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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第73回 持続可能な地域づくりに求められる自治体マンの元気力(下)

  • 2010年2月11日

環境対策における
国と地方の関係

小林 地方の実験が国の制度になるということあります。国の補助金なども地方からの声が反映されたものと、ちょっと違うかな、使いづらいなというものがありますね。しかし、財政負担を考慮しながらも多くを取り込んで施策を展開しなければなりません。

村上 受ける方から言うと、交付税で自治体が自由に使えるお金をよこしてと言いたいです。もちろん、そうなればどんな事業を行うのか自治体職員の資質が問われますけど。

小林 地方分権の一方で、逆に今はもっと中央集権が進んでいます。高速料金1,000円のように中央が決めてしまえば、地方はそれに合わせるしかなく、日本中がその対応に追われることになります。とくに環境政策では地方は国の出方待ちといった感もあり、国の政策により地方はいとも簡単に崩壊してしまいかねません。

村上 先日、おもしろいことがあったのです。中学生の環境学習の授業で「日本の総理大臣は本当にCO2を減らす気があるのか不思議に思いました。高速道路料金を下げ、車が増えればCO2は増えるのに一体どうなっているのでしょうか?」と感想を書いた子がいたのです。花丸をあげたくなりました。地方ではなかなかできない公共交通機関の利用促進誘導策を国が考えてくれればいいのにと思いました。

遠藤 国も地方もビジョンが見えない。予算ありきで目の前のことだけの対処という感じがします。施策と施策のつながりも見えない。予算に表れないことの方が大事なことがたくさんあります。

村上 総額15兆円の国の経済対策の補正予算は当然地方にも流れてきました。うちの町でも2億円くらいの規模です。自分の部署にこだわらず効果的な事業を提案してほしいと募集がありました。国が大きな借金をして地方に回してくる訳だから、未来への投資でなければならないと思い、CO2とランニングコストが減らせる環境の事業を提案したのですが、ことごとく不採用でした。決定した項目を見ると、今まで施設の維持補修さえままならなかったこともあり、目先の対応が優先されていました。借金を返すのは将来の子供たちなのに、本当にお金を使うべきものは違うのではないかという気持ちが残ったままです。

小林 「環境と経済の好循環」という言葉がありますが、今、環境と経済の両方を進めることが求められています。環境だけ、CO2を減らすだけではなくて地方の活性化も環境モデル都市の大きなテーマなのです。CO2だけを減らすのなら人間は活動を停止すればいい、山を森をドンドン増やせばいいということになるのですが、そうではなくて両方を追わなければいけないというところに、国も地方も難しい課題を抱えています。

 地域の活性化もしながら環境を守っていくのは容易なことではなく、職員がどれだけ経済のことも理解できるのか、遠藤さんが言ったように経済もきちんと押さえておく必要があります。

 

遠藤 かなり前から、行政と地域経済は別物という感があったと思います。唯一、経済といえば箱物を建てることと企業誘致ぐらいで、地域商業はもとより環境も福祉もボランティアレベルで片付けられていたのではないでしょうか。地域の元気な人だけでつないできたのです。これではすぐに限界がきます。環境も福祉なども経済社会のなかに組み込まないと継続は無理です。
 実際、学問的にも地域経済関係のものはほとんどないことからも、地方自治と経済というのは無縁だったのでしょう。今後、地域経済と本来あるべき営業部門のようなものが大切になると思います。

村上 自治体は最大のサービス産業ですけれども。営業部門がないのはおかしいですね。

政策提言、政策実施型の
自治体に変わるための展望

編集部 持続可能な地域づくりを目指す中で、経済的な視点も持ち、サービス産業としての営業力も養いながら政策実施を進めていくという大変な役割が自治体には求められていると思います。さまざまな制約がある中で、自治体はどのような選択が迫られているのか、展望はあるのでしょうか。

遠藤 展望は大いにあります。地域の元気が日本の元気につながるわけですから、地方自治体は今までの施策自治体から政策自治体に転換しなければなりません。政策自治体になるためには、市民の目線で市民との政策形成、市民とともに動くような制度づくりが必要不可欠になるでしょう。役所の仕事のやり方や議会も変わってくると思います。つまり、協働型の地域経営をする組織になる必要があり、経営に着眼しないといけません。まだ、経営のスタイルが確立されていませんから、さまざまなセクターでそれぞれの価値観が合わないのは当然です。ビジョンと経営のシステムを確立して、その基礎になる根幹の制度を変えない限りは、個々の元気がいくらあっても長続きしないと思います。

編集部 今の仕組みの中でもそういうことは可能なのですか? 地方自治法がある中で、国レベルで変えていくことも必要であるということでしょうか。

遠藤 結局どこに問題があるのかというと、地方自治法などガバナンスに関わる法なのです。頑張る人は頑張りますよ!というのではなく、それぞれを同義づける根幹の法をつくったり、変えたりしなければなりません。民主的な地域づくりと自治体職員や住民の元気はある種の相関関係があって、民主的な地域づくりの背景となる法はどうあるべきかを考える必要があると思います。

