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史上最大級の魚竜の新種発見、体長約25mのシャチ並みの捕食者か

  • 2024年4月18日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

史上最大級の魚竜の新種発見、体長約25mのシャチ並みの捕食者か

 2億100万年以上前の三畳紀には、シャチのような頂点捕食者の巨大な魚竜が海を泳いでいた。なかでも最大の体長約25メートルにおよぶイクチオタイタン・セベルネンシス(Ichthyotitan severnensis)が新たに発見され、論文が4月17日付けの学術誌「PLOS ONE」に発表された。

 新種発見のきっかけは、数年前に発見された珍しい化石だ。論文の筆頭著者で、英ブリストル大学の古生物学者ディーン・ロマックス氏のチームが2018年、種を特定できなかったものの、英国で発見された魚竜の骨の一部を記述していた。この骨片はあまりに大きく、恐竜の骨と間違われたこともある。

「最初の標本を記述したとき、もっと多くの標本が見つかると期待していました」とロマックス氏は振り返る。はたして、ロマックス氏の期待は正しかった。2020年、化石愛好家のルビー・レイノルズ氏とジャスティン・レイノルズ氏が英国サマーセットで魚竜の顎(あご)の骨を発見したのだ。

 何の骨かを突き止めようと、2人は文献をあさり始めた。その過程で、ロマックス氏らが2018年に発表した論文を偶然見つけて連絡を取った。

 およそ2億200万年前のこの顎の骨は、最初の標本より保存状態が良く、そのおかげで2つの巨大な骨が同じ種のものであることをロマックス氏らは確認できた。なお、イクチオタイタン・セベルネンシスという名前はこの種の推定される大きさと、2つ目の骨が発見されたセバーン川の三角江にちなむ。

三畳紀は化石記録のブラックボックス

 イクチオタイタンがほかの魚竜とどう違うかを明かすには、もっと多くの化石が必要だ。それでもこの新種は、このような巨大生物が以前には存在しなかった場所と時代について、新たな光景を教えてくれる。

「新しい化石は三畳紀末期のもので、三畳紀末期は魚竜の化石記録のブラックボックスと言われています」と米バンダービルト大学の古生物学者ニール・ケリー氏は話す。これまでに発見された巨大な魚竜はすべて、北米やアジアのより古い岩石で発見されたものだとケリー氏は指摘する。そのため、イクチオタイタンが全く新しいグループである可能性が高い。なお、ケリー氏は今回の研究に参加していない。

 長さ約1.8メートルの顎の骨だけを見ても、この生き物が巨大だったことは間違いない。だが、イクチオタイタンの正確な大きさについては、研究チームは明言を避けている。

 現在のところ、イクチオタイタンで見つかっている骨は、下顎のうち上顎と関節する部分の「上角骨」が2つだけだ。これがもし、米国南西部のショニサウルスなど、世界のほかの場所で発見された巨大魚竜と同じような体形だとしたら、イクチオタイタンは体長約25メートルと、シロナガスクジラに迫る大きさだったと推定される。

 これほど大きな動物の骨がわずかしか残っていないのは奇妙に感じるかもしれないが、巨大魚竜の完全な化石を見つけるのは実は難しい。

「彼らの生態と外洋に暮らしていたことが原因かもしれません」とロマックス氏は話す。巨大な生き物の死骸は、ほかの動物に食べられる時間が長くなる。少なくともイクチオタイタンの顎の一つには、覆い隠される前にかじられた形跡がある。

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 幸運に恵まれれば、将来新たな化石が発見され、イクチオタイタンの形が完成するだろう。正確な大きさが変わる可能性もあるが、この魚竜が巨大生物だったことに変わりはない。

 魚竜が三畳紀に出現してから約800万年で、巨大な種が進化したという証拠が増えている。その多くは、まるで巨大なシャチのように、ほかの海洋爬虫類や自分より小さな獲物を狩る凶暴な捕食者だった。

1億5000万年の空白

 これほど巨大な爬虫類であれば、大量の餌を必要としたはずだ。数千万年の間に複数の巨大魚竜が存在したことは、三畳紀の海の性質について何かを示唆している。

「これほど巨大になったということは、三畳紀を通じて、彼らを支える生産的な食物網があったに違いありません」とロマックス氏は述べている。三畳紀には新しい形のプランクトンが進化しており、巨大生物を支えられる生態系ができていたのかもしれないとケリー氏は補足する。ただし、魚竜が進化を繰り返し、巨大化していった理由を解明するには、さらなる研究が必要だと両氏は指摘している。

 しかし、三畳紀を生き延びた巨大魚竜はいない。次のジュラ紀にも、体長10メートルほどの大きな魚竜が登場したが、三畳紀ほどの大きさにはならなかった。イクチオタイタンは最大級の種であるだけでなく、2億100万年ほど前の大量絶滅で三畳紀が終わるまで生きていた、最後の巨大魚竜の一つでもあった。

 結局のところ、今回の発見は、魚竜が大量絶滅の前に衰退せず、繁栄していたことを示しているとケリー氏は強調する。

 三畳紀末の大量絶滅は、過去に起こった「5大絶滅」の一つだ。大規模な火山活動によって、地球の気候や海の化学的性質などが様変わりした。魚竜そのものは存続したが、巨大な種は生き残ることができなかった。

「この巨大な魚竜は、地球規模の絶滅が起きるまさにそのときまで海を支配していました」とロマックス氏は語る。実際、同じくらい巨大な海洋生物が再び現れたのは、海に進出したクジラが大型化を始めた1億5000万年以上も後のことだ。

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