私たちが送っている豊かな生活は、プラスチックや合成繊維、医薬品、農薬、洗剤、塗料など、化学物質を原料とした製品によって支えられているといっても過言ではない。化学物質は世界で約10万種、日本でも約5万種が流通しているといわれている。また、製品の中に含まれるだけではなく、生産の途中でも、あるいは製品が廃棄されてからも、空気中や水、土壌などの環境中に排出される。排出、流出した化学物質の中には発がん性のあるものなど人体への影響が懸念されるものも少なくない。
PRTR(化学物質排出移動量届出制度)は、このような化学物質の人体や環境への影響を防ぐために、どんな化学物質がどこから出て、どこに行っているのかを把握し、そのデータを市民やNGO/NPO、行政、事業者などが共有するための仕組みだ。日本では1999年に「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(化管法)」により制度化され、2001年4月から実施されている。
PRTRの対象となる化学物質を製造、使用している事業者は、有害性のある化学物質が環境中に排出した量と、廃棄物や下水として事業所の外部に移動させた量を把握し、行政機関に年1回届け出ることが義務づけられている。なお、化学物質の移動にあたって、化管法では事業者が化学物質や製品を他の事業者に出荷する際に、相手方に対してその化学物質に関する情報を、化学物質等安全データシート(MSDS:Material Safety Data Sheet))によって提供することが求められている。
行政機関は、それらの各事業所のデータを集計すると同時に、家庭や農場、自動車などから排出される対象化学物質の量を推計し、これらのデータを併せて公表する。これによって、市民やNGO/NPO、行政、事業者などが、有害と思われる化学物質の発生源、量などを知ることができ、環境リスクを持った化学物質の排出削減とその管理に協力して取り組むことができるようになった。PRTRは、市民が自らの生活を点検して化学物質の使用量を減らしていくことなどを可能にする、新たな化学物質管理の手法だ。
2008年に化管法施行令が改正され、PRTR対象物質が見直しされたほか、対象業種に医療業が追加された。改正後のPRTRの対象物質数は462物質となる。