編集部 法的な裏づけがあればもっと動く自治体は増えるのでしょうか。

遠藤 例えば、最近多くの自治体が基本条例をつくっています。自らの自治体の考えを表すものの一つですが、こうした法の中に、今回のテーマの課題が反映できれば一定の方向に向かう根拠にもなります。今後こうした政策法務がますます重要になるのではないかと思います。

小林 飯田市は、今年4月に地球温暖化対策課を設け、同じ事務所の中でごみなど生活に身近な環境課と隣り合わせています。地球温暖化対策課は、ある意味では追い風を受ける政策的な部署です。環境という追い風の中で行政のトップ、企業のトップ、市民団体のトップも変わる可能性があるのです。その時にコミュニケーションをいかに上手にとって地域に出て行けるか、その差は大きいに違いありません。
 飯田市の環境モデル都市のビジョンは「おひさまともりのエネルギーが育む低炭素な環境文化都市の創造」です。「もり」という言葉は木ではなくて森なのです。2050年に70%という大きな森なのです。漠然とした議論ですけれども、みんながもてる夢、その現実に向かうこと、それが仕事だと考えています。

編集部 本質的には遠藤さんがおっしゃるように法整備や制度設計が自治体の大きな変革のためには必要かと思います。しかし環境自治体の元気な組織づくりという点で制度的にも法的にも不十分な現状を見た時に、われわれが頼るのは、やはり自治体マンの元気力しかないという感じですかね。

村上 私はどんな立派な仕組みがあっても、その仕事をするのは人だと思います。何か素晴らしい取り組みには、やはり元気な人が必ずいるのです。
 また、自治体マンは地域のコーディネーターとして活動することが一番大事だと思います。いろいろなところからさまざまな情報が入ってきますので、それをうまくつなげることが黒子としての自治体マンがまずやる仕事だと思います。
 役所と住民のつながりは田舎ほど強く、こちらの要請に応じて皆さん動いてくださいますが、自分たちが住んでいる所は自分たちで変えられるのだという意識が薄いように思います。お互いの意識が変わらないと、本当の意味での住民参画とはいえないのではないでしょうか。
 このリレーエッセーの中で「今、私たちがやれなかったら、その答えを受け取るのは未来の子供たちなのだから」と書いている方がいて、本当にその通りだと思いました。環境は今日、明日で結果が出るものではないですからもっと未来を見て仕事をしたいと思っています。

編集部 熱い思いを持っている人が残業を残業とも思わずにいろいろなコーディネーターとして働ける、そういう人が適材適所に配置される仕組みというのは、行政では可能なのでしょうか?

村上 役所の場合は人事が硬直化するといって一ヵ所に長いと動かされてしまいます。隣の席に移るだけで、昨日までやっていた仕事と全然違うことを担当します。専門性が問われるのに素人が担当になるのですから、住民から見たらゼロに戻るどころかマイナスになってしまうのです。遠藤さんがおっしゃったように施策自治体から政策自治体になるためには、知識と経験を積み重ねた専門性のある人を引き抜くことも必要だと思います。直接住民と接触するのは基礎自治体の市町村です。苦情対応などの内容はどんどん専門的になっているのに、その能力を養う仕組みになっていません。
 今までの基礎自治体はPDCAでいえばD(実施)だけでした。国とか県が指示することを何の違和感もなく行ってきました。そのプランを自分で立てなさいといわれても、専門的な知識がないと難しいわけです。専門的にずっと取り組んでいるNPOなどがいればその力を活用させてもらえますが、それを活用できるだけの力が行政にないと難しいと思います。

小林 これからはスペシャリストが多く育ってくると信じています。逆に、地域の生き残りをかけた行政運営は、そうしたスペシャリストでないと成り立ちません。とくに環境は専門的な知識と経験が必要です。それを行政の中だけに求めるのには無理があります。もっと市民と活動しているNPO、大学などの教育機関、民間企業と人材の流動化を戦略として進めなければいけません。課題はたくさんあるでしょう。しかし、PDCA、大きな成果を性急に求めず、まずは小さな一歩から。そして、人材の流動化により人材を育成すると同時に、人材の能力が発揮できる組織や運用するためのシステムも本気で構築していく必要があります。

(2009年5月26日東京都内にて)

山形県高畠町
 山形県置賜地方の東部に位置する周囲を山に囲まれた面積約180km2、人口2万6,000人の自治体。稲作のほか、さくらんぼ、ぶどう、りんご、ラ・フランスなどの果物が生産され、まほろばの里(「周囲が山々に囲まれた平地で、実り豊かな住みよい所」の意)と呼ばれる。2003年度より毎年「笑エネキャンペーン」を実施(電気量を前年同月と比較しどれだけ削減できたか(削減率)を世帯対抗で競い合うもの)。応募世帯は、7,000世帯の町で1,200世帯に及ぶ。また、13人の環境アドバイザーを中心に、年間100回を超えるペースで環境学習を行っている。
村上 奈美子さん
村上奈美子さん  山形県高畠町住民生活課環境推進室環境推進主査。環境を担当して8年目。以前は財政に席を置いていたが環境に移り、価値観や生き方が変わるくらいの大きな刺激を住民からもらい、仕事が本当に楽しくなったという。

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