズクサ(右)。
ジャコウアゲハの幼虫は平地ではウマノスズクサ、山地ではオオバウマノスズクサを主に利用する。