A: PRTR(化学物質排出移動量届出制度)は、有害性のあるさまざまな化学物質がどんな発生源から、どれくらい環境中に排出されたか、または廃棄物などに含まれて事業所の外に運び出されたかというデータを把握、集計、公表する仕組みだ。日本では「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(化管法)」によりPRTRが制度化され、対象となる化学物質が「第1種指定化学物質」として指定されている。人や生態系への有害性があり、環境中に広く存在する(暴露性がある)と認められる物質だ。第1種指定化学物質には、揮発性炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)や有機塩素系化合物(ダイオキシン類、トリクロロエチレンなど)、農薬(臭化メチルなど)、金属化合物(鉛とその化合物、有機スズ化合物など)、オゾン層破壊物質(CFC、HCFCなど)、石綿などがある。2008年11月に化管法施行令が改正され、第1種指定化学物質が従来の354物質から462物質に拡大された。2009年4月1日から改正後のPRTR対象物質に基づく排出量の把握が開始され、2010年4月1日から同じく届出が始まる予定だ。
A: 1984年にインドのボパールで化学工場の事故が起こり、メチルイソシアネートという有害物質が大量に大気中に放出され、死者が2000人を超える大惨事となった。この工場が米国の現地法人であったこと、また、その後1年以内に米国内で同じような漏洩事故が起こったことから、米国内で化学物質がどれくらい排出されているかを住民が知る必要があるという世論が高まりをみせた。こうした中で1986年に米国で導入された「有害物質排出目録(TRI)」が本格的なPRTR制度の始まりと考えられている。
その後、リオデジャネイロで開かれた1992年の国連環境開発会議(地球サミット)で「情報の伝達・交換を通じた化学物質の管理」する手段としてPRTRを位置づけたことによって、PRTRが化学物質の情報管理とリスク管理の国際的な手法として認知されていった。また、経済協力開発機構(OECD)が、地球サミット以降、加盟国にPRTR制度の導入を積極的に働きかけた結果、米国やカナダ、オーストラリアなどの多くの国がPRTRを法制化した。それに加えてEU諸国では、オーフス条約に基づくPRTR議定書や、「統合汚染防止管理指令(IPPC指令)」などの採択を受けたPRTRへの取り組みが進められている。