冬は堆肥づくりに最適の時期です。ただ、堆肥づくりには体力がいりますし、手間もかかります。混ぜる、切り返す、木枠をつくり直すといった大変な作業を省きつつもおいしい野菜が採れる、良質な堆肥に仕上がる方法をベテラン菜園家の田中寿恭さんに教えてもらいました。
ここがらくらく!材料は混ぜない「材料を入れて足で踏むだけです」
*もみ殻を入れるから空気が十分に含まれる
落ち葉堆肥は一般的に、落ち葉、米ぬか、水をよく混ぜ合わせて仕込みますが、私は仕込むときに材料を混ぜ合わせません。材料を順番に入れていくだけです。しっかり発酵して1年後には使える状態になります。
私は堆肥枠に落ち葉、もみ殻、米ぬかを入れたら足で踏みつけます。そして、水をたっぷりかけます。
混ぜなくてもうまく発酵してくれるのはもみ殻を入れるからです。水を入れると落ち葉と落ち葉が密着します。混ぜないと空気が不足して発酵が進みません。しかし、もみ殻を入れることによって落ち葉と落ち葉の隙間にもみ殻が入り、空気の層ができるので混ぜなくても発酵が促されます。
私も74歳ですので力仕事はできるだけ省きたい、でも堆肥づくりは続けたく、混ぜなくてもいい仕込み方に変えてかなりラクになりました。
上の写真のように全体を混ぜ返す「切り返し」を定期的に行う必要がありますが、この方法だと切り返しをしなくてもつくれます。
*Point!この順番を繰り返す
①1回に仕込む量の目安は、45L袋10個分の落ち葉を使います。米ぬかは水ヒシャクに7~8杯分ぐらいをまぶします。
②堆肥枠に落ち葉、米ぬか、もみ殻を入れたら、足で踏んで余分な空気を抜きます。足で踏んだ際に材料が自然と混ざるので米ぬかともみ殻が落ち葉の隙間に入り込みます。
*Point!もみ殻を使おう
混ぜないで仕込むときは必ずもみ殻を入れてください。もみ殻が落ち葉の隙間に入り込んで、空気の層ができます。酸素が十分に入ると発酵して温度も上がります。
量の目安は450Lの落ち葉に対し、20Lのもみ殻を使います。厳密でなく、大まかな分量で構いません。
もみ殻がない場合は水をまいたあと、フォークなどを使って全体をよく混ぜましょう。
ここがらくらく!堆肥枠にはあぜ板を使う「枠が長く使えて設置も簡単です」
*耐久性に優れて組み立てもラク
以前は2つの木枠を使っていましたが、今は「あぜ板」の枠を使っています。あぜ板は田んぼで使う丈夫な波板です。円形の囲いをつくり、その中に落ち葉などの材料を入れて仕込みます。
木枠でも問題なく堆肥をつくれるのですが、3~4年経つと板が割れてきたり朽ちてきたりして、木枠をつくり直さないといけません。数年に一度とはいえ、結構手間がかかります。あぜ板なら丈夫で耐久性があり、長く使えます。これもラクをするためのポイントです。
私の畑では幅60㎝×長さ125cmのあぜ板を3枚使って堆肥枠をつくっています。片側に溝があるタイプであれば、あぜ板とあぜ板が連結でき、設置も簡単です。
仕込み方は木枠のときと同じです。あぜ板の方が低い堆肥枠になるので、仕込みやすくなります。
スタンドバッグも使ったことがありますが、屋外で使うと1年ぐらいでボロボロになってしまいます。今は落ち葉集めに使っています。
設置する場所に枠が入る大きさの穴を掘って、組んだ枠を入れます。穴の深さは10~20㎝ほど掘り下げます。枠が安定して、堆肥を仕込みやすくなります。
*木枠をつくりたいときはコンパネを使おう
①木枠づくりにはコンクリートパネル(通称コンパネ)という合板が適しています。耐久性があってべニヤ合板よりも長持ちします。
ホームセンターで購入できます。幅90cm×長さ180cm、厚さ12mmのコンパネを2枚購入して、それぞれ半分に切ったもので木枠をつくります。
