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【漫画】「ここは出ていく駅だから」寂れ行く故郷を離れる青年描いた漫画に共感「切ない」「じんわりきますね」

  • 2023年1月19日
  • Walkerplus

大学進学のため、生まれ育った町を離れようとしていた青年。だが直前になって、故郷を去ることに迷いが生まれ……。pixivコミック月例賞(2022年10月投稿分)で優秀賞を受賞したむつ さとし(@MutsuSatoshi)さんの漫画「ここは出ていく駅だから」は、誰しもが通る別れの季節と、故郷への葛藤が丁寧に描かれた作品だ。

■寂れた故郷を離れる青年と、家族それぞれの「町」への感情描く短編
ローカル線の終点、門津田(もつだ)に暮らす高校生のヒロ。都会にある大学の入試を終え帰宅したヒロは、家族に「やっぱ おれ 大学いいわ」と、進学をやめ家業の釣り具屋を継ぐと告げる。

ヒロの脳裏には、同じく進学のため町を離れる同級生たちの楽しげな会話がよぎっていた。彼らの態度に「わざわざ遠くに行かなくたっていいだろ…」と、生まれ育った町に対する複雑な思いが心中で渦巻いていたのだ。

父とはケンカし母には諭されながら、それでも結局は大学に進むことを選び、町を離れる日がやってきたヒロ。両親に送り出された後、ヒロはホームで待っていた祖父と、列車が着くまでの間、門津田の町について会話を交わす。

時は流れ、一児の父となったヒロは、墓を移す前の最後の墓参りのため、息子とともに門津田へ里帰りする。その道すがら、息子が「あれなに?」とたずねたのは、今では廃線となった門津田の駅だった。少年時代のヒロを送り出した廃駅に、大人になった今、親子で立ち寄ることになり……、というストーリーだ。

■「みんなあそこから出てったよ」旅先での言葉から生まれた物語
過疎化が進む海沿いの小さな町として描かれる架空の町・門津田の、どこか見覚えのあるような情景と時の流れ、そしてそこで暮らしてきたヒロとその家族がそれぞれに抱えた町への思いが、郷愁と余韻を感じさせる短編漫画。読者からは「一人暮らしに出たときのことを思い出しました」「切なくなりました」「少し哀しいけど、じんわりきますね」と、共感の声が寄せられた作品だ。

一つの作品として描いた漫画は本作が初めてだったという作者のむつさとしさん。ウォーカープラスでは描いたきっかけや、漫画制作への思いを訊いた。

――本作を描いたきっかけを教えてください。

「きっかけは、去年のコミティア(※COMITIA、オリジナル作品限定の即売会)に初めて一般参加した時のことです。そこでいろんな方々が描いた素晴らしい漫画作品を目の当たりにして、『自分も漫画を作ってみよう』と思いました」

――作品のアイデアはどんなところから生まれたのですか?

「これまでの人生の中で特に印象に残った出来事を作品のベースにしようと考えました。趣味の一人旅で、とある町を訪れた時のことです。その町は、人口流出に悩む地方都市でした。そこで出会った地元の老人に町のことをうかがおうとしたのですが、古い駅舎を指さして『みんなあそこから出てったよ』とひとこと言われただけで終わり、とても印象に残っていました。そこで、その体験を生かそうと思い、本作の制作を始めました」

――切符のまばらな無人駅、寂れた様子の釣具店と、作中で描かれる門津田の町にはどこか実在感を覚えました。

「旅行でよく訪れた東北の町と、私の故郷を参考にしました。駅の外観や内部、行き来する電車などは、それらをミックスさせたものです。どちらも地理的に端っこに位置する小さな町で、どこか似たさみしさを感じていました」

――故郷を離れる葛藤と穏やかに流れる時間が丁寧に描かれ余韻の残る作品です。本作でチャレンジしたことや、意識したポイントはありますか?

「ゆっくりで、静かで、けど確実に近づいている『町の最期』を描いてみたいと思っていました。そして、分かってはいても止められない町の衰退に対して、そこから出ていく人と残る人、そしてその町を知らない人が抱く感情の違いを自分なりに表現できればと思いました」

――ご自身でお気に入りの場面や台詞はありますか?

「『ここは出ていく駅』と、タイトルが台詞として出てきたように、祖父が主人公・ヒロを見送る場面はお気に入りです。町の発展も衰退も経験した祖父は、どんな気持ちや言葉でヒロを送り出すのか考えながら描いていました」

――本作はpixivコミック月例賞受賞のほか、ユーザーからも多くのコメントが寄せられました。反響をどう受け止められていますか。

「この作品は、もとは別の漫画賞に応募したものでした。初めてちゃんと作った漫画作品だったので、『最初の作品は好きな漫画賞に!』との思いで応募したのですが、その漫画賞はレベルも高いうえ、自分の作品にもたくさんの拙い部分があったので悲惨な結果で終わりました(笑)。その後、せっかく描いたからと供養のつもりでpixivの方にアップしたのですが、そこで多くの方々からの反応だけでなく、賞までいただいたので嬉しさよりも驚きが勝りました。いきなり40ページ近い作品となってしまったので、制作中は後悔の連続でしたが、描いてよかったと心底思っています。

また、いただいた感想の中には、登場人物のセリフを素直に受け止める人もいれば、その裏に眠る感情を汲み取ろうとした人もいて、同じ作品でも捉え方が全く違うのがわかって面白かったです」

――今後の漫画制作での目標や、2023年の抱負について教えてください。

「ちゃんとした漫画作品を作ったのは初めてだったのですが、とてつもないエネルギーが必要だなと身に沁み、改めてプロの漫画家さんのすごさを感じました。今年はページ数を抑えてでもなるべく多くの作品を作って、技術を磨いていきたいです。また、漫画を描くきっかけとなったコミティアの方にも、本作をはじめいくつか作品を出品できればと思っています」

取材協力:むつ さとし(@MutsuSatoshi)

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