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描いて、知る、気づく。自然観察とスケッチ ~身近な自然を絵に残す~(前編)

  • 2023年11月28日
  • NACS-J
 日本自然保護協会が自然観察会を行う上でスケッチを推奨してきた理由と、自然観察におけるスケッチの楽しさについて、自然観察指導員※を養成する講習会の講師であり、日本自然保護協会監事の吉田正人さんに聞きました。

※自然観察指導員とは、「自然観察からはじまる自然保護」を合言葉に、地域に根ざした自然観察会を開き、自然を守るための仲間をつくるボランティアリーダーです。
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描きながらの気付きと、
後で見返す面白さがある


 自然観察指導員講習会(以下、講習会)には、スケッチをする時間がプログラムに組み込まれています。野外実習を行う森に入る前に数分の時間を設け、遠方から森をスケッチし、それを受講者同士で共有する。描くことで深く自然を観察でき、また人によって自然の見方がさまざまであることを学びます。

 「絵を描くことを自然観察に取り入れたのは、講習会の創始者の一人である青柳昌宏先生の思いによるものでした。漠然と風景や生きものを見るだけではなく、絵に残すことで新たな発見につながる。そんな効果を期待してスケッチが講習会に導入されたのだと思います」

 こう話すのは、長年、講習会事業を担当もされた筑波大学教授の吉田正人さん。自然観察におけるスケッチの重要性は広く知られるようになりました。とはいえ、自然観察会にスケッチをする時間がどれぐらい組み込まれているかといえば、そこまで多くはないのではないかと吉田さんは言います。

 「観察会の限られた時間の中で絵を描く時間が取りづらいということが一因かと思います。ただ、3年前から毎日のように絵を描く習慣を続けている私が気付いたのは、わずかな時間でも絵を描く意味は十分にあるということです。また、自然観察や観察会の最中でなくても、家に帰って数分でも絵を描く時間を作ることで、気付けることがとても多いということも知りました」

 吉田さんが毎日のように絵を描き始めたきっかけは、2020年のコロナ禍でした。大学の講義などオンラインの仕事が増え、身の回りの自然に触れる機会が増えたこと、また‌ネイチャージャーナリング関連の本に出合ったこともあり、少しずつ絵を描き始めたのだそうです。

 「それまでもフィールドノートに文字や数値を記録しながら小さな挿絵を描くことはしていましたが、記録としての絵をちゃんと描くことには若干のハードルを感じていました。絵を描くのは苦手でしたから。でも実際に絵を描いてみると、改めてその大切さに気付くことができました」

絵を描くことが、
自然と向き合う時間となる


 何よりも絵を描くことで、対象物と向き合う時間を作れたのが大きかったと吉田さんは話します。

 「写真はずっと撮ってきました。でもシャッタースピードが1/400秒だとしたら、その前後を含めても、生きものと接している時間ってものすごく短いわけです。ところが30分ほどかけて絵を描くと、たとえ写真を見ながら描いたとしても、それだけの時間を対象の生きものと接しているわけで、色々と気付くことが多いんですね。例を挙げますと、ハマオモトヨトウの幼虫を描いていたときに、頭の模様がテントウムシにそっくりだと気付いたんです。テントウムシって捕食者ですから、それへの擬態は他の虫が嫌がる効果があるのではないか? とか、そんな発見がありました。ほかにもクモの目って8つもあったんだと改めて気付いて自分の中に染み込んでいくような体験がたくさんできたんです」
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▲上からウメエダシャク、卵を腹に蓄えたニホンアカガエルのメス。日付や場所などの情報を書き込んでおくことで、記録として残すことができる

子どもの教育や、自身の
内省面にも効果をもたらす


 吉田さんが毎日のように絵日誌をつけ始めたのは1年前。ネイチャージャーナル関連の本を読み、自然観察とスケッチの相性を改めて感じたことが大きなきっかけだったと言います。

