このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。
(座談会参加者) 遠藤 由隆さん(滋賀県野洲市市民協働推進課、前まちづくり政策室) 小林 敏昭さん(長野県飯田市地球温暖化対策課) 村上 奈美子さん(山形県高畠町住民生活課環境推進室) |
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遠藤 由隆さん |
小林 敏昭さん |
村上 奈美子さん |
(進行) GN編集部 |
GN編集部 温暖化防止対策など、環境の仕事は新しいテーマでもあり、関係する範囲も教育、経済、文化と幅広く、皆さんのお仕事はいくら時間があっても足りないというのが現状かと思います。そのあたりのご苦労はどのように解消しているのですか。
村上 残業は苦にならないというより残業だと思ったことがないです。イベントや講座の営業、打ち合わせに出かけますが、「はい5時です」と言って帰ってこられるわけはないし、地域の人とのコミュニケーションの方がずっと大事で、ずっと楽しいです。出かけて行くと時間どおりに戻らないので組織人としては失格なのでしょうけれども、根っこのところで仕事を任されている充実感があって別に残業だという負担はないですね。それに、イベントの準備などでは、声をかければいつでも協力してくれる人がたくさんいて助けられています。
環境の問題をメッセージとして伝えていこうとすると、まず、自分の日々の暮らしから変える必要があると思うんです。だから、新しく環境担当になった人には、自分の生活そのものまで変えなければいけないという負担感があるのでしょう。
編集部 そういう形のコミュニケーションを図ることは、持続可能な低炭素社会を目指すためには必要ですよね。やはり行政のリーダーシップはすごく力があります。自治体マンは絶えず元気であって欲しいし、ある意味では地域のリーダーであって欲しい。
小林 環境課から下水道の経理、工業課へと異動し、たまたま地球温暖化対策課に戻ってきた時に、市民グループのリーダーが「小林さんが戻って来て嬉しかった」と言ってくれました。また、課の職員が小林さんと一度仕事をしてみたかったと言ってくれました。どちらも人を木に登らせるのが上手ですが、組織の外と組織の内の付き合いで本当に嬉しかったです。もちろん小林とは仕事をしたくないと言う人はいるでしょうが。
遠藤 もちろん行政マンの元気は大事ですが、国の政策が一致してこそ前に進むものがほとんどです。行政マンの頑張りだけではすぐに限界が来るでしょう。一方、地域づくりを考えると、小さな自治体ですと地域住民が一人一役ぐらいは果たしていて、地域づくりに関わっているわけです。だから、その力をうまく合わす仕組みをつくっていけば、良い地域づくりができる気がします。頑張ろうぜ!ではなくて、住民は頑張っているのです。この視点が重要で、こうした目線に変えた時に地域づくりの価値観は変わります。
村上 大都市と呼ばれるところ以外では、まだ自治会的な組織があります。私もこちらに来る前にお寺の維持費を集めてきました。子供がいれば育成会やPTAの役もあるし、中には両手でも足りないぐらいの役職を担当し、一人ひとりが地域を動かしています。例えば、どこかの震災の時に、お隣のお爺さんはあの部屋に寝ているからと、そこを掘って救出したとか、都会では考えられないコミュニケーションが役立っています。
小林 飯田市の人口は10万6,000人ですが、いろいろな実験を仕掛けるには、このくらいの規模がちょうどいいのではないでしょうか。ある程度市民が見える規模と考えています。財政力も強く、大きな自治体は、プロの職員も多く施策も強烈ですが、きっと私たちにはわからない苦労もあるのでしょう。しかし、全国の10万人の自治体の中では、飯田市は結構、頑張っているのかなと思うのです。頑張らなければならない状況にあるといった方が正しいのかもしれません。
遠藤 規模の違いはあると思いますが、まちづくりの原動力は市民です。市民の知恵や力をまちづくりに生かすということが「自治」にとって非常に重要です。近頃では、多くの市町村が「協働」に取り組んでいますが、協働の相手方である市民の動きを把握しながらまちづくりをしているかというと、言葉だけが先行して実態的なことはほとんどないのが現状ではないでしょうか。
市民がその地域の課題を一番よく知っていて、その解決に向けた動きは市民の活動に表れている。そうしたことを見ない行政の施策は、非常に薄っぺらなものになるし、継続性も乏しいものになると思います。市民の知恵や力を生かすまちづくりが、市民の元気を掘り起し、それを生かすことが自治体マンの元気につながるのではないかと思います。そもそも元気な自治体マンに頼ることは長続きしないですしね。
村上 行政という絶対的な信用のあるところにいてできる仕事と、組織を飛び出して後ろ盾のない仕事では違いがあるように思います。とくに地方では行政に大きな信用があるため、できることは多いように思います。企業へ行っても行政というだけでまず話だけは聞いてもらえるのですから、相当得をしていると思います。 環境に取り組む人が得をする仕組みをつくらないと活動が続かないと思い、そういう仕組みをつくりたいのですが行政の枠の中にいると、公正・公平と言われてしまうので難しいと感じます。
遠藤 課題解決のための手段として、一番有効な対象者は誰か。意味のない公平性は、結果として何もしないという結論になりやすいので、既存の団体だけでなく多様な主体を把握して、ともにまちをつくっていくシステムが必要だと思います。環境と経済の両立ではとくにそうです。
編集部 行政には監視機構がいっぱいあるでしょう。議会に、消費者、NPOなどいろいろオンブズマン的活動もあります。その中で臆病になるかチャレンジャーになるかは重大な選択でしょう。
村上 そこはどっちを見て仕事をしていくのかによるでしょう。組織を見るのか、地元の人を見るのか。本当に必要だと思えばしっかりやろうとするものです。
小林 市役所で運用する環境ISOから、「PLAN(計画)-DO(実行)-CHECK(評価)-ACT(改善)」(PDCA)のサイクルを回していけば少しずつでも確実に継続的に改善ができるということを学びました。行政には間違いがあってはいけないのですが、今の時代に誰が社会や経済等の見通しを正しくできるのでしょうか。行政でも財政破綻に陥る自治体と元気な自治体とが存在します。見通しが立たない中で、対応の仕方をいかに柔軟に変えていけるかが求められているのではないでしょうか。たとえ、大きな歴史的な計画でも不都合が出たら見直していく必要さえある、そう考えると非常に楽です。
環境モデル都市、飯田市は、2050年に70%の二酸化炭素(CO2)を減らそうという計画を持っています。40年先に可能かとの議論も大切でしょうが、世の中の潮流を見極め、いかに飯田らしい仕掛けを次々と打っていけるかがカギとなります。
村上 自治体マンの多くは、住民参画を進めるに当たっては、きちっとした完全な仕組みを最初から始めなければいけないと思っています。私もそうでした。でも、住民の皆さんと一緒に事業を進めてみてわかったことは、不完全でも、まずはスタートしてみる。悪いところがあれば直していく。これが本当の意味での参画だと思います。結果として行政が最初に考えていたものよりずっと良いものになります。