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「賢い子」を創るアウトドア体験とは? 実践から学ぶ、子どもの脳力としなやかな心の育み方

  • 2021年11月16日
  • 暮らしニスタ

アウトドア体験が子どもたちの脳と心を成長させる―――そう伝え続けている東北大学加齢医学研究所教授で脳科学者の瀧靖之先生。

様々な脳科学研究の成果から、自然の中で知的好奇心を膨らませ、試行錯誤する体験を重ねることで、子どもの脳は健全に賢く育っていくことがわかってきたそうです。

さて、自然の中で新しい体験をすることで子どもたちにはどんな変化があるのでしょうか。「暮らしニスタ」ファミリーの姿を追ってみました。

緑に囲まれた渓流で初めての釣り体験!

とある秋晴れの日。瀧靖之先生と一緒に、暮らしニスタファミリー3組が初めて釣りを体験する会が開催されました。会場は、自然の地形を生かした東京都青梅市の多摩川渓流沿いに位置する管理釣り場です。

参加ファミリーは、左から
・奥田倫子さん、そうすけ君(小3)
・ちゃこさん、祐月ちゃん(小6)、武史君(小4)
・junkaさん、椛(もみじ)ちゃん(小3)
・瀧靖之先生、悠斗君(小4)

瀧先生ご自身は「息子といっしょに年に何度か釣りに行くんですよ」という釣り好きで、長男・悠斗君(小4)と一緒に参加してくれました。一方、3組の“暮らしニスタ”ファミリーは、釣りはほとんど初体験。

子どもたちは救命用具を着用してしっかりと安全対策を行い、いよいよ釣り体験がスタートします!

最初は緊張。生きた虫をエサにできる?

今回は、初心者向けの釣り場で、ニジマス釣りにチャレンジ。

まずは釣りのコーチ・茂手木省吾さんから、ニジマスの習性、釣り竿の使い方、エサのつけ方などを説明していただきました。子どもたちは、実際にニジマスを見て興味津々。じっくりと観察します。

しかし、釣りで使うエサの話になると一転、不安そうな表情に…。釣りバリの先につけるエサは2種類あって、一つはイクラ、もう一つは生きている虫!白くて丸いブドウ虫という虫は、指で触るとぴくぴく動きます。

「最初はイクラでも釣れますが、魚も賢いので少しずつだまされなくなってしまいます。イクラの食いつきが悪くなったら、ブドウ虫に変えたほうがいいですよ」と茂手木コーチが説明。すると、子どもたち「ムリムリムリ」という顔に……。

そんな戸惑いと共に始まった釣り体験でしたが、釣りに夢中になるうちに徐々に子どもたちの表情に変化が。

釣り体験には子どもの脳力や心を育むポイントが各所にありました!

瀧先生の解説とともに、レポートします♪

「気持ち悪い…」「でも挑戦する!」新しいチャレンジは“模倣”から

「魚を釣ってパパに食べさせたい!」と張り切っていた小3の椛ちゃん。イクラをエサにしましたが中々釣れません。

そこで、「私は虫にしてみる」とjunkaママ。「この虫、プニプニしてて手触りがいいよ。ママは全然平気!」と椛ちゃんに言うと、椛ちゃんもブドウ虫に興味を示し始めました。その直後、ママの釣り竿がしなり、あっという間にニジマスをゲット。

「椛、ブドウ虫の方が絶対釣れるよ!」というママの言葉に、椛ちゃんも「虫で釣る!」と決意。おっかなびっくりブドウ虫をつかみ、釣りバリに刺します。「怖くない?」と聞くと「大丈夫」。

その後は、いつの間にかブドウ虫を怖がることなくハリにつけることができるように。

そばで見ていたjunkaママは、「椛が素手で虫を触るなんて!」と驚いていました。

そして念願のニジマスゲット!