 「アメリカのクレア・ウォーカー・レスリーさんとジョン・ミューア・ロウズさんの本に書かれていたことは、私たちが講習会で常々言ってきた『描くことで色々なことに気付ける』ということ、まさにそのものだと思いました。

 また、ジャーナル(日誌)にスケッチを描くこと自体が癒しになるともクレアさんは書いてます。人生を豊かにする一生の趣味になりうるとも。描くことは子どもの教育面にも自分の内省面、その両面に良い効果をもたらすんだと、改めて再確認した気になりました。
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▲吉田さんが参考にしたネイチャージャーナリング関連書籍。クレア・ウォーカー・レスリーさんの『Keeping a Nature Journal』『Drawn to Nature - Through the Journals of Clare Walker Leslie』とジョン・ミューア・ロウズさんの『How to Teach Nature Journaling』『Nature Drawing and Journaling』(この一冊のみ『見て・考えて・描く自然探究ノート』として翻訳本が日本でも出版。)

 絵を描いてみると、すぐに色々なことに気付くようになったそうです。

 「先に話したハマオモトウヨトウの擬態もそうですが、他にも気付いたことはたくさんあります。ジョロウグモだと思っていたクモが、絵を描いているうちに少し違うなと思って図鑑で調べてみたら、以前は千葉県にはいなかったスズミグモでした。元々南方に生息するクモが温暖化で分布域を広げていたんですね。絵を描かなければジョロウグモだと思ったままだったに違いありません。その日の観察で見た中で一番のスタープレイヤーだけでもいいから描いてみることで、色々と気付けるのではないかと思いました」
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▲「腹部背面の模様が顔のように見える」スズミグモ
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▲「角をつきあわせる」キョン。スケッチは、それぞれの観察風景とともに描いた時の思いまでよみがえってくる

フィールドノートからの清書
というスタイルもあり


 実際に目の前で見た生きものや自然をその場で絵にするのが一番の理想なのかもしれません。とはいえ、生きている動物は描いている間にいなくなってしまうことも多く、吉田さんは写真に撮ってあとで絵に書き起こすだけでも気付くことは多い、と言います。

 「その場で風景をスケッチすることもありますが、多くの場合は小さなフィールドノートに描いた簡単な絵とメモ、それに写真を撮っておいて、あとでスケッチブックに清書するスタイルです。それでも十分に生きものと向き合うことはできますし、あとになって見返したくなる一冊になります」
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▲吉田さんが主に近所の自然観察の際に記録しつづけているフィールドノート
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▲ノートにメモした一場面をスケッチブックに清書することで、見返してみたい記録になる

 吉田さんのスケッチブックを見せてもらうと、そこには丁寧に線が引かれ彩色された絵が大きく描かれていました。最初は上手く描けずに戸惑ったり、色にばかりこだわって遠回りしたこともあったそうです。

 「毎日描いていれば、自分なりに少しずつ上手くはなっていくものです。でも、自然観察におけるスケッチは、芸術作品を作るわけではなくて、あくまでも日誌的なジャーナルです。このコジュケイ(最初のスケッチ画像の右上)なんてハトのお菓子みたいでしょ(笑)。それでもいいから疑問に残ったことや興味を引いたことも描いておく。あとから見た時に、何かを発見するヒントになりますから。コジュケイはすぐに逃げてしまったので写真も撮れず、記憶だけで描きましたが、その時になぜ歩いて逃げるんだろう? と疑問が湧きました。歩いて歩いて、最後に飛ぶんですけどね。だったらなぜ最初から飛ばないのだろう? そんな疑問もメモしておきました」

<後編に続く>

話し手:吉田正人
筑波大学教授。NACS-J監事。高尾ビジターセンター解説員を経て、30年以上にわたり自然観察指導員講習会の講師を務める。

本記事の文、イラスト、写真等の無断転載を禁じます。

自然観察指導員
自然観察指導員とは、「自然観察からはじまる自然保護」を合言葉に、地域に根ざした自然観察会を開き、自然を守るための仲間をつくるボランティアリーダーです。詳しくはこちらをご覧ください。

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