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中田英寿がシェアしたい“日本の新たな価値”「貴重な国産漆を守り伝える漆掻きの匠・飛田祐造」

  • 2021年6月19日
  • Walkerplus

中田英寿氏が47都道府県を旅して出会った日本の「わざ」と「こころ」。日本のことを知るために47都道府県を巡る中田氏の旅は6年半におよび、移動距離は20万キロになった。その間、訪れた地は約2000に。そこで中田氏は、現地に行かなければわからない、素晴らしき日本があることを知った。

ウォーカープラスでは、中田氏の「に・ほ・ん・も・の・」との共同企画として、珠玉の“にほんもの”をお届けする。

中田英寿
「全国47都道府県の旅で出会ったヒト・コトを、”工芸芸能・食・酒・神社仏閣・宿”に分けて紹介。日本文化を多くの人が知る『きっかけ』を作り、新たな価値を見出すことにより、文化の継承・発展を促していきたい。」

「漆の木は10年間育てたら1年だけ漆を掻きます。漆を掻いた木はそのまま伐採です。この方法は“殺し掻き”といって、質の高い漆をとるためには欠かせません。中国などでは3年くらいとるらしいのですが、私たちは1年だけ。その間に良質な漆をとるようにしています」

そう語るのは、この道66年、黄綬褒章(おうじゅほうしょう)も受章した漆掻き職人の飛田祐造さんだ。「漆掻き」とは、漆器や木工でも使われる漆の原料となる樹液を採取すること。採取する金具で幹を引っ掻くことからそう呼ばれている。

漆は抗菌性や耐久性が高く、芸術品だけでなく古くから建築や日用品にも使われてきた。海外でも日本の漆技術は評判が高く、“塗り”だけでなく、蒔絵や螺鈿といった“加飾(装飾すること)"の技も高度とあって、英語で漆芸品を「japan」と呼ぶこともあるほど、日本の工芸を代表するジャンルだ。

豊かな自然で知られる茨城県大子町は、上質な「大子漆」がとれることで知られている。茨城県は岩手県に次ぐ全国2位の漆の生産地だが、その多くがこの大子町産。約1万本の漆が植えられたこの町で、飛田さんは仲間とともに大子漆保存会を立ち上げ、長年、漆文化を守ってきた。

訪ねたのは2000本ほどが植えられた漆の林。このうち1年に掻くのは200本ほど。飛田さんの教えに従って中田英寿も漆を掻く。先が曲がった独特のナイフのような「掻きカマ」と呼ばれる道具で幹に細い傷をつけ、そこからゆっくりとにじんでくる樹液をすくって容器に入れる。

「なかなか漆が出てこないですね」と中田が言うと、「1本の木から1年かけてとれるのは牛乳瓶1本くらい。だから1滴も無駄にはできません。漆掻きの最盛期である夏場は幹に垂れるくらい出ることもあるんですが、秋から冬にかけてはにじむ程度です。とれる時期によって質が変わりますし、用途も変わる。だから1年かけてじっくりとらなければならないんです」と飛田さんが漆の希少さについて話してくれた。

1回の漆掻きでとれる漆は耳かき1杯分くらい。これを牛乳瓶1本分集めると思うと気が遠くなる作業だ。

「無理に掻こうとすると、ゴミが混ざってしまうので焦りは禁物。最初は小さな傷をつけて少しずつとって、少しずつ傷を大きくするのがうまくいくコツです」と飛田さんは話した。

ふと横を見ると、役割を終え伐採された漆の幹が積み重ねられていた。10年かけて育てた木からほんの少しの樹液だけをとる。その光景を見ただけで漆がいかに貴重な素材かということが理解できた。

現在、国産の漆は非常に貴重なものとなっており、日光東照宮をはじめとする文化財の修復などに主に使われている。日本で流通している漆は中国産が多い。国産の漆がなくなってしまうと、日本の伝統文化の多くが継続困難になってしまうだろう。日本文化を守るためにも、飛田さんの後継者があらわれることを願わずにいられない。漆の苗づくりから育成、採取を守る大子漆保存会の活動にも注目だ。

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