サイト内
ウェブ

「生態系と生物多様性の経済学」 詳細解説

読み:
せいたいけいとせいぶつたようせいのけいざいがく
英名:
TEEB:The Economics of Ecosystems and Biodiversity

生態系が破壊され、生物多様性が失われることは、人間を含めたあらゆる生物に大きな影響を及ぼす。一方で、生物多様性の減少による被害は目に見えにくく、私たちの社会にどのような損失をどれだけ与えるのかという定量的な評価はこれまでなかった。このため、2007年にドイツで行われたG8ハイリゲンダム・サミットで採択された「ポツダム・イニシアティブ―生物多様性2010」は、「生物多様性の地球規模の経済的価値と、その損失に伴うコストや保護対策に失敗した際のコストと保全に必要なコストの対比についての分析プロセスに着手する」ことを第1の課題としてあげた。この提言を受けて、「生態系と生物多様性の経済学(TEEB)」と題するレポートの作成がドイツによる主導のもとに始まった。

計画とタイトルのお手本になったのが、英国の経済学者であるニコラス・スターン氏が2006年に発表した「気候変動の経済学(スターン・レビュー)」だ。スターン・レビューは、地球温暖化による経済への影響の深刻さを指摘しつつ、早い対応によって最悪の事態を回避できることを示した画期的な報告で、その後の国際的な気候変動対策に大きな影響を与えた。まさに「生物多様性版スターン・レビュー」を目指すTEEBの取りまとめ作業は、ドイツのシグマール・ガブリエル環境大臣(当時)の要請によりドイツ銀行のパヴァン・スクデフ氏のもとで進められ、2008年にボンで開かれた生物多様性条約第9回締約国会議(COP9)でTEEBの「第1段階」となる中間報告が発表された。

TEEB中間報告は、人類は生活や産業、福祉などあらゆる面で生態系サービスがもたらす恩恵を受けているにもかかわらず、ほとんどが公共財として扱われ市場や価格もなく経済面からの評価が行われてこなかったことが、生物多様性の減少や悪化をもたらしたと指摘。このまま何も対策を行わなければ、2050年までに次のような深刻な事態を迎えることになると警告している。1) 自然地域が2000年比で11%減少、2) 農地の約40%が集約農業の土地に変更、3) サンゴ礁の約6割が消滅。また、生態系サービスへの依存度が高い貧困層をとりまく課題が正しく評価されていないとしている。

その上で、生態系と生物多様性がもたらすメリットに経済的な価値を見出すことが不可欠であり、生物多様性損失によるコストの測定や、生物多様性の保全にかかる費用の算定などが必要であるとしている。そして、生物多様性を経済面から評価する国際的な枠組みの鍵となる要素として、次の6点をあげている。1) 生物多様性損失の原因調査、2) 政策決定者が直面する代替策や代替戦略の評価、3) 生物多様性保全対策の費用と便益の調査、4) リスクと不確実性の明確化、5) 場所の明示、6) 生物多様性の損失と保全による影響の公平な配分。

TEEBの「第2段階」にあたる最終報告は、2010年10月に名古屋市で開催されるCOP10までに公表される予定だ。最終報告では、中間報告で示された方向性や提言を踏まえて、生態系と生物多様性を保全する政策の範囲とあり方などが体系的に示される。

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。