1つの木枠で45L袋の落ち葉が25袋くらい仕込めます。
②編集部の畑で使っていたコンパネの木枠。
ここがらくらく!熟成したら袋に詰める「畑に施すときに使いやすいです」
*気軽に使えて保管もしやすい
秋に落ち葉を入れて仕込み始めてから10か月~1年経つと下の方はだいぶ熟成され、堆肥として使えるようになります。
私は落ち葉の仕込み途中に野菜の残渣を加えますが、仕込み始めて10か月~1年ほど経ったら、一度堆肥枠を空っぽにします。
熟成している部分をショベルで取り出し、肥料などの空き袋に入れて保存しましょう。袋に詰め替えることがポイントで、必要になったときにすぐに使えます。使うたびに堆肥枠から取り出すのは、手間と時間がかかって大変だからです。
少しずつ使っていくので、袋の中で堆肥が追熟されます。肥料効果は少なくなりますが、腐植が増えて土壌改良に向いた堆肥になります。
形が残っている未熟な部分は使わずに、堆肥枠に戻して、新たに落ち葉やもみ殻などを入れて堆肥を仕込みます。
市販の肥料や堆肥の空き袋が丈夫ですし、必要な分だけ取り出しやすいので、使いやすくておすすめです。
*熟成期間は10か月~1年
袋に詰め替えた堆肥は、雨と直射日光が当たらない場所で保管し、追熟させてから使います。
堆肥づくりを成功させるポイント『①昆虫を利用!ダンゴムシも役立つ』
*分解が進んでいい堆肥になる
落ち葉や野菜の残渣を堆肥にするときは、米ぬかを入れて発酵を促しますが、私は昆虫などの土壌生物も積極的に利用しています。
堆肥枠にミミズは入れる方は多いと思います。私も畑でミミズを見つけたら堆肥枠にどんどん放り込みます。
おすすめはカブトムシの幼虫です。分解を進めてくれますし、育っても畑の害になりません。カブトムシの幼虫が多いと、顆粒状のサラサラとした良質な堆肥になります。
私は「まるむし」と呼んでいるのですが、害虫となるダンゴムシも堆肥枠にどんどん入れていきます。ダンゴムシは落ち葉などを猛烈に食べ、分解を進めてくれるからです。
ただし、ダンゴムシは害虫ですからダンゴムシを含んだ堆肥を畑にすき込むことはやめましょう。10か月~1年ほど熟成したものの中にはまだダンゴムシが棲みついています。すぐに畑にまくと野菜に被害が出てしまいます。すぐに使う場合はフルイにかけて、ダンゴムシを取りのぞいてから使ってください。
できあがった堆肥は肥料の空き袋に詰め替えることをおすすめします。
袋の中で追熟させると保管中にダンゴムシの食べ物がなくなり、自然と出て行ってくれるからです。
半年ぐらい置いておけば、フルイにかけなくても使うことができます。
*堆肥づくりに役立つ生き物
オカダンゴムシ(通称ダンゴムシ。まるむしや便所虫とも呼ばれる)
落ち葉を食べてフンを出し、微生物が分解しやすい状態にしてくれます。
ただ、植物のやわらかい葉や茎を食べることもあるので、熟成後の堆肥を使うときはフルイにかけてダンゴムシを取りのぞくか、追熟させてダンゴムシがいなくなった堆肥を使ってください。
カブトムシの幼虫
いい堆肥にしてくれるので大切にしています。コガネムシの幼虫よりも大きく、コロコロしています。
ミミズ
ミミズも落ち葉の分解を進めてくれます。畑で見つけたら、堆肥枠に入れるといいでしょう。
【NG】コガネムシの幼虫は駆除しよう
コガネムシの幼虫も落ち葉をよく食べますが、幼虫も成虫も野菜を食害するので、見つけ次第、駆除します。堆肥枠で増えると厄介です。
見た目はカブトムシの幼虫と似ていますが、コガネムシの幼虫は頭部が黄色っぽく、体長は老齢幼虫で30mm程度とカブトムシよりも小さいです。
堆肥づくりを成功させるポイント『②トウモロコシの残渣は刻んで、根は入れない』
