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「生物多様性基本法」 詳細解説

読み:
せいぶつたようせいきほんほう
英名:
Basic Act on Biodiversity

2008年6月6日、わが国初の生物多様性の保全を目的とした基本法の「生物多様性基本法」が、公布・施行された。地球上には、大気・水・土壌などさまざまな環境に適応した多様な生物種がいて、海や山、森などでそれぞれの場所にあった生態系をかたちづくっている。また、すみ、育つ場所によって同じ種でも異なる部分があり、さらに、個体間でも形態や遺伝的な違いがある。生物多様性とは、こうした1) 生態系レベル、2) 種レベル、3) 遺伝子レベルでの生物の多様さを総称したものだ。人類を含めたあらゆる生物の存続の基盤であり、その保全は何よりも重要だ。

日本は、生物多様性条約の締約国として、生物多様性国家戦略(現在は第3次)で、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する基本方針や、国の施策の方向などを定めている。また、野生生物に関する法律として鳥獣保護法特定外来生物法、種の保存法などがあるが、法律ごとに理念や規制の背景がまちまちだ。生物多様性を将来にわたって確保するには、その保全に関する施策を総合的、計画的に推し進めていく必要がある。そのため、生物多様性国家基本計画の策定など、施策の基本事項を定める基本法をつくろうという意見が、国内で生物多様性保全などのために活動するNGO/NPOや与野党の一部議員の間で強くなり、2008年の第169回国会に本法案が議員立法により提出され、成立、施行された。

本法は前文で、生態系の多様さとそのもたらす恩恵などを再確認した上で、生物多様性が開発に伴う破壊や外来種によるかく乱などの深刻な危機に直面していると指摘。生物多様性のもたらす恵沢を将来にわたって享受し、次の世代に引き継いでいく責務を果たすことの重要性を述べている。また、本文は、1) 第1章「総則」、2) 第2章「生物多様性国家基本計画等」、3) 第3章「生物多様性の保全等に関する基本的施策」に大きく分けられる。

本法の目玉といえるのが、第3章「生物多様性の保全等に関する基本的施策」の中で、事業計画の立案段階における、事業者による環境影響評価(環境アセスメント)の実施を促す規定が設けられたことだ。生物多様性に影響を及ぼすおそれのある事業を行う事業者が、その事業の計画立案段階で自ら環境アセスメントを実施し、その結果に基づいて生物多様性保全の配慮を進められるように、国に必要な措置を求める内容で、事業の計画段階からアセスメントを求める戦略的環境アセスメントの考え方に近い。そのほかにも、野生生物の適正な保護や、自然環境の保全、外来生物による影響の防止、NGO/NPOなどの民間団体による自発的な活動や地域特性に応じた取り組みの促進、専門家の育成、政策形成への民意の反映などに関する事項を定めている。

前後するが、本法は第1章「総則」で、生物多様性の保全について次のように定義している。「生物の多様性の構成要素である生物を保護し、又は管理し、及び生態系を保全し、又は再生すること並びに生物の多様性を損なうことなくその恵沢を将来にわたり享受できるようこれらの持続可能な利用をすること」。また、生物多様性の保全に関する基本理念や、他の施策との連携、国、地方自治体、事業者、国民それぞれの責務、政府による法制上の措置、年次報告などについて定めている。さらに、第2章「生物多様性国家基本計画等」では、政府による生物多様性国家基本計画の策定と、そこで定めるべき事項や同計画の見直し、都道府県による生物多様性都道府県計画の策定、市町村による生物多様性市町村計画の策定などに関する規定を整備している。

一方、政府は本法施行後、野生動植物の種の保存や、森林、里山、農地、湿原、干潟、河川、湖沼など自然環境の再生・保全と生物多様性の保全に関する制度のあり方を検討し、法整備などの措置を講ずるとしており、これらの関連法の改正が行われることになる。2010年は国連の「国際生物多様性年」であり、同年10月には愛知県名古屋市で「生物多様性条約第10回締約国会議」(COP10)が開催される。主催国であるわが国が、本法の理念に基づき生物多様性保全の新たな施策を展開していけるかどうか、国際的にも注目されている。

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