地球上には、決まった地域や場所で一生を過ごすのではなく、餌や繁殖場所を求めて、季節の変化などに対応して定期的に長距離の移動を行う野生生物がいる。このような行動をとる種を「移動性動物種」と呼び、渡り鳥やクジラ、ウミガメ、アザラシ、昆虫などさまざまな種類がいる。これらの移動性動物種を保護するため、UNEP(国連環境計画)の主導により「移動性野生動物種の保全に関する条約」が1979年に採択され、1983年に発効した。略称は「CMS」で、ドイツのボンで採択されたことから、「ボン条約」と呼ばれる。
条約事務局はUNEPのボン事務所にあり、2014年6月現在で110カ国以上が加盟している。ただし、日本は加盟していない。外務省の見解によると、日本が加盟するワシントン条約やラムサール条約と規制内容が重複しているためだという。一方で、クジラが適用対象になっていることが理由であるという指摘もある。ボン条約は移動性動物種について、その種に属するものの相当部分が、周期的にかつ予測できる形で、1以上の国境を越える野生動物の種と定義している。その上で、締約国に対して、移動性動物種とその生息地を保護するための措置を個別にまたは協力してとるよう求めている。
そして、移動性動物種のうち絶滅のおそれがあるものを附属書1に掲載し、締約国に早急な保護措置の実施に努めるよう求める。また、国際協定の対象となる「地域協定対象種」を附属書2に掲載し、締約国に保全と管理に関する協定の締結に努めるよう求める。2つの附属書への重複掲載も可能だ。地域協定対象種には、ガンカモ類、コウノトリ、ツル、カモメ、ペンギンなど多くの鳥類が掲載されている。渡り鳥に関してはいくつかの国の間で渡り鳥条約が結ばれているが、ほかの動物も含めた国際的な保護の枠組みとしては最大のものだ。締約国はこのほかに、移動性動物種に関する研究の促進、協力、支援を行う。
ボン条約の締約国会議(COP)は定期的に開催されており、2011年にノルウェーのベルゲンで行われたCOP10では、危機にひんする移動性動物種の保護強化について各国が合意した。COP11は2014年にエクアドルで開催される予定だ。また、ボン条約の下で、特定の種に関する移動の範囲内における協定なども締結されている。これまでに、ヨーロッパのコウモリ、地中海と黒海のクジラ類、バルト海と北海の小型鯨類、ワッデン海のアザラシ、アフリカとユーラシア間を移動する水鳥、アフリカ大西洋岸のウミガメ、ソデグロヅルなどを対象とした協定や覚書が結ばれた。
一方、ボン条約及びアフリカ・ユーラシア渡り性水鳥保全協定(AEWA)の主催により、世界規模で渡り鳥とその生息地を守るキャンペーンである「世界渡り鳥の日」(WMBD)が、2006年から毎年行われている。