*大量に出る野菜の残渣は堆肥枠に投入する
落ち葉堆肥の熟成期間中、夏から秋にかけてカボチャやサツマイモのツルなどの夏野菜の残渣が大量に出てきます。野菜の残渣もいい堆肥になるので、私は落ち葉を仕込んでいる上に投入します。
野菜の残渣を入れたら米ぬかを振りかけ、足で踏んで容積を小さくします。先に仕込んだ落ち葉と混ぜる必要はありません。もみ殻と水を加える必要はなく、積んでおくだけです。
ただし、トウモロコシの残渣だけは入れるときに注意があります。茎や葉は繊維質が多くてかたいので、根を切り落としたあと、10cmぐらいの長さに切ってから堆肥枠に入れてください。
根は茎よりもかたくてなかなか分解しないので、私は堆肥枠に入れずに燃やして草木灰にしています。果樹などの枝は分解が遅いので、落ち葉堆肥の中には投入しません。
サツマイモ、カボチャ、サトイモなどを片付けるときに残渣がたくさん出ます。トウモロコシだけは小さく刻んでから入れますが、それ以外はそのまま堆肥枠に投入します。
菜の残渣には水分が多く含まれ、落ち葉のように残渣同士が密着せず酸素も足りるのでもみ殻と水は加えません。米ぬかだけまいて発酵を促します。
*Point!「ススキやチガヤはもみ殻の代わりに利用できる」
編集部の堆肥づくりワンポイントアドバイス!「通気性と通水性がよくなり堆肥化が促される」
ススキやチガヤなどのイネ科の野草はとても優れた堆肥材料です。
茎がかたくてストローのような中空構造をしているため、落ち葉や生ごみとともに積み込むと、通気性と通水性が適度によくなります。おかげで好気性微生物の活動が促されて良質の堆肥づくりが可能になります。もみ殻を使うのと同様の効果が得られます。
野原に生えているススキやチガヤを刈り取ったら、雨の当たらない場所に束ねて立てかけてストックしておきましょう。地面に積んで発酵が進んでやわらかくなったものでは通気性や通水性の効果は半減するので、ストックする場所選びは大事です。
堆肥を仕込む際はススキやチガヤを15~20cmの長さに刻んで使い、米ぬかを振りながら落ち葉や生ごみとサンドイッチ状に重ねます。
落ち葉の量の2割程度の量を利用するといい堆肥になります。
近所の野原に生えているススキを採集してストックしておきます。大量の落ち葉が集まったら堆肥づくりを始めましょう。
堆肥づくりを成功させるポイント『③生ごみは必ずコンポスト容器で堆肥化させる』
*悪臭、腐敗、鳥獣害などさまざまなトラブルが防げる
私は落ち葉堆肥の中に野菜の残渣は入れますが、生ごみは投入しません。悪臭が出ますし、ウジもわきますし、鳥や獣のエサ場になるからです。
生ごみはコンポスト容器を使って堆肥にします。プラスチック製でフタが付いているため、臭いがもれにくくなっています。生ごみを容器に入れたら米ぬかをまぶします。そのあと、必ず土を5cm以上かぶせてください。これで臭いと腐敗が防げます。最後に忘れずにフタを閉めましょう。
大量に生ごみが出る場合は別ですが、一般家庭の場合、落ち葉を仕込む大きな堆肥枠での生ごみ堆肥づくりは向きません。生ごみを入れるたびに堆肥枠一面に5cm以上の土をかぶせるのは大変な作業だからです。コンポスト容器はコンパクトですから、土を入れる作業も大変ではありません。
堆肥枠や畑の隅に放ったままにするなど、生ごみを野ざらしにする行為はやめましょう。悪臭、虫の発生、獣害や鳥害の誘発など、近隣の迷惑になります。コンポスト容器を使い、土をしっかりかぶせる方法で仕込めば、安心してつくれます。
繰り返して投入していっぱいになったら、容器を引き抜き、下の方の熟成した部分を取り出します。落ち葉堆肥と同じように袋に詰めて保管します。上の方の未熟な部分は容器に戻します。
