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海野和男のデジタル昆虫記

思いつき(昆虫写真家への道12)

思いつき(昆虫写真家への道12)
2007年01月22日

 当時日高先生はマツノキハバチを研究されていた。マツノキハバチはハイマツやアカマツに生息するハバチで、小諸でもみられる。
 まずは飼育してみるのだけれど、なかなかうまくいかない。中央アルプスの2500メートル付近で捕まえた幼虫を25度で飼育したら、あっというまに全滅したそうだ。そこで今度は高山の温度に近い気温に保ってみたけれど、やはりうまくいかなかったそうだ。結局は1日のうちに高温低温の周期が必要という結論になったようなのだけれど、実はその事がわかるきっかけは突然の思いつきだそうだ。
 ある時にふっと思いついた考えは、経験にもよるものだと思うが得てして新しいことは、そんな風に突然思いつくことが多いのだ。後で実験して確かめるわけだが、まずは思いつきからはじまることが多いのではないだろうか。科学的に理詰めでものを考えすぎると、思いつきも生まれてこないと思う。
 写真に当てはめても全く同じことがいえる。ぼくが広角レンズにストロボを使い、飛んでいるチョウを止めて写す方法を思いついたのは1984年だ。この時は目の前でメスアカミドリシジミのオス同士が喧嘩をしていた。それまではこういった写真はマクロレンズで写していた。マクロレンズでのチョウの飛翔は1/500以上のシャッター速度が必要。従ってISO100で絞りはF4か5.6だ。
 けれど当日は曇りの日で、F4では1/125のシャッター速度でしか切れない。ストロボを使えば二重写しで見苦しい。数枚シャッターを切った後、ぼくは走り出していた。車までは何メートルあったのだろうか200mぐらいはあったのではと思う。とっさにつけたのは21mmF2のレンズだ。カメラはオリンパスのOM2だ。そしてそのままとって返したら、まだ同じ個体がテリトリー争いをしていた。ストロボと広角レンズの付いたカメラのファインダーを見ながら無我夢中で近づいた。ピントがあった瞬間にシャッターを押した。できあがった写真は、思った通りに写っていた。チョウが相手を見ながら飛翔しているのが、眼の向きでわかった。生物学者の柴谷篤弘さんが絶賛してくれた。とても嬉しかった。

写真メスアカミドリシジミの闘争(チョウの飛ぶ風景P60より)F16 1/60 KR 1984年の撮影。本の出版は10年後の1994年だ

◎池田書店からHOLGASCAPEという写真集が発売。20名の写真家が6ページずつ旅というテーマで撮影。海野も出ています。1800円

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