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2023年は深刻な水不足に陥った北アルプスの山小屋 暖冬予報通りなら2024年も渇水のおそれ

  • 2023年10月26日
  • tenki.jp

2023年の夏から秋にかけて、北アルプスの一部の山小屋は深刻な水不足に陥りました。水は登山者にとって生命線ともいえるものですが、飲み水の提供を制限せざるをえない山小屋もあったようです。主な原因は、冬の積雪量の減少や春の高温だと考えられ、来年の水不足も懸念されます。

北アルプスの山小屋 水源は主に残雪と天水

山岳では飲料水は貴重品です。とくに稜線付近の山小屋は非常に水が得にくく、残雪と天水(雨水)が欠かすことのできない水資源として活用されています。ただし高い山は降水量が安定して得られるところではありません。富士山測候所に勤務した経験のある方にお話しを伺ったことがありますが、山頂というのは意外に雨が少なく、麓では雨が降っていても山の頭は雨雲から抜けてしまうことが多いということでした。したがって稜線に近い山小屋の多くは平時から水不足の傾向があり、蛇口から水の流しっ放しなどもってのほかだということは登山者の間では常識だと思います。

今年の北アルプスの水不足は深刻でした。梅雨明け後の7月下旬ごろから水が枯渇しはじめて飲み水の提供を制限する山小屋が現れました。山小屋やビジターセンターでは登山者に対して、山小屋の水をあてにしすぎず、普段より多くの飲み水を持って登るように呼びかけるようになります。結局夏の間は状況が改善せず、深刻な水不足が夏山シーズンの終盤まで続きました。


「短い冬」と「暑い春」が水不足につながった

いったいなぜ、2023年は深刻な水不足に陥ったのでしょうか。

前シーズンの2022年冬から水不足につながるような現象が立て続けに発生し、結果的に夏の渇水につながったものだと思います。最初の現象は冬の間の降雪量の減少です。次のグラフは上高地と白馬にあるアメダスの2022年12月から2023年3月の降水量を積算したものです。

この期間の総降水量は上高地で平年の約85%、白馬で約74%となり、平年に比べて少なくなりました。ただし、統計の上位に入るような記録的な少なさというわけではありません。降水量や雪の少なさだけを見れば今年より少なかった年はあります。続いてやってきたのが記録的に暖かい3月です。以下のグラフは白馬の日平均気温で、9日移動平均をとって滑らかに処理したものです。

3月から4月の高温傾向が目立っています。7月下旬から9月の全国的な猛暑が記憶に新しいですが、平年との差を比較すると春の高温の方が大きなものです。2023年の春の高温は記録的なもので、気象庁によると東日本全体でも1946年の統計開始以降3月として最も暖かくなり、日本海側の日照時間が最も長くなったということです。冬が短くなり春が暑くなりました。

こうした冬と春の「異変」によって十分な積雪を蓄えることができなくなったため、5月以降の雪解けが非常に速いペースで進んだことが水不足の大きな要因だと私は考えています。北アルプスの山小屋の中でも、とくに北アルプス北部では水資源における天水の割合が少なく雪渓等から取水する割合が高いため、雪解けが早く進んでしまうと水の確保が非常に難しくなります。

また、5月以降は降水があっても積雪増加につながらず、むしろ降雨によって雪解けが進むことから、関東甲信の梅雨の降水量が平年比110%だったことは水不足の解消につながらず、7月下旬の梅雨明け直後から深刻な水不足に悩まされた山小屋が出はじめました。

そこに追い打ちをかけたのが7月下旬から9月にかけての高温・少雨です。夏山シーズンで登山客が増えるタイミングで、北アルプス周辺では降水量が少なくなりました。横尾や徳澤を流れる梓川の流量が極端に少なくなり野生のサルが川で魚を捕まえる様子がニュースで流れるなど、たいへん珍しい現象もみられました。一方で登山者は年間で最も多く、水の消費量は増加します。結果的に水不足はより深刻なものとなりました。

今冬は暖冬予想 来年も水資源は貴重

深刻な水不足は2023年だけの特別な事象ではないかもしれません。9月に発表された気象庁の2023年から2024年にかけての寒候期予報によると北アルプスがある関東甲信および北陸地方で、冬(12月から2月)の気温は高く、日本海側の降雪量は少なくなる可能性が高いと予想しています。シベリアからの寒気の流れ込みが弱いため冬型の気圧配置が持続しにくい見通しです。また、今後の天候を大きく方向付ける可能性があるものが、2023年の春に発生し現在も続いているエルニーニョ現象です。エルニーニョ現象の発生時、日本では冬の気温は平年並みか高く、春の気温は高くなる傾向があります。2024年も雪解けが早くなり、水資源は例年以上に希少なものになるかもしれません。

さらに将来を考えると事態はもっと深刻です。温暖化に伴う月別の気温上昇率では、3月の温度上昇が最も大きくなっています。冬の間の降雪量が減少するとともに3月が急速に温暖化することによって、北アルプスが深刻な水不足に陥るケースが増えるのではないかと懸念しています。

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