水は、私たち人間を含むすべての生物が生きていくためになくてはならないものだ。水は多少汚れても自然循環の過程で浄化されるが、有害物質などが自然の浄化力を超えて循環プロセスに入ってくると、水質汚染(水質汚濁)を引き起こす。水質汚濁は典型7公害のひとつであり、その原因物質にはさまざまなものがある。公共用水域に排出される不用な水のことを排水といい、いろいろな不純物や有害物質を含んでいる。こうした排水の処理方法には大きく分けて生物学的処理と物理化学的処理があり、後者の中でも多く用いられているのがイオン交換法だ。
イオンとは、電荷を帯びた原子などのこと。イオン交換法は、排水中の溶存イオンとイオン交換体のイオンを交換することにより、汚染物質を濃縮・分離して除去する処理法だ。イオン交換法は、カドミウム・鉛などの重金属化合物や、下水や工場排水に含まれるアンモニア性窒素などの物質を除去するほか、有価物としての回収に使われる。また、有機水銀などの有機金属化合物も処理することができる。イオン交換体を適切に選ぶことで目的とする物質を効率よく除去できるイオン交換法は、電子部品の製造や有価金属回収など工業分野で広く用いられている。
代表的なイオン交換体であるイオン交換樹脂は、その性質により陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂に分けられる。イオン交換樹脂は比較的高価なので再生して使われることが多いが、その際に薬剤を使うとさらに費用がかかるため、処理工程水の回収や有価物の回収のように排水量が大きく、対象イオンの濃度が低い場合に有効であるとされる。イオン交換体にはほかにもイオン交換膜やゼオライトなどがある。イオン交換体は排水中の汚濁物質濃度が高いとイオン交換の能力が落ちてしまう。対策として、排水をイオン交換体へ送る前に懸濁物質(SS)などを除去したり、目的とするイオンだけを選択的に吸着するキレート樹脂を投入したりする。
イオン交換法に用いられるイオン交換膜は、海水から食塩(塩化ナトリウム)を効率的に取り出すのにも使われる。かつては水銀を電極とする電気分解方式により水酸化ナトリウムや塩素がつくられていたが、水銀を含む工業排水が公害問題を引き起こしたことからイオン交換膜方式が開発された。イオン交換膜は世界各国で飲料水や清涼飲料水の製造などに利用されている。また、イオン交換膜を燃料電池用の固体電解質膜に利用することで、燃料電池の耐久性向上が期待されている。さらに、イオン交換樹脂を固定相に使う分析法のイオンクロマトグラフィーは、環境分析の分野で広く用いられている。