大矢久雄さん
Profile
昭和26年、新潟県岩船郡神林村(中山間地)生まれ。昭和44年、県立村上桜ヶ丘高校林業科卒業後、山春林産株式会社入社。昭和45年、新潟県森林組合連合会職員採用。
平成7年、新潟林業株式会社設立、代表取締役に就任
加盟団体:NPO法人 新月の木国際協会 新潟連絡所
「新月の木」ってご存じですか。日本には「夜空に月のない時期(旧暦の月末)に伐る木や竹は長持ちする」と言い伝えられ、林業関係者では広く知られてきました。新月伐採木の普及活動とともに新月の木の家を推奨している、新潟林業株式会社の大矢久雄さんにお話しを伺いました。
自然界のあらゆるものは太陽と月の影響を受けており、植物や木も例外ではなく、太陽や月のリズムに影響されていることを、昔の人は良く知っていて、木を切る時期を選んでいたのだと思います。
日本では良い木材を得るには「木が眠っている」時に伐採するのが当たり前でした。木が眠るとは、春夏の成長期が終わり、長い冬が始まる11月、12月のことです。つまりこの頃の下弦の月から新月に至る1週間程の期間に伐採された木は、最高の「新月の木」になります。
月のリズムがつくる「新月の木」は、腐らない、反らない、虫がつかない、火が燃え付かない、室内の空気を浄化し、シックハウスにならない。そして何百年も使え、日本の山林を回復させることにもなるというのです。大矢さんはこの頃に伐採する木を1年間かけて探し、山を歩き、買い付けて「新月の木」を生産しているのだと言います。
オーストリアにも「新月の頃に伐った木は虫がつかないし、長持ちする」という言い伝えが昔からあったそうです。近代林業の中では迷信だと無視されていましたが、エルヴィン・トーマ氏の著書「木とつきあう知恵」の原書が1996年に出版されると賛否両論の大反響があり、ドイツではベストセラーになりました。その後、チューリッヒ大学で研究が行われ、その内容が正しいと実証されてからは、ヨーロッパでも「新月の木」を使う動きが広がっています。
「月」と「木」はいったいどんな関係があるのでしょうか。あのヴァイオリンの名器「ストラディバリウス」も新月の木でつくられていると言います。世界最古の木造建築として知られている法隆寺も「闇伐りの木」つまり、「新月の木」を使っていると言います。
美しく塗られた漆の器に使う木には、日本人はことのほか慎重に木を選んだと考えられます。神社仏閣のすぐれた木造建築には長い時間を掛けて木を選んでいます。「一輪の花を見て宇宙を感じる」日本人の感性が「新月の木」を伝承してきたと言えます。
大矢さんが「新月の木」に関わるきっかけとなったのは、国産の木材が輸入材におされて価格が低迷している中で、国内の林業経済が疲弊し、手入れされなくなった森林は傷みはじめ、長い年月をかけて作られた自然が失われています。森林の健全化を図り、循環型資源である木材の需要拡大をどのように進めたらよいか。そんな中で、新月伐採方法により、付加価値のつけた高品質な建築素材を生産することが出来るという話を聞いたそうです。そして、持続可能な林業の推進と森林経済の活性化等の、支援活動を進めていくための協会を作る動きがあり、その趣旨に賛同して「新月の木国際協会」設立に参画されたのです。
しかし、活動と本業の木材業を両立させることは容易ではなかったようです。産地を選び、樹木を選択し、伐採してから「葉枯らし」という伐採したまま枝葉をつけたまま数ヶ月山に放置し翌年山からおろすのです。冬が始まる時期の下弦の月から新月に至る1週間程の期間に伐採する「新月の木」の生産期間は1年間でほんのわずかです。そして「葉枯らし」を十分に行うことが「新月の木」では不可欠で大切な手順です。さらに製材後は天然乾燥させなければ、弾力のある強い木にはならず新月の木の持つ良さが発揮されません。これらを全て満たして初めて「新月の木」が誕生します。
その間資金は固定し時間が経過し経営を圧迫させます。この費用を充分に価格に転嫁出来ないのが大矢さんの悩みですが、「最近では『新月の木』で家を作りたいという方も増えてきて、希望が持てる状態になりました」と手応えを感じ始めたようです。