瀧先生は、「ママが椛ちゃんの見本になったんですね」と解説します。

「人は新しいチャレンジをするときに、誰かを模倣するんです。これを“モデリング学習”と言います。最初は『虫なんか気持ち悪い』と全否定だった椛ちゃんの変化を促したのは、junkaさんのチャレンジです。親が楽しんで挑戦することで、子どもの世界はどんどん開け、成長していきます」

「虫や魚、触ってみようかな」苦手を克服する強い心“レジリエンス”が育つ

小3のそうすけ君は「虫はイヤです!」「魚は触れません」ときっぱり。

しかし、コーチに教わりながらハヤという小さな魚を釣り、その後どんどんニジマスを釣り上げると、「釣り竿が引っ張られるのはめちゃくちゃ楽しい!」と満面の笑顔に。

最初は魚を恐る恐る見ていましたが、しだいに「虫や魚に触る挑戦をしてみたい」という気持ちが生まれたよう。

軍手を着けてですが、虫を拾おうとしたり、最後は見事に手でしっかりと魚をつかむことができました。倫子ママも一緒ににっこりです。

瀧先生は「このように、困難に立ち向かい、克服しようとする力を“レジリエンス”と言います。釣りなどのアウトドアでは、初めての挑戦や困ったこと、失敗体験などが多々ありますよね。それを何とかしようとすることで、レジリエンスが鍛えられるんです」と解説。

レジリエンスは、ストレスフルと言われる現代で、心を健やかに保つためにも重要な力として注目されているのだそう。

「どうすれば釣れる?」試行錯誤が脳の実行機能を高める

午前中、次々と魚を釣り上げていた小4の武史君。「水が透明だから魚が見える。魚が集まってきたら少しだけエサを動かすと釣れるんだよ」と、オリジナルの作戦を編み出していたようです。

姉の祐月ちゃん(小6)はちょっと苦戦。最初に1匹釣れてからは、まったく釣れなくなってしまったそうですが、ここから祐月ちゃんのチャレンジが始まります。

釣り場を何度か変えてみたり、エサも「ダブルでいきます」と、ブドウ虫をハリに刺したあとでイクラも2粒追加するなど、工夫を重ねました。

瀧先生は「その試行錯誤が大事なんです」と言います。

「釣りには『こうすれば必ず釣れる』という正解はありません。考えて、試してみて、失敗したら理由を考えて、また次の方法を試す……それを繰り返すことで、“思考力”が鍛えられ、脳の“実行機能”が向上するんですよ」。

「実行機能とは、計画ややり方を考えて最後までやり通す力です。実行機能は、“賢さ”を司る前頭前野と大きくかかわっています。正解のない自然と向き合うことが、子どもの賢さを育てていくのです」。

「釣れた!」その達成感が自信となり、子どもの自己肯定感が高まる

小4の悠斗君(瀧先生の息子さん)は、慣れた足取りで岩の上を移動し「こっちの方が釣れそう」と自分のスポットを探しています。

瀧先生はその姿を見守りつつ、「大人は余計な手出しをしないことも大切です」と言います。

「子ども自身でどんどんコツをつかんで上手になることで、大人にほめられるし、釣れると自信になります。アウトドアには、子どもの自己肯定感が高める場面がたくさんある。それがすばらしいんです」(瀧先生)

悠斗君、いい笑顔です!

「自己肯定感とは、自分は何かを成し遂げられる存在だ(自己効力感)という気持ちや、自分は何ものにも代えがたい大事な存在だ(自尊感情)と信じられる気持ち。よい人間関係を築くうえで自己肯定感は欠かせません」(瀧先生)

「釣れたよ!」「すごいね」そんな会話がたくさん聞こえてきました。さらに、「自分でやり遂げた」からこその、子どもたちの自信に満ちた笑顔が印象的でした♪

「午前中で8匹釣った。魚は触れるようになったよ」と、ちょっぴり自信をのぞかせていたそうすけ君。

姉弟でさまざまな工夫を凝らしてニジマスを釣り上げていた祐月ちゃんと武史君。

「もう虫は全然怖くないし、魚を触るのも平気」と笑顔の椛ちゃん。

自分で釣ったからおいしい!食事にもいい影響が

午前中釣りに熱中し、おなかはペコペコ。釣り上げたばかりのニジマスを炭火で焼いてみんなでいただきました。

茂手木コーチに食べ方を教えてもらい、串を両手で持って、背中からかぶりついていく子どもたち。皮はパリッ!身はふっくら! 

