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コーヒーで旅する日本/東海編|ドリップコーヒーだけじゃない、個性的なアレンジで広がるコーヒーの世界。「珈琲だけの店 びぎん」

  • 2023年3月22日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも名古屋の喫茶文化に代表される独自のコーヒーカルチャーを持つ東海はロースターやバリスタがそれぞれのスタイルを確立し、多種多様なコーヒーカルチャーを形成。そんな東海で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

東海編の第14回は、名古屋・栄にある「珈琲だけの店 びぎん」。1951年創業という歴史あるコーヒー店には、時が止まっているかのような懐かしさが漂っている。「珈琲だけの店」だが、店で提供されているメニュー数は約20種類。あまり日本では馴染みのないアレンジコーヒーもメニューに並び、コーヒーだけとは思えない多様性には驚かされるばかりだ。店主の加藤壮風さんは店を継ぐ前に名古屋・東山公園の「自家焙煎coffeeマド」を営んでおり、コーヒー好きには知られた存在。そんな加藤さんが「マド」を閉店し、正式に父の跡を継いでから丸5年が経過した。「この店は残したほうがいいと思った」と店を継いだ理由を語る加藤さんは、コーヒー業界にどんな未来を描いているのか。

Profile|加藤壮風(かとう・まさかぜ)
1974(昭和49)年、愛知県名古屋市生まれ。コーヒー店を営む両親の元で育ち、幼いころから自分も「将来はコーヒー店主になる」と漠然と思っていたという。18歳から10年間にわたって父を手伝った後、5年ほどコーヒー業界から離れていたが、2008年に名古屋・東山公園に「自家焙煎coffeeマド」をオープン。2011年から自分の店と同時進行で再び「びぎん」を手伝うように。2012年に「自家焙煎coffeeマド」を閉店。2018年に父から「びぎん」を引き継いだ。現在、「自家焙煎coffeeマド」は愛知県蒲郡市で開催される人気フェス「森・道・市場」などのイベントや通信販売で活動。

■昔から親しまれている、深煎りのコーヒー
名古屋随一の繁華街である栄のど真ん中で、1951年から親子三代にわたって営業を続けている「珈琲だけの店 びぎん」。創業間もないころはレストランや喫茶店など営業スタイルをいろいろと変えていたというが、1973年ごろには現在の営業スタイルに。軽食やフードメニューは一切置かず、深煎りコーヒーのラインナップだけで勝負し続けてきた硬派なコーヒー専門店だ。

ビルの入口から階段を少し下りた半地下のような1階フロアには、古き良き時代のまま時が止まっているかのようなレトロな空間が広がっている。現在カウンターに立つのは、三代目の加藤壮風さんご夫婦。店内には創業間もないころの店内を撮影した白黒写真、木製の手動ミル、ラジカセなど古いものが溢れており、一部の道具は今でも現役で使われている。

「小学生の卒業文集にはすでに『将来はコーヒー屋さんになる』と書いていました」と話す加藤さんは、18歳の頃から店を手伝い、父に教わりながらコーヒーについての理解を深めてきた。2008年には名古屋・東山公園に「自家焙煎coffeeマド」をオープンし、コーヒー店主として独り立ち。「『マド』では『びぎん』のような強くて複雑な味にはせず、柔らかく親しみやすいコーヒーを作っていました。パウンドケーキなどフードも出していました」と話すように、父とは全く違う路線でコーヒー店を営み人気を博したが、2011年からは「マド」と同時進行で「びぎん」を手伝い、父を支えてきた。そして2012年、「祖父と父が作り上げてきたこの店を、後世に残したい」との思いから、「びぎん」に専念することを決めた。

カウンターに並ぶ豆のサンプルを見ると、どれも表面にオイルが浮かんでいるほど深く焙煎されている。「店のラインナップの中では比較的浅め」というキリマンジャロやモカ マタリでも、酸味のなかに深煎りらしい苦味や甘味がある仕上がりに。この複雑で力強い味わいが、コーヒー好きな常連たちに支持されてきた。ストロングスタイルの中にも、苦味・酸味・渋味のバランスが取れたガテマラ、苦味のなかにしっかりとした甘味を感じさせるマンデリンなど、それぞれの豆の個性はしっかりと表現されている。

