高橋:個人的には、渋谷、丸の内、大手町など各地で高層ビル開発が進んでいますので、テナントさんの入居についての心配はありますね。
森:人口も減っていますしね。
仁藤:最近は企業でも「ダイバーシティ」が推進されていて、不動産業者でも、在宅ワークを社員に勧める動きがあります。共働き家庭が増える中、いろいろな働き方が出てくるでしょうし、立地条件によってもオフィスビルに求められるものは違ってくるでしょう。シーズンテラスのような大規模オフィスだけでなく、中小規模含め、オフィスを使う人たちだけでなく、地域に暮らす方と一緒につくりあげていく都市開発が、今後は益々求められるようになると感じています。
久保田:大規模開発の場合、オフィスビルという単一用途では難しく、そこで生活する人のライフ形態も考えた上で、生活を支える施設を複合的に備えたビルが必要とされています。これまで1つの大スペースを1企業が借りるのが主流でしたが、今後はSOHOなど小さな事業所が入ってくることも考えられます。駅前に小規模のオフィスをつくって通勤時間を短くするといったニーズもあるでしょう。どんなものが時代に求められているのか、常に自問自答しています。
山下:都市と自然が一緒になっている場所は、単純に気持ちいい。複数の建物を1棟に建て替えて高密化し、あまったスペースを緑にするといった、都市と自然が共存する開発手法が浸透すればいいと考えています。
森:ここは、かなりそれに近いですね。
山下:そうですね。公園があることがこのビルの価値を高めていると社会全体に認識されて、不動産緑地がもっと広がればよいと思います。
森:J-POWERの藤木さんからは、電力会社の視点から質問をお願いします。
藤木:環境配慮型のスマートなビルであるばかりでなく、「ビルというハードウェアをライフスタイルとどう調和させるか」という問題意識をもっていることに感銘を受けました。今後こういったビルが増えていくために必要な条件とは、どんなものでしょうか。
久保田:規制の緩和があげられます。例えばこのビルでは、下部の下水施設から、飲料水として使えるレベルの水がつくれるにもかかわらず、保健所の規制によって、人が触れる恐れのある水への活用ができなくなっています。また、技術的には、将来的に蓄電池の性能があがると、オフィスごとに発電施設を設置して電力の安定供給を図るといったことができるようになるでしょう。
高橋:環境配慮型建築の推奨に関する法規制や環境性能の格付け評価などは、10年前に比べると格段と増えています。けれども、エコなビルをつくることが、すぐにテナントの入居促進につながるわけではありません。光熱費が安くなる、事業上の有効性など、テナントさんにメリットを感じていただけるような環境を整えていく必要があります。
仁藤:環境技術を盛り込んだことに関係なく、坪単価の比較で判断されてしまうのが今の現実です。入居テナントさんに対して多くのことを還元できるようなしくみができたらと思っていますが、法的な規制から、屋上で発電したものを電気自動車の発電用に売電するといったことも現在はできません。
森:それができるようになると、J-POWERの競合にもなるわけですね。
藤木:そういった時には、アライアンスを組みたいですね(笑)。
山下:これまで、緑地については「量」ばかりが注目されていましたが、最近やっと「質」に関心が向かうようになりました。「その場所ならではの緑」を導入するという観点が、受け入れられるようになっています。今後は、最小の資源で最大の効果をあげるようなエコな開発手法が、より積極的に採用されるようになればと思います。