中骨をかみ砕いてモリモリ食べていたのは、そうすけ君。「家だと丸ごと骨まで食べたことなんてないのに」とママ。

そうすけ君に影響を受けてか、ほかの子たちもみんな完食。

祐月ちゃんは、魚の標本のようにきれいに食べ、コーチにほめられていました。

「自分で釣ったという体験とみんながおいしそうに食べていること、これが子どもたちにいい影響を与えるんです」と瀧先生。

アウトドアの力はコミュニケーション能力を育てる

食べ終わると、子どもたちが集まって遊んでいました。いつの間にか仲良くなっている姿に、「アウトドアは、人間関係を創るうえで欠かせないコミュニケーション能力を育てるんですよ」と瀧先生。

「自然環境の中では、新しい体験が次々にやってきます。みんな最初は不安だから、ほかの子の動きを参考にしますし、助け合う。仲間意識も育ちます。これもアウトドアの力です!」

知的好奇心は学びの原点。「不思議だ」の気持ちが世界を広げる

釣り体験を終え、釣り場のスタッフにニジマスの内臓を処理してもらい、持ち帰ることになりました。その作業の途中でスタッフがテーブルに小指の先ほどの赤い内臓を置くと…

「ニジマスの心臓だよ」。小さな心臓がピクンピクンと脈打っています。息を飲んで見つめる子どもたち。「え、なにこれ?不思議…」との声が上がります。

「釣りもそうですが、アウトドアには『不思議だな』『これは何だろう』という発見がたくさんあります。知的好奇心の芽がたくさんあるんです。知的好奇心は学びの原動力。

例えば、医学部の学生の中には、子どもの頃に昆虫や魚が好きだったという人が本当に多いんですよ。アウトドアの体験そのものが子どもの好奇心を育て、それが学習にもいい影響を与えてくれます」(瀧先生)

親子での釣り体験を振り返ってわかったこととは?

最後に、瀧先生とママたちに親子での釣り体験を振り返ってもらいました。

すると、3人とも口を揃えたのが、「子どもの違う一面を見られた」「この1日で子どもが成長した」ということ。

「虫も魚も触りたくないと言っていたのに、自分で釣り上げたことで変化があったのか、軍手を着けてはいたけれど触ることにチャレンジしていて驚きました」と奥田さん。

Junkaさんは「最後まで、もっと釣りたい!と言っていて、その集中力に感心しちゃいました。夢中になるってすごい!」と言います。

「苦手を克服する“レジリエンス”が鍛えられたり、好奇心が刺激され“集中力”が増したり。アウトドアは子どもが大きく成長する場面がたくさんありますよね」と瀧先生。

そして、瀧先生も「実は私も驚いたことがあるんです」と笑います。

「息子は魚が苦手で、丸ごと1匹の魚なんて家で食べたことがないんです。でも、今日はペロリと食べていました。親に『食べなさい』と言われるより、ほかの子がおいしそうに食べている姿を見る方がよほど効果がある。これも模倣の一つですし、コミュニケーション能力の表れでもあります」。

ちゃこさんは、「我が家の子どもたちは、習い事があっていつも気を張っているようなところがあるんです。でも今日は釣りをしながら顔が輝いているように見えました」とのこと。

すると、「アウトドアを経験すると、主観的な幸福度が高まると言われているんですよ」と瀧先生。

「日常生活の中で、私たちの脳は知らず知らずのうちに緊張を強いられています。けれど自然の中では脳の緊張がほぐれ、理屈よりも五感が優位になって幸せを感じる気持ちが高まるんです。これも健やかなで前向きな心を育てるために大切なこと」。

心から楽しむ大人の姿を見て子どもも楽しむ。だから親子で思いっきり楽しもう!

さらに、3人のママたちからは「自分が子どもより夢中になって楽しんだ」との声も。

瀧先生は「それがいいんですよ」と言います。

「子どもをやる気にさせるための最大の条件は、大人が本気で楽しむことなんです。子どもは模倣の能力が非常に高いので、信頼できる大人が楽しそうであれば自分も楽しくなりますし、イヤイヤやっていたらイヤになる。

今回は皆さんが本当に楽しそうだったので、子どもたちも安心して楽しむことができたんでしょうね。親子で思いっきり楽しむ、これがアウトドアで子どもの脳を育てるための第一歩です」

釣り体験を通して子どもたちの心の中に開いた好奇心の扉、そして数々の成長。

子どもたちは帰り際、「楽しかった!」「絶対またやりたい!」と少し逞しくなった笑顔を見せてくれました。

このコロナ禍で密にならず安全に楽しめるアクティビティとして大人気の釣りは、家族でエンジョイできるだけでなく、子どもの脳と心の成長や幸福度にも影響することが分かりました。

本当の意味での“賢い子”を育む体験がアウトドアには詰まっています。ぜひ、親子で自然の中に出かけてみてはいかがでしょうか。

撮影/土屋哲朗

取材・文/神 素子

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