A: 1989年に起きたバルディーズ号の原油タンカー座礁事故では、原油が海に流れ出し、ウミガラスやラッコなどに多大な影響を与えたと報告されている。海洋に流出した原油の一部は蒸発するが、残りは海洋中で拡散しながらムース状となり、水が分散して含まれるため粘性が高く回収が困難になる。また、ムース状になった油の一部は油塊(タールボール)に変化し、海上を浮遊するうちに比重の重くなったものは海底に沈む。このようにさまざまな姿で海洋に流出した油は、海洋生物に大きな被害を与える。また、油の中に含まれる分解されにくい成分は長期間にわたって海中や海底に残留し、海岸に漂着した油は砂地にしみこんで海にしみ出したりするため、汚染は長期化する。
このほか、海洋に投棄されたプラスチック類、発泡スチロール、プラスチック製品の中間材料であるレジンペレットなどが海鳥の体内に入ったりして多数の被害が出ている。さらに、森林伐採による土砂流入によってサンゴ礁の被害も世界各地から報告されるなど、海洋汚染はさまざまなところで生物に影響を与えている。
A: 1997年、日本海においてロシア船「ナホトカ号」から大量の重油が流出する事故が起こった。同事故では、海上に流出した油の拡散と漂着を防ぐためにオイルフェンスが張られたものの、荒天続きの日本海の高波のために油の流出をくい止めることができなかった。また、空中散布装置による油処理剤も海洋生態系への影響などを考慮して沿岸付近での使用が制限された。このため、重油は日本海沿岸に漂着し、とくに福井県の三國町の海岸には重油が流れ着き、漁業関係を中心に大きな被害が発生した。この報道を聞いた多くのボランティアが三國町にかけつけ、重油の回収作業にあたった。事故による影響としては、貝類及び海草類などの水生生物や海鳥など生態系への被害のほか、岩ノリなど漁業が大きな打撃を受けた。一方でこの事故は、わが国の海岸で発生した重大な海洋汚染であると同時に、市民に海洋汚染への認識を喚起したこと、そして、市民が海洋汚染問題に積極的に参加した点で、大きな意味をもつものとなった。