★「コンポスト」をDIYしよう!作り方はこちらから
コンポスト容器の近くにある野菜の残渣も入れます。ブロッコリーの茎など大きいものは入れやすい大きさに切ってから投入します。
*コンポスト容器を使用したやり方の解説
①水はけのいい場所に設置します。土を少し掘り下げてから容器を置きます。
②私は肉や魚の生ごみも入れますが、かきやアサリなどの貝殻はのぞきます。
③水分の多い生ごみは、生ごみ発酵器に入れて液肥を抽出してからコンポスト容器に投入します。
④生ごみや野菜の残渣を投入したら、水ヒシャク2杯分の米ぬかをまぶします。
★土を5cm以上かぶせることで、臭いが抑えられ、腐敗を防いで発酵がうまく進みます。ハエが卵を産みつけにくるので、必ずフタを閉めます。
堆肥づくりのおさらい
01 材料を集める
私は広葉樹の落ち葉だけを使います。針葉樹の葉は分解が遅いので使いません。山の中で何年も積み重なっている落ち葉は早く堆肥になるのでおすすめです。1m四方の堆肥枠なら秋から春までに45L袋の落ち葉を25袋ほど仕込みます。米ぬかともみ殻も前もって用意しておきましょう。
※落ち葉を山林や公園などで集めるときは、土地の所有者や管理者に了解を取ってから行いましょう。
02 堆肥枠を設置する
堆肥枠は、地面が平らで作業の邪魔にならない場所に設置しましょう。水はけのいい場所に設置することも大切です。水分過多が防げます。
03 材料を入れて足で踏む
枠に落ち葉ともみ殻を入れたら、米ぬかを全体にまぶします。足で踏みつけて余分な空気を抜きます。
1回に投入する量の目安は、落ち葉は45L袋を10個ほど、米ぬかは水ヒシャク7~8杯、もみ殻は20Lほどです。
04 水を加える
水は落ち葉が湿るまでたっぷりかけます。
水はけのいい場所であれば、水がたまることはありません。
水分不足も温度が上がらない原因になります。
もみ殻を入れた場合は混ぜないで、このまま発酵させます。
切り返しの作業も不要です。
↓
★1~2か月熟成させる
05 再び材料を投入
発酵がうまく進むと、1~2か月後には3分の1ぐらいまでカサが減ります。1回目と同じ分量の落ち葉、米ぬか、もみ殻を入れて、再び仕込みます。
方法は③~④と同じです。1か月ほど経ってカサが減っていたら残りの材料も仕込みます。
06 秋まで熟成させる
すべての落ち葉を仕込み終えたあとも、切り返しは行わず、10か月から1年ほどしっかり熟成させます。
07 野菜の残渣を入れる
サツマイモやサトイモ、カボチャなど、夏野菜の残渣がたくさん出たら、熟成途中の落ち葉堆肥の上に積みます。
トウモロコシだけはかたくて分解が遅いので、根は入れず、茎は10cmに切ってから投入します。
残渣の上に米ぬかをまき、そのまま寝かせます。
↓
★1回目の仕込みから10か月~1年後
08 堆肥を取り出す
1回目の仕込みから10か月~1年経つと、下の方が使えるようになります。木枠の1か所だけはずして、中に入っているものを一度出します。下の方の落ち葉は熟成して堆肥化しています。堆肥になっているものだけ袋に詰めて保管します。上の方の未熟な部分は枠に戻して、その上に新しい落ち葉を投入して仕込み始めます。
ベテラン菜園家 田中寿恭さん
田中寿恭さん/たなかひさやすさん
1946年生まれ。菜園歴40年の大ベテラン。奈良県にある畑で年間100種類以上の野菜を栽培。化学肥料と化学農薬に頼らない、アイデアいっぱいの野菜づくりを長年続けている。
「野菜だより2021年1月号」の「田中さん家のらくらく堆肥づくり」より
野菜作りについてもっと見たい方におすすめ!
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