水銀のうち毒性の強い有機水銀による環境汚染と健康被害は、先進国では影をひそめたが、途上国では深刻化の度合いを増している。主な原因として、石炭の燃焼、金の採掘に伴う汚染物質の流出、廃棄された蛍光灯など水銀を含む製品の回収や処理が十分に行われていないことがあげられる。水銀による環境汚染と健康被害を防ぐため、国連環境計画(UNEP)が2013年に熊本県で開催した外交会議で水俣条約(水銀条約)が採択された。
日本は有機水銀の中でも毒性が強いメチル水銀により、熊本県で水俣病が、新潟県で第二水俣病が発生した負の歴史をもつ。この反省を踏まえつつ、水俣条約による規制を国内で実施するため、2015年6月に「水銀による環境の汚染の防止に関する法律」(水銀汚染防止法)と、「大気汚染防止法の一部を改正する法律」が成立した。水銀汚染防止法は、水銀の掘採、特定水銀使用製品の製造、特定の製造工程における水銀等の使用などを禁止している。
水銀鉱の掘採は全面的に禁止する。また、特定水銀使用製品の製造も主務大臣の許可を受けた場合を除いて禁止し、部品として他の製品の製造に用いることも禁止する。対象となる品目は政令により定められる予定で、中央環境審議会の答申によると、水銀を含む電池(ボタン電池の一部を除く)や一部の蛍光ランプ、化粧品、駆除剤などで、2020年までに段階的に廃止される。
さらに、水銀等を使用する方法による金の採取を禁止するとともに、水銀等の貯蔵や水銀を含む再生資源の管理に関する技術指針を定める。水銀等の貯蔵や水銀含有再生資源の管理を行っている者には報告義務がある。また、主務大臣は、水銀等による環境の汚染の防止に関する計画を策定する。罰則としては、水銀鉱の掘採禁止に違反した者は5年以下の懲役か300万円以下の罰金に、特定水銀使用製品の製造禁止に違反した者は3年以下の懲役か100万円以下の罰金に処し、いずれも併科されることもある。
一方、水銀汚染防止法の制定と同時に大気汚染防止法が改正され、水銀排出施設に係る届出制度が創設されたほか、水銀等に係る排出基準の遵守義務が定められた。届出対象外でも水銀等の大気中への排出量が相当程度の「要排出抑制施設」については、自主的な排出抑制の取り組みを企業に求める。両法とも一部を除いて水俣条約が効力を生ずる日から施行される。