東京都2つ分以上が1週間もたたないうちに燃えるなんて…。
テキサス州最北端のパンハンドルと呼ばれる地域で、強風が吹き荒れていた2月下旬に発生した山火事によって2人が死亡し、数日で東京都2つ分以上の面積を焼き尽くしました。
テキサス州の火災を監視しているTexas A&M Forest Serviceによると、2月下旬に発生した山火事の焼失面積は130万エーカー(約5260平方キロ)に迫っています。
日本の都道府県と比較すると、千葉県や愛知県の面積に相当、東京都の2.4倍、東京23区の8.4倍にあたります。
強風にあおられた火の勢いはすさまじく、火災発生から数日で4500平方キロを焼きました。数日で東京都2つ分って恐ろしくないですか?
The Smokehouse Creek Fire in the Texas Panhandle is the largest wildfire in Texas history, spanning the size of Rhode Island. The fire is an estimated 1,058,482 acres and 87% contained. pic.twitter.com/RQtv8kjbL9
— Texas A&M Forest Service (@TXForestService) March 8, 2024多発的に発生した火災の中でもっとも猛威を振るっているSmokehouse Creek Fireは、テキサス州史上最大となる105万エーカー(4250平方キロ)超を焼いて、まだ燃え続けています。
Image: National Interagency Fire Centerまた、National Interagency Fire Center(全米省庁合同火災センター)のデータでは、3月8日までにアメリカ全体で発生した山火事の約85%がテキサス州に集中しており、2014年以降で最大規模、過去10年の平均の7.7倍になっています。「Everything is bigger in Texas(テキサスはなんでもデカい)」と言われますが、災害は小さい方がいいです。
なお、今回の山火事による焼失面積は、2017年から2021年までの5年間に発生した山火事3682件を合わせた140万エーカー(5670平方キロ)に匹敵。5年分近くを1週間で焼いてしまう激しさになっています。
畜産業が盛んなパンハンドル地方は、世界最大の畜産市場といわれています。テキサス州における畜牛の数は、昨年時点で1200万頭。そのうちの1020万頭がパンハンドル地方で飼育されています。
州当局によると、これまでに焼死した牛は7000頭にのぼるそうです。この数値には、農家が山火事から逃げ切れないと判断して安楽死させた牛は含まれていないとのことです。最終的に犠牲になった牛は1万頭を超えると推測されています。
畜牛1頭あたりの損失は2500ドル(37万円)から3000ドル(44万円)と見積もられていますが、FEMA(米連邦緊急事態管理局)の援助は得られないため、家畜を失った農家の経済的損失と生活再建が心配です。
Massive wildfires burning in the Texas Panhandle sent cattle fleeing from the smoke. https://t.co/5PrXIHBO85 pic.twitter.com/RP62inDfKO
— CBS News (@CBSNews) February 28, 2024山火事発生当初には、逃げ惑う家畜の群れの様子がSNSに投稿されていました。
テキサス州のグレッグ・アボット州知事は、火災によってパンハンドル地方で最大500棟の建物が焼失したと発表していますが、一部の被災者は二度と同じ場所で生活できなくなるかもしれません。
というのも、気候変動が寄与する気象災害の増加と深刻化の影響もあって、テキサス州の住宅保険は全米でもっとも高く、保険料の値上がり幅も全米平均を上回っているため、保険未加入者が少なくありません。
都市部の住宅保険未加入割合は11%ですが、パンハンドル地方のような農村部では26%が住宅保険に加入していない状況です。山火事終息後の復興でも、低所得層を中心に住宅保険料高騰の影響をもっとも受けている住民は厳しい現実に直面しそうです。
パンハンドル地方の小さな市や町にとって、山火事の深刻な被害から立ち直るのは簡単な道のりではありません。
まず、連邦政府からの支援が期待できません。4500万ドル(約66億円)以上の損害がなければFEMAの援助を得られないため、被害を受けた人々は、自治体と州政府だけでなく、非営利組織や宗教団体、民間からの支援で復興しなければならず、未来は不透明です。
山火事の原因についてはまだ調査中ですが、州史上最悪の規模になったSmokehouse Creek Fireは、電線の発火がきっかけになったと指摘されています。
倒れた電柱を管理するミネソタ州が本拠のXcel Energyは、証券取引委員会への報告書の中で、火元と考えられる電柱と電線の保全を命じられていると明らかにしています。
山火事の被害者数人がすでに同社を相手取って訴訟を起こしています。今後も訴訟に加わる被災者が増えそうです。
訴訟を起こしたSalem Abrahamさんは、山火事関連で事業者を訴えるのは過去30年で5件目になるそう。電線が発火原因になるのは、今回で2回目とのこと。同じことの繰り返しを止められないものなんでしょうか。
なお、Xcel Energyは2021年にコロラド州で発生した山火事関連でも300件近い訴訟を起こされています。
近年は高温と乾燥が常態化している印象を受けるアメリカ南部から西部で山火事が発生すると、「温暖化の影響なのでは?」と脳裏をよぎるかもですが、そのあたりはなかなか複雑なんですよね。
テキサス州で発生した大規模な山火事の90%が乾燥しがちな1月から5月に集中していますが、今回の山火事が発生した時のパンハンドル地方は、干ばつ状態にありませんでした。ただし、山火事発生の数日前から気温が高く、強風が吹いていたため、比較的乾燥していたであろう植生とのコンビネーションで一気に燃え広がったのではと考えられています。
テキサス州の気候分析を担当している気候科学者であるJohn Nielsen-Gammon氏は、気候変動によって山火事が拡大しやすい暑く乾燥した気象条件が増えるため、山火事シーズンの開始が早まり、長く続くようになる可能性が高いと説明しています。
また、テキサスA&M大学の気候科学者、Andrew Dessler氏は、程度の大小はあるものの、すべての山火事が気候変動によって悪化していると言ってもいいのではないかと述べています。
山火事による大気汚染も深刻です。昨年カナダで発生した山火事では、アメリカの北東部や中西部の空がオレンジに染まるほど、煙が運ばれました。山火事による大気汚染は、身体と精神の健康に影響します。
将来的な山火事の防止と被害抑制のために、計画を策定・実行するのも重要です。それに加えて、山火事の深刻化を抑えるために一刻も早く排出量削減を実行するとともに、その影響が特定の層に偏らないように、公平な社会づくりを進めるのも大事なのではないでしょうか。
Reference: Texas A&M Forest Service (1 , 2), Texas A&M Forest Service / X (旧Twitter), National Interagency Fire Center, Amarillo Globe-News (1, 2), AP (1, 2) The Texas Tribune (1, 2, 3), CBS News, BBC (1, 2), The Climate Brink