■コーヒーに興味を持つ入口は、いろいろあった方がいい
メニューにはブレンド、ストレートともに4種類あり、いずれもコーヒーのコクやとろみ、甘味を存分に表現できるネルドリップで提供している。「深煎りの豆はお湯の温度を少し低めに、焙煎度合いが比較的浅い豆は少し高めに、など、感覚的なところで調整しながら抽出していきます。抽出中は蒸らしが一番大事だと思うので、豆の膨らみ方とか、コーヒーの色とか、落ちる速度とかを確認しています」

また、氷の溶け水で抽出する濃厚なアイスコーヒー「琥珀の雫」は、ノンシュガーで味わえるほか、たっぷりのミルクを加えたカフェ・オ・レとしても味わえる。ミルクに負けないコーヒーの香り高い風味が、なんとも贅沢な気分にさせてくれる。

ほかにも、スパイスが豊かに香るモカチャイ、乳脂肪18%のリッチなバニラアイスに超濃厚なコーヒーエキスをかけたアフォガードなど、アレンジコーヒーにも手の込んだものばかり。「モカチャイに使うコーヒーエキスをバニラアイスにかけた、スパイスアフォガードもあります。ノーマルなアフォガードは、マンデリンとコロンビアによる濃厚な苦味を楽しめるデミタスブレンドのコーヒーエキスを使いますが、スパイスアフォガードのコーヒーエキスは、香り高く酸味もあるモカ マタリを氷の溶け水で抽出して作るので、コーヒーそのものの個性も楽しんでほしいです」

ウクライナのルシアンコーヒーやメキシコのカフェ・デ・オジャなど、季節限定で登場する世界のアレンジコーヒーも興味深い。「季節メニューは、日本ではあまり知られていないレシピを調べたり、私の個人的なおやつをメニューにしたりしています。うちはフードがないので、スイーツっぽいものを意識することも。『珈琲だけの店』だからこそできるような、いろいろなコーヒーの楽しみ方を紹介していきたいですね」

■目指す味を表現する、焙煎士の技
長年にわたって親しまれてきた「びぎん」のコーヒーだが、焙煎方法は時代に合わせて少しずつ変えている。「『びぎん』の焙煎機は直火式で、基本的な焙煎方法は父に教わりました。さらに、勉強のために手回し焙煎機や半熱風式を扱ったこともあります。いろいろな焙煎方法を試してわかったのは、どんな焙煎機を使っていても工夫すれば同じところにたどり着ける、ということ。どんな道具を使ったとしても変わりません。また、生豆の品質も、ある程度焙煎で調整することができます。基本的な焙煎方法はありますが、具体的な温度や時間、タイミングなどは道具よりも感覚に頼ることろが大きい。煙の量や音、香りが指標となります。そのため、予熱の時間を長くするなど微妙な点で、父のやり方とは変えた部分もあります」。基本的な焙煎方法を学んでから、どのような味を目指すのか、また、その味をうまく表現できるかどうかは、焙煎士の腕の見せどころだ。

■おいしいコーヒーを名古屋名物に!
「私にとってコーヒーとは、仕事です。だからきっちりとやるし、手も抜きません」と真剣な面持ちで話す一方、「豆によっても味が違うし、焙煎の仕方によっても味が変わる。アレンジコーヒーもいろいろあって、とにかく楽しい!」と目を輝かせる加藤さん。祖父、父から託された店を守りながら、これからやってみたいことを聞いてみた。

「焙煎教室をやりたいと思っています。私が父から教えてもらったこと、自分で試行錯誤しながら学んだことから、基本的な焙煎方法をまとめて、たくさんの人に伝えたいです。そうして、おいしいコーヒーがどんどん増えるといいな、と思います。いずれは『名古屋といえばコーヒー』といわれるくらい盛り上がるといいですね!」

■加藤さんレコメンドのコーヒーショップは「珈琲舞姫(まき)」
「名古屋・千種の『珈琲舞姫』は、まだオープンして1年という新しさですが、早くもコーヒー好きの間で話題になっている大注目店。店をオープンするまでは、当店のあるヨシタカビルの屋上で『屋上喫茶』を定期的に営業してくれていました。店主の纐纈さんは、東海エリアのコーヒー業界の将来を担う期待の若手焙煎士です。彼女自身が大のコーヒー好きですし、どんな味を作っていきたいのか、飲んだだけでよくわかります」(加藤さん)


【珈琲だけの店 びぎんのコーヒーデータ】
●焙煎機/ラッキーコーヒーマシン直火式4キロ
●抽出/ハンドドリップ(ネル)、ウォータードリップ(氷点抽出)
●焙煎度合い/深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/100グラム570円~

取材・文=大川真由美
撮影=古川寛二


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