近年、産業廃棄物の不法投棄や、BSE(牛海綿状脳症)の発生、食品の不当表示など、消費者の「食の安心、安全」に対する不信感が高まる出来事が相次いで起きた。このため、産廃の適正処理や、ある食品がどこで生産され、どのように育てられ加工され、どのような経路で流通したかなど、さまざまな対象物の履歴を確認するトレーサビリティーの確保が喫緊の課題となった。ICタグは、その実現に欠かせない電子ツールだ。
ICタグは、約0.4〜1.0mmの情報を記録するICチップと、無線通信用のアンテナなどの部品から成る。無線タグ、RFID(Radio Frequency ID)タグ、RFタグと呼ぶこともある。食品を例にとると、ICチップには従来主流だったバーコードと比べて、価格や消費期限だけでなく、生産地、生産者の住所・氏名、使用した飼料、輸送時の温度など、大量の情報を入力できる。このタグを商品に荷札のように添付し、コンピューターやインターネットにつないで店頭で読み取れるようにすれば、その情報を消費者が売り場などで確認することができるようになる。
ICタグは食品関係だけでなく、さまざまな商品の生産、流通、販売管理に活用できるため、国内外、業種業態を問わず、その実用化が加速している。東京都は2005年から、医療廃棄物を安全で確実に、より適正に処理するために電子タグを活用した医療廃棄物の追跡システム事業を開始した。また、農林水産省は民間の小売店と共同で、青果物にタグを付けて流通経路を追跡するシステムの実証実験を行った。東京のある回転寿司店は、皿の底にICタグを埋め込み、精算に必要な時間を短縮する試みを行った。
医療現場では、患者の体質や過去の投薬履歴をICタグに入力し、そのタグと薬に付けたタグの情報を読み取り機で照合すれば、薬の副作用を防ぐような使い方もできる。また、蔵書管理に使用している図書館もあるなど、さまざまな分野における活用が広がっている。さらに、スマートホンなどの携帯端末との連携も進みつつある。
一方、個人情報の保護が問題となっている。商品に付けられたタグには、価格など多くの情報が入力されているためだ。また、タグ自体の単価や読み取り端末の価格をいかに下げるかが大